勇者はパープルと出会う
独善島はまあまあ狭い。健脚であるなら、一日で外周を回ることも可能である。と説明されたが、どう見ても肥満で運動不足のおじさんの言なので信用できない。
「ぜえ、はあ、ぜえ、はあ」
片翼の男と歩き始めてまだ五分ぐらいしか経っていないのに、すでに肩で息をし額に出た脂汗をハンカチで拭っている。
益々もって胡散臭いが、隣のおじさんは立派な奴隷商人らしい。独善島との取引も長く、新参者のおれがどんな奴隷を持ってきたのか知りたくて、声をかけてきたようだ。
「若い娘を一人だけ」
正直にそう言ったら、おれのことは商売敵ではないと判断したのか、饒舌に色々と島のことを説明してくれた。
それによると独善島は火山島で、噴火によって形成された島のようだ。しかも、死火山ではなく活火山であり、いまも数年の頻度で噴火しているとのことだ。
「でもご安心を。今はその周期ではありませんぞ」
フラグかな? とも思うが、深く追求するのはやめよう。現実になったら嫌だからな。
「ところで、おれたちはどこに向かっているんですかね?」
入島してから絶えず視界に捉えている大きな建造物がある。たぶんそこだとは思うが……
「おや? それすら知らないのですか……あなた、よく乗船できましたね」
おじさんが懐疑的な視線を向けてきた。
そんな変なことを言ったのだろうか。話を変えようとしたのは間違いだったかな。
「まあ、急に決まったので」
「急に……ということは、事前審査を受けなかった……ということですかな?」
そんなもんがあることすら初耳だ。けど、それを言ってはいけないことぐらいは、おれにも理解できる。
「そんなわけないじゃないですか。はっはっは」
「そう……ですな」
値踏みするような視線を向けられ、背中がムズムズする。かなり熟練の商人だけに、この辺は抜かりがないのだろう。
「もしかして、物凄い大物を引っさげての参戦……だとしたら、油断なりませんな」
勝手な誤解をしないでほしい。
おれが思うに、ザラは大物ではない。ましてや、物凄い大物であるわけがない。一般的な町の小娘だ。
このままでは情報が聞けなくなる恐れがあるな。その証拠に、すでにおじさんは警戒し始めていて、おれと微妙に距離を開け始めている。
それは困る。まだまだ知っておきたいことがあるのだ。
「いや」
違いますよ。と言いたかったのだが、最後まで言うことは出来なかった。
「流石はモーガン様。観察眼が鋭いですね」
片翼の男が話に割り込んできたからだ。
「これはパープル様。お褒めにあずかり光栄ですな」
パープル。それは片翼の男の名前なのかもしれないが、たぶん偽名だろう。
髪の毛が紫色をしているからパープルなのだと思う。コードネームにしては安直だが、それを指摘する、いや、できる者はいないのだろうな。
パープルが会話に参加した瞬間から、モーガンの意識は百パーセントで彼に向けられている。おれのことなど、もう視界の隅にすら入っていない。
「違うよ。おれはしがない商人ですよ」
伝えるが、モーガンは聞いていない。はいはい。っと適当な相槌は打つだけだ。
「この方はシークレットゲストであり、今回の目玉商品を運んでこられたのです」
「やはりそうですか。初めて見たときから、商人のアンテナにビビビッと反応するモノがありましたからな」
いつの間にか自分は見る目がある。という自己アピールに変わったが、パープルからすればそれも想定内なのだろう。
「流石はモーガン様。お目が高い。ですが、これは鋭い観察眼を持つモーガン様だけにお伝えすることです。他の者には内密に願いますね」
持ち上げてはいるが、要は口留めだ。
「当然ですな。なぁ~っはっはっは」
褒められてのぼせ上っているモーガンは二つ返事で了承した。自称だが一流奴隷商人である彼が、お得意様のパープルを裏切ることはないだろう。
「では、また後程」
パープルが先頭に戻っていった。
「さっきの続きなんですけど」
「おや、なんでしたかな?」
「どこに向かっているか、ということです」
「それでしたらご存じでしょう。なあに、ご安心ください。そこまで素人ぶらなくとも、このモーガンは不要な詮索は致しませんぞ。なぁ~っはっはっは」
ダメだ。もう話を聞くことは無理だな。
パープルの真意ははかれないが、思惑通り口留めには成功したわけだ。
(はあぁぁぁあ)
一癖も二癖もありそうな敵がいることがわかり、おれは心中で盛大なため息を吐いた。
もはやモーガンとの会話に実りはない。ただの時間潰しだ。
両者ともに同じ意見だから、自然と会話数も減っていく。次第におれたちは会話をやめ、ただ歩くだけになった。
最初に思った通り、向かっているのは島一番の建物で間違いなさそうだ。
近づいたことで全体が見えてきた。印象としてはレンガ造りの宮殿だな。ビルにして四五階相当の高さがある。それを支える柱も立派で、見事と言わざるをえない。
周囲に他の建造物も少なく目立っている。たぶんだが、独善島のシンボル的な物でもあるのだろう。
そこに続く道も整備と舗装がされ歩きやすいしな。
まあ、それ以外の所は歩きづらい。もしくは、歩けば足跡が残るようになっているのだけど。
これを整備が行き届いていないと取るか、脱走防止策と取るかは受け手次第だろう。ちなみにおれは、脱走防止策だと思う。
(ザラ、大丈夫かな)
急に不安になってきた。けどまあ、後戻りはできないわけで。
毎度毎度行き当たりばったりだが、これまでもなんとかなってきた。
「今回も大丈夫だ」
おれは自分にそう言い聞かせ、宮殿へと続く道を歩くのだった。




