勇者対マリアナ
「そうですか。わかりました。では、あなたも処刑します」
マリアナの目が据わった。
「話の飛躍がすげえな」
「そんなことはありません。犯罪者を断ずるだけです」
「罪状は?」
「暴行、傷害、王制への反逆とテロ組織への加担。細かく挙げればまだまだありますが、すべて言いましょうか?」
「いまので十分だよ」
とどのつまりは、聖法母団が罪だといえば、すべてが罪になるわけだ。
「なら、裁きを受けなさい! ホーリーショット」
マリアナの放ったそれは、他のシスターたちが放つ上級魔法と同等だ。威力も同等なら問題ないが、違う可能性もある。
「フォールシールド」
念のため張った盾が霧散した。
「おおっと、マジか!?」
唯一の救いは、光の矢も消滅してくれたことだな。けど、あれがマリアナの最高攻撃魔法であるはずがないわけで……
「どうしよう」
背中を冷たい汗が伝った。
盾が役に立たない可能性があるのだから、ツベルたちを解放し逃がすべきだろうか? それとも、現状はマリアナ以外の脅威はないのだから、盾を維持しつつ戦闘を進めるべきか?
悩むところだが、悩み続ける時間もない。
「フォールシールド」
結局のところ、ツベルたちの残された体力や魔素が知れない状況で、賭けに出ることはしたくない。かといって盾も心許ない。
なら、二重三重に施しておこう。と、結論付けたわけだ。
「それでどうこうできるつもりですか?」
マリアナを取り巻く魔素のオーラが集約されていく。
あれはヤバイ。
二日間の練習でわかったことだが、魔法の威力は魔素の多さというよりは、魔素の圧縮が出来るかどうかが肝心なのだ。
見た目派手でも、中身が薄ければそれほどでもない。
それに対し、マリアナが撃とうとしているモノは真逆だ。物凄い圧力で凝縮された魔素の塊を生み出している。
あれを前にすると、おれの張り巡らせた盾は児戯だな。
さて、どうしたものか。……悩みたいが、悩めるほどの選択肢は持ち合わせていない。
おれが盾になる以外はない。
頭の中で、おれ自身を取り巻く魔素を叩く。薄くなった箇所に再度魔素を展開し、再度叩いて強度を増していく。慣れた者ならなんなくできるのであろうが、おれはこのように具体的にイメージしなければ体現できない。
「残念ですが、時間切れです。ホーリーブロウ!」
マリアナの撃ったそれは、光の大砲だ。射出速度と弾の大きさがとんでもないことになっている。
盾になるとはいったが、正攻法でぶつかれば、おれを貫いた後にツベル、アベル、ニコルの三人共々消失させて終わりだな。
魔法はイメージ。なら、可能なはずだ。
新たに生み出した魔素をぎゅっと圧縮する。機械でプレスするように、力の限りやり続ける。
ボッ、と火が灯った。
多少の齟齬はあるが、いわゆる圧縮法といわれる火の起こし方だな。
「ファイヤーショット!」
迫りくる光の大砲に、撃ち出した炎を斜めの方向からぶつけた。
「無駄です」
言われなくても、そんなことは百も承知だ。相殺はおろか、威力を弱めることすらできなかったのではなかろうか。
でも、目的は果たしている。……はずだ。
「フォールシールド」
鉄を叩くように強度を増した魔素を使い、掌より少し小さい盾を展開した。
「上手くいってくれよ」
期待八割、信頼二割で、おれは盾を光の大砲にぶつけた。けど、真正面からやったわけじゃない。ファイヤーショットと同じように、斜めから挑んだ。
「おっも!」
思わず声が出てしまった。
受け流すつもりだったけど、想像以上だ。ファイヤーショットで少しでも方向を変えたつもりだったが、それすら出来なかったのかもしれない。
「これイケる!?」
疑心暗鬼になりそうになるが、魔法で大事なのはイメージだ!
「やればできる!」
自分に言い聞かせる。
「きっとできる!」
言葉を重ねるが、心は正直なもので、盾にヒビが入った。
「ダメかもしんない」
「あんちゃん! 頑張れ!」
後ろからアベルの声がした。
イカンイカン。諦めるところだった。おれはなんにためにここに来たんだ? ツベル、アベル、ニコルの三人を、ニナが待つ家に帰すためだったではないか。
「約束したもんな!」
契約書は交わしていない。けど、ツベルとは留守を預かるという約束をした。当初の目的は違うが、先払いで硬貨の入った布袋も受け取った。
成すべきことと報酬の受領が行われたのだ。
イレギュラーではあるが、契約と見なしてもいいだろう。
なら、順守する! それが、フリーランスであるおれの矜持だ!
「でりゃぁぁぁぁ!」
盾を押し込んだ。
バキバキッという音と同時に粉砕されたが、弾道を逸らすことには成功した。
「きゃああああ」
刑場の斜め後ろに流れ弾が着弾し、巻き込まれた見物人が悲鳴を上げた。
「嘘!?」
茫然とつぶやくマリアナ。
ここがチャンスだな。
おれは一気に間合いを詰めた。格闘戦ならおれに分があるはずだ。少なくとも、魔法の撃ち合いよりはいくらかマシだろう。
「くらえ!」
「あっ!?」
おれの放った拳に気づいたようだが、もう遅い。回避も迎撃も間に合わない。
「やらせはしないよ」
マリアナの顎を撃ち抜こうとしていたおれの拳が、突如現れた大女によって受け止められた。
その姿には見覚えがある。謁見の間にいた風神雷神のような貫禄を伴った女性の一人だ。
「あたしの名はラジ。今度はあたしが相手をしてやるよ」
獰猛な笑みをたたえ、ラジが参戦した。
(勘弁してくれよ)
心からそう思うが、戦いの火蓋は切って落とされるのだった。




