勇者、危機一髪
街灯のない道は暗い。その分空に浮かぶ星の明るさがわかる。
異世界の星空は地球で見上げるそれと違うのだろうか?
天の川の綺麗さは変わらない。異世界も地球も同等だ。
この光景を見られただけでも、この世界に来た甲斐というものがあったな。
ただまあ、問題もある。
前記したが、暗いから星がよく見えるのだ。
よく覚えていないが、たしか星は表面温度によって色が変わるんだと教わった気がする。ネットで検索すれば一発なのだろうが、手元にはPCもスマホもない。あったとしても圏外だ。
つまりなにが言いたいのかというと、おれの視界には赤い光が映っている。夜空ほど高くない場所に……だ。
方角と街道が伸びている先であることから、光源は魔導皇国トゥーンだな。そしてそれは、炎で間違いないと思う。原因はわからないが、大規模火災が発生しているのだろう。
百歩譲って魔法の光とも考えられるが、可能性は低いと思う。おれの経験から、あれは火災で間違いない。
これだけ離れた場所から確認できるのだから、大規模化火災だな。
現場は相当な混乱だろうな。行ったところで役に立つかはわからない。下手をすれば混乱に拍車がかかるだろう。
どうしたものか。
「行けばわかるさ。迷わず行けよ。バカヤロー!」
脳内で再生された燃える闘魂の言葉に触発され、おれの魂にも火が点いた。
「いくぞ~! 一、二、三」
ダァ~ッ、と走り出した。
おれは瞬く間に魔導皇国を視界に収める場所まで戻ってきた。
やはり、街が火災にあっているのは間違いない。多くの人が正門から外に逃げている。
その人垣を掻き分けて戻るのは無理だし、二次災害を引き起こす恐れもある。
よし。ここは塀もろとも飛び越えよう。
ただ、出来るかどうかが問題だ。
まあ、ダメでも塀に突き当たるだけで、死にはしないだろう。
「でやぁ~っ!」
全力で加速し、踏み切った。高さも飛距離も十分……だな。
後は着地だ。これが成功すれば、満点だ。
「伸身の新月面が描く放物線は、栄光への架け橋だ」
やはり脳内で再生される名実況。
現状、おれの姿勢は伸身ではなく屈伸なのだが、それでも気分は上がるもので、ビタッと着地が成功した。
満足だ。
なにもしていないが、おれの心中を達成感が占めた。
「元気ですか~!」
拳を突き上げる代わりに、お決まりの挨拶をした。
…………返事はなかった。
理由は簡単だな。
おれが降り立ったここが出火元だ。西の砦と同じようにバラック小屋が盛大に煙を立ち昇らせている。
住民は逃げたのだろうが、消火作業に当たる人間すらいないのはなぜだろう? 放っておけば、燃え広がるだけだ。そうなれば、一般市民やエリートたちの住む区画まで被災するのに。
「犯人発見!」
ということは、放火なのだな。悪いやつがいたもんだ。
「包囲しろ!」
周りで足音が聞こえる。ということは、オチが読めたな。
「犯人は……おれだな!」
「自白しました。これより確保に移ります」
『ホーリーライト』
重なる詠唱に併せ、多くの光源が点った。
まぶしくて直視は出来ないが、声は女性のものであり、なおかつ服装にも見覚えがある。
「神の御使いを騙る極悪人セイセイ。我ら聖法母団が裁きを与える」
人垣の先頭にいるマリアナがそう宣言した。
やはりそうか。色々と納得は出来ないが、やるしかないな。
「かかれ!」
彼女たちはやる気なのだから。
「容赦はしません」
そんなことしてくれたことが、一度でもあっただろうか? 甚だ疑問だ。
『ブースト!』
神官たちは本気だ。身体能力向上の魔法をかけて向かい来る。
「天誅!」
巨大なハンマーが振り下ろされた。
先陣を切った彼女は、能力的にはそれほどでもないのだろう。身体向上していても、動きが見える。一撃を避けるのも簡単だ。
けど、おれでは手に負えない人物もいるな。その筆頭は指揮を執っているマリアナだ。拳を合わせなくても、彼女の強さがビシバシ伝わってくる。その他にも数人、けた違いの猛者がいるようだ。
詰んだかもしれないな。この包囲網を抜けるのは難儀だし、仮に出来たとしてもすぐに追いつかれてしまうだろう。戦って殲滅するのも無理そうだ。
救国魔団とツベル・クリンには悪いが、投資は無駄になってしまったな。
「ホーリーショット」
腹に激痛が走った。見れば、綺麗な穴が開いていた。
あれ? ホーリーショットは効かないはずじゃなかったか!?
「聖法衣を纏わぬ偽物に裁きの矢が通じぬはずがありません」
あ~っ、言われればそうだ。おれが着ていた聖法衣は牢屋の中だ。あれが相殺していたのだとしたら、ダメだな。
「ホーリーショット」
今度は右ふくらはぎだ。これで素早い動きは不可能になった。
「トドメは私がやりましょう。ホーリーショット」
マリアナが撃った光線は、おれの心臓目掛けて真っすぐに飛んできている。
「わりぃ、サラフィネ。ダメだった」
見ているかどうかは不明だが、おれは天に向かって謝罪した。
「させません!」
『えっ!?』
おれを含めた全員が驚いた。
「サンダーショット!」
突如降り注いだ雷撃が、マリアナの光線を破壊した。




