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勇者、街を出る

 街を歩いた。その際に他人とよく目が合うのだが、皆すぐに視線を外す。

 不思議だ。


「おかあさん、あの人パンツ被ってるよ」

「見ちゃいけません!」


 五歳ぐらいの少女とお母さんの会話が聞こえた。

 謎は解けた。

 おれは急いでパンティーを剥ぎ、ポケットに仕舞った。ここで捨ててはいけない。街中に物的証拠を残してしまうからな。

 目撃情報もよくないので、おれは足早に移動した。

 そして、なんだかんだ歩いてわかった。この街はやはり区画によって住む者が仕分けされているということと、街の警備体制はそこまで厳重ではないということが。

 堅牢な石壁で四方を覆われてはいるが、正門も日暮れまでは開け放たれており、住民も旅人もフリーパスで出入りできる。

 検問などもない。

 それならと、おれも街を出た。

 ツベル・クリンの「街に足止めしたい」という言は無視したわけだが、帰らないわけじゃないので許してほしい。

 外に出た理由もちゃんとある。

 その目的を果たすため、おれは正門から伸びる街道を歩き、そこそこ歩いた先にあった浜辺に来ていた。


「この辺でいいかな」


 人がいないのを確認する。


「シュシュ~」

「ぷくぷ~く」


 おれの胸の高さぐらいに浮かぶクラゲとフグみたいなモンスターが数匹いるが、こちらに敵意はなさそうなので放っておこう。

 それよりも確認だ。


「あっ、それ」


 思いっきりジャンプした。

 うん。やっぱりだ。

 過去二回の異世界と比べ、格段に跳躍が低い。以前なら雲の高さまでいけたが、いまは十~十五メートルが限界だ。

 着地した足で波打ち際まで進み、砂を蹴った。地面が受けた衝撃が伝わり、海が割れた。

 凄いことではあるが、パフォーマンスが落ちている。

 重力だなんだと思い当たる要因はあるが、検証と証明のしようがないし、したところで意味がない。

 もとより、おれが一番知りたいのは魔法だ。グラビやブーストといった身体能力の抑制と向上があり、聖法母団はそれを使っていた。甲冑騎士や救国魔団もそうだろう。


「ずるい」


 だなんだと言う気はない。

 聖法母団にしろ救国魔団にしろ、頼めば教えてくれるはずだ。

 ただ、それはできない。

 理由としては簡単で、どちらの組織も胡散臭いのだ。そして、両者ともにおれを利用しようとしている。

 それ自体は嫌じゃない。利益を求めるのは当然だ。


「投資です」


 ツベル・クリンのようにはっきり言われたほうが、むしろ心地よい。けど、利用されるだけというのはまっぴらごめんだ。


「契約したなら履行する。けど、その契約自体が不明ならサインはしない」


 それがフリーランスであるおれの矜持だ。

 この世界において、おれはまだだれとも契約したつもりはない。が、物事は進み、繋がりも生まれている。

 だれに、どこの組織に与するか。身の振り方を迫られるのは、そう遠くないだろう。

 そのときのためにも、おれは自分のことを知っておく必要があった。

 だからここに来た。そして、知った。


「役立たずではないが、切り札にもなり得ないな」


 という現状を。

 なら、おれの価値はどこだ?

 聖法母団からすれば、神の御使いであること。それ以外のものはないだろう。マリアナや幹部連中の扱いから判断しても間違いない。

 救国魔団はなにかを成し遂げるための戦力として評価しているのだろうが、その成し得たいなにかが不明だ。まあ、救国を謳っているのだから、現政権への反発なのだろう……が、ツベル・クリンを筆頭に、救国魔団の構成員には男が多い感じがしたから、性差別の撤廃なども考えられる。


「ダメだ。さっぱりわからん」


 身の振り方もそうだが、おれがこの世界で成すべきことが解らない。

 大魔王討伐と魂の回収。その二つが大前提なのだが、この異世界には魔法修得のために来たはずだ。

 そのための手筈も整っているとサラフィネは言っていたではないか。

 やはり、アクシデントか?

 思っていたのとは別の世界に転移させてしまった。なんてことがあるのだろうか?

 ないと信じたい。が、この世界が窮地に陥っているとも思えないのだ。

 浜辺にそこそこの時間いるが、モンスターは一向に襲ってこない。おれが強いからとかそういうことではないと思う。

 ただ単に、争う気がない。それだけだ。


「ガウ(どうぞ)」

「シュシュゥ~(ありがとうぅ~)」


 街道を挟んで反対側にいたライオン風のモンスターが木の実を運んできたのを受け、クラゲ風のモンスターが飛び上がって喜んでいる。しかも、足で♡マークまで描いているのだから、よほど嬉しいのだろうな。


「プクプ~ク(これお返しにどうぞ)」


 フグ風のモンスターが貝を持ってきた。


「ガッフ~ッ(あ~りがと~)」


 小躍りしながらライオン風モンスターが帰っていった。

 理解できないはずの彼らの会話も、なぜか理解できた。それぐらい平和だった。

 多種共存。それが出来ている気がする。出来ていないのは、人間だけだ。


「あ~っ、なんか面倒くせえなぁ」


 おれは浜辺に大の字で倒れた。

 ザザ~っと波の打ち寄せる音がする。


(心地いいなぁ)


 気づけば、おれは眠りに落ちていた。


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