勇者、神様と二度目の対面を果たす
「る~るる。るるる。る~るる。るるるる~る~る~る~る~。るるるる~る~る~る~る~る。る~る~る~る~」
長いな。
「どうもみなさんこんにちは。神様です。本日のお客様は、赴く異世界すべてで悲惨な目にあっている勇者さんです」
「やかましい!」
起き上がってツッコんだ。
「今回はやけに早いリアクションなのさ」
キングサイズのソファーに腰を深く沈める超絶美男子が、嬉しそうに手を叩いた。
見間違えることはない。その超絶美男子は、先の異世界で出会った神様だ。
「慣れてくれて嬉しいのさ。なにせ、今回は時間がないのさ」
立ち上がった神様が、左手を腰に当て、人差し指を立てた右手を頭上に掲げた。
「ディスコが似合いそうだな。ってバカ野郎! ポーズとる暇があるなら話進めろ」
「そうしたいけど、ボケてもみたいのさ」
「めんどくせえ!」
これはツッコみじゃない。魂の叫びだ。
「僕ぐらいの上級神になってしまうと、気安くツッコむのはおろか、話しかけてさえもらえないのさっ。だから、君のように分別なく僕に壁のない者には、つい構ってあげたくなるのさ」
バカにされているのかもしれないが、本音なんだとも思う。
それと、どういうわけか、神様には前回ほどの威圧感がない。まあ、本能的な恐怖を感じ膝は震えているけど……前回ほどじゃない。
「うん。君は本当に勇者たり得る資格を持っているのさ。それはとっても羨ましいのさっ」
「どういうこと?」
「説明したって無駄さ。神でない君には理解できないのさ」
突き放す言葉には、冷たさが備わっていた。これ以上追及するなら、おれ自身も冷たくなってしまうかもしれない。
「察しがいいのさ。それに、話せば長くなるのさ。こんな短い時間では、土台無理なのさ」
「じゃあ、なんで来たのよ?」
「決まっているのさ! ちょい推しである君に、助力を授けに来たのさ」
なぜかウインクをされた。おれにその気はない。けど、ちょっとドキッとした。
それが悔しくて、おれは嫌味を言った。
「ちょい推しなら、推しを推してやったほうがいいんじゃないかな? なにせ、推しは急にいなくなることがあるからね」
おれ自身に経験はないが、推しができちゃった結婚をしたと泣いていた友人がいた。あれは本当に悲しそうだった。
「大丈夫なのさ。僕の推しは永遠なのさ。例えスキャンダルで叩かれても、僕だけは味方なのさ」
鑑だ。今回はおれの負けだな。
「よっ! さすが神様!」
称賛すると、神様は満足そうな表情で胸を張った。
「当然なのさ。だから、推しである君に魔法を教えてあげるのさっ!」
「ちょっとなに言ってるかわかんないっす」
「なんでなのさ!」
おれの掌返しに驚き、神様は目を見開いた。
大きな漫才コンテスト優勝者の漫才っぽいネタだったのだが、さすがの神様も知らないらしい。
(あの人たちなら神様たちも爆笑の渦に呑みこめるだろうに)
そんなことを思っているおれの肩を掴み、神様がブンブン揺らす。
「強い強い! 肩がもげる!」
「なんでなのさ!」
おれの言葉は神様に届いていない。というより、聞いてねえな。
「おい! 話を聞け!」
「な・ん・で・な・の・さ・っ!」
ダメだ。このままじゃ埒が明かない。というより、マジで両肩がもげてしまう。
「痛いって言ってるでしょうが!」
自由になる足を使い、神様にローキックをかました。
「イテッ!」
おれは顔を歪めた。蹴られた脚より、蹴った足のほうがダメージがデカイ。強度が尋常じゃない。その硬さは鉄や鋼など比べようもないほどだ。
「痛いじゃなのさ」
(ウソつけ)
と反論したかったが、口が動かせなかった。神様の醸す空気がそれを許さない。
(死ぬかもしれないな)
背中を冷や汗が伝う。
「けどっ、ゆ~るし~てあ~げる~のさ~っ」
ニッと笑う神様は、ドッキリを成功させた子供の用に無邪気な表情を浮かべていた。
「ありがとうございます」
「気にしないでいいのさ。けど、罰として魔法は教えてあげないのさ」
「わかりました。諦めます」
「切り替えが早いのさ。もしかして、初めから教わる気なかった? ううん。そんなことがあるはずないのさ」
神様はそう言うが、おれの本音はこれだ。
(あるんだな。これが)
絶対に口にはできないが。
『干渉限界が近づいています』
無機質な声がした。
「おおっと、もうそんな時間なのさ。じゃあ、僕は行くのさ」
「いや、マジでなにしに来たんだよ!?」
「助力に来たのは本当さ。じゃないと、君は死んでしまうのさ」
神様にふざけた様子は微塵もない。淡々と事実だけを伝えている感じだ。
「残念だけど、もう会えないと思うのさ」
「おれはだれに殺される?」
「僕の推しさ」
そう言い残し、神様は姿を消した。
目を覚ましたとき、空はすでに暗かった。これでは街に戻っても中には入れないな。
「参ったね」
野宿もそうだが、神様の予言もだ。
死ぬ気はない。けど、抗えない死があるのも事実だ。
おれは地球でそれを経験している。
「さて、どうしたものか」
人はおろかモンスターの姿すらなくなったここなら、考える時間はたっぷりある。とはいえ、選べる選択肢は多くない。
街に戻るか、このまま逃げるか。大まかにはその二択しかない。
神様の推しがどこにいるのかは知らないが、出会わなければ問題ない。もしくは、街に戻り与した組織の中にいれば、味方になるのだから助かる……可能性もある。
そんな風に他人を疑って生きるのが嫌なら、このまま逃げるべきだ。他人と出会わなければ、殺されることもないのだからな。
「う~ん」
うなってはみたが、おれの中で選べる答えは一つなんだよな。
サラフィネとの契約を全うする。
それ以外はありえない。死んで契約不履行になるのは仕方がないが、自分可愛さに契約を放棄するのは、断固として拒否する。
それを行った時点で、フリーランスとしてのおれは死ぬのだ。いままで生きてきたすべてを否定して生きていく。そんなことはできない。
「どうせ死ぬなら、矜持に沿って……だな」
起き上がり、おれは街に続く街道を歩きだした。




