勇者パンティー、敗れる
「変態だぁ~!」
「変態が出たぞぉ~!」
救国魔団のマントマンたちが口々に喚く。
普通なら言い返せない。けど……
「怪しさで比べたら、どっこいどっこいだからな」
おれは自信をもって言い返した。
『えっ!?』
救国魔団のやつらが動きを止めた。
『……嘘だろ!?』
腹の底よりも低い魂からの言だ。マントで表情は隠れているのに、全員が驚いているのが伝わる。
「マジかよ?」
おれにはそのリアクションが信じられなかった。
だが、救国魔団の連中からしたら、おれのほうが信じられないわけで……
「変態のくせに生意気だぞ!」
「そうだ! そうだ!」
「恥を知れ!」
口々に非難を浴びせてくる。
「やかましい! こっちは非常事態で仕方なくこんな格好してんだよ! 常時コスプレのお前たちよりマシだ!」
頭にくるのでおれも言い返す。
なんだかわからないが、現場は混沌の様相を深める。
「どんぐりの背比べだよっ!」
そこに参戦する巨大ハンマーを持った甲冑騎士。
おれより先に現場にいたわけで、それに疑問はない。けど、発した言葉は許容できない。
「おいコラッ! どんぐりの背比べってどういうことだ!?」
「言葉の通りだ!」
振り下ろされるハンマー。
許せん!
「こちとら勇者で神の遣いだぞ! バカにすんなっ」
怒りに任せ拳を放った。
ドゴンッ、という鈍い音を響かせ、おれの拳と甲冑騎士のハンマーが激突した。
「潰れろ」
力比べで負けるわけがないと思っているのだろうが、それはこちらも同じだ。
例えなにかしらの制約が加わっているのだとしても、その辺の下っ端に後れを取るほど弱くはない。
ミシミシっとひび割れ、ハンマーが砕けた。
「馬鹿な」
驚く甲冑騎士に、おれは前蹴りを見舞った。
「ぐあっ」
うめきながら後方に吹き飛び、甲冑騎士は退場した。
…………戦場のときが一瞬だけ止まった。
「避難を急ぎなさい!」
「はっ」
ツベル・クリンの号令で皆が動き出す。
甲冑騎士たちの決断も早かった。
「退きますよ」
油断なく構えながらも、リーダー格の者はそう指示した。
「ですが」
「目的は達しました。これ以上は蛇足です」
部下たちは納得がいかないようであったが、リーダーはそれを認めず、
「下手をすれば、マイナスになりかねません」
おれを真っすぐに見据え、そう付け足した。
ここで終わるなら、それが一番だ。殲滅戦などだれも望むところではない。
「お言葉ですが……男に舐められている以上、すでにマイナスです!」
「口を慎みなさい」
リーダーの声音が一段下がった。
「これ以上ペラペラと余計なことを連ねるなら、その軽口を塞ぎます」
ツベル・クリンもそうであったが、このリーダーも有言実行派なのだろう。
「従います」
頭を下げ、息巻いていた甲冑騎士たちがそそくさと撤退していった。
「私も退きます。と言いたいところですが……部下の言い分も理解できます。舐められたままというのは、我らの沽券に関わります」
「このどさくさだ。注目しているやつもいないし、心配するようなことは起きないと思うよ」
「当事者がいるではないですか」
静かな語り口調だが、リーダーはやる気だ。
「それでさらに価値を下げるとは考えないのか?」
「負けるということですか? ありえません」
ものすごい自信だ。
そしてこれはヤバイな。拳を合わせてはいないが、リーダーの言ったことがブラフではないと感じる。立ち昇る威圧感が他を凌駕している。
やらないうちから負けは認めたくないが、軍配は相手に上がるだろう。
「無益な争いはやめようよ。負けなら認めるからさ」
両手を上げ、おれは降伏の意を示した。
「いいでしょう」
了承したリーダーが間合いを詰め、おれの左脇に突き刺さるボディーブローを放った。
「うっ」
息が詰まり跪いた。呼吸をしようとすると、ついさっき食した物が込み上げてくる。二度と食べられないかもしれない料理なのだ。リバースするわけにはいかない。
「ぐはっ」
必死に飲み込み、なんとか気道を確保した。
「頭を垂らして生きなさい。では、失礼」
そう言い残し、リーダーの気配が消えた。喧噪も急速に落ち着き、辺りに人の気配はほぼなくなった。
「あ~っ、イッテ」
「災難でしたね」
仰向けに倒れ脇腹をさするおれに、ツベル・クリンが手を差し出してきた。
「本当だよ」
引き起こされるが、脇腹の痛みは消えない。
「患部を拝見します」
「イテッ!」
ツベル・クリンに服を捲られ、無遠慮に患部を押された。痛みが走り、おれは表情をゆがめた。
「凄いですね。内臓はおろか骨にも異常がなさそうだ。他の者なら、内臓破裂で死んでいたでしょうに」
感心しているが、恐ろしいことを言わないでほしい。それと、患部に触れるのはやめてほしい。まだ痛みが残っているのだ。
「もういいかな?」
ツベル・クリンの手を払い、おれは腹を隠した。
「申し訳ありません。それと、遅ればせながら、助太刀感謝します」
頭を下げられるが、それほどのことはしていない。むしろ、役立たずの部類だった。
「感謝の必要はないよ」
「改めて言います。我々にご助力たまえませんか?」
ツベル・クリンはおれの正体に気づいている。まあ、正体もクソもないけどな。パンティーを被って顔の一部を隠してはいるが、それ以外はなに一つ変わっていないのだから。
見るやつからすれば、一目瞭然だろう。
「さっきの戦闘を見たろ? いまのおれじゃ、戦力の足しにはならないよ」
おれは断った。
「そうですか。それは残念です」
思いのほか、あっさりとツベル・クリンは諦めてくれた。
「んじゃ、行くわ」
「では、これをお持ちください」
布袋を渡された。中には結構な量の硬貨が入っていた。
「いや、これはダメだろ」
「投資です」
突き返すおれに、ツベル・クリンがそう言った。
「目的は?」
「あなたをこの街に足止めしたい。そして、気が向いたときは助力していただきたい」
「儲けが少なすぎるだろ。それとも、これはその程度の価値しかないのか?」
「額としては小さくありません。けど、損する可能性を含めたうえで行うのが投資です」
正論だ。そして、物事の価値は人によって物差しが違う。
ツベル・クリンからすれば、この布袋の中の金銭をかけるだけの価値がおれにあるわけだ。
「なんにおいても保証は出来ないぞ」
「もちろんです」
「んじゃ、ありがたくもらっておくよ」
歩きながら、布袋を腰にぶら下げた。
重いな。
これが自分の価値なのだとすると、余計に重く感じた。




