勇者は被るよ。パンティーを
高級街を抜けると、そこにはいままでにない光景があった。
「早くしな」
「へい」
急かす露天商のおばちゃんと、閉店準備に追われる男性。
「早く誘導なさい」
「申し訳ありません。奥様、少し遠回りになりますが、聖法母団の前を通って避難しましょう」
「あなたにしてはマシな意見ね」
嫌味を言いながらも、使用人っぽい男に先導されるご婦人。
「西の砦だ! 急げ!」
「アイアイサー!」
聖法母団のシスターに急かされ、奴隷のようなボロ布を着た男たちが走っていく。
どこを見ても男の姿がある。
「男とすれ違わないのは偶然?」
「そうですね。偶然です」
マリアナと交わした言葉を思い出した。どうやらあれは、嘘ではなかったらしい。まあ、総じて地位は低そうだが。
それよりも、気になることを言っていたな。
「西の砦に急げ!」
そこはおれが破壊を頼まれた場所だ。
聞いていた話では、そこは不要になったから壊すということだった。けど、この喧騒を見る限り、いらない場所だとは思えない。百歩譲っていらないのだとしても、避難計画の周知と実行は確実に行われるべきだ。
けど、現状は突発的な事件事故の匂いが強い。
犯人はだれ? おれの中で思い当たるのは救国魔団だな。彼らは聖法母団の壊滅を望んでいた。砦破壊の濡れ衣を着せれば、メリットは大きい。
けど、彼らは土煙が上がったときはおれと一緒にいた。そして、大分あせっていた。
代表代理である怪人マントことツベル・クリンが計画を知らなかった……とは考えにくい。
「ダメだな」
下手の考え休むに似たり。とりあえず動こう。現場に行けば、なにかしら解明するだろう。最悪、なにもわからないことがわかる。
ただ、現場には聖法母団と救国魔団がいるだろう。
「鉢合わせないといいな」
自滅フラグのような気もするが、おれはそうつぶやいて西の砦を目指した。
西の砦というくらいだから、おれはそれなりの建物を予想していた。まあ、その予想は合っていたのだが、街の一角が丸々砦扱いなのには驚いた。
まず初めに、街の在り方が違う。いままで見てきたところは石やレンガ造りの家がほとんどだったが、砦周辺はトタンなどを用いたバラック小屋だけだ。砦だけが石造りであったのであろうことは察せるが、そのほとんどを崩壊させている。地面も舗装されておらず、土がむき出しであることから、あの大きな土煙が立ち上ったのだとわかる。
でも、それで理解できたこともあった。
この国ないし街は、ブロックによってその用途と暮らす人間が定められているのだ。
王城ならびに聖法母団が居を成すブロックは、超エリートたちの場所。
レストランが在ったブロックは、エリートたちの場所。
露店があったブロックは、一般市民たちの場所。
そして、砦と女装兄妹が襲われていたブロックは、貧民たちの場所。
現状、西の砦が、グチャグチャにされていた。
行っているのは、大量にいる甲冑騎士。
前の異世界にいた三号の姿に似ているが、やっていることは正反対だ。逃げまどう者たちを片っ端から斬り殺している。中には女性の姿もあるのだが、お構いなしだ。視界に入った者は容赦なく血祭りにあげている。
「死守しなさい」
それを阻んでいるのが、ツベル・クリンたち。
「反対じゃね?」
思わずそう言ってしまった。
ただまあ、身なりにギャップはあるが、問題ない。
いま問題にすべきは、ツベル・クリンたちの手が圧倒的に足りていないこと。戦闘と市民を避難させる誘導と警護。そのすべての数が足りていない。
救国魔団の人手がないのか、騎士たちの数が多いのか。
どちらにせよ、騎士たちの行いは見ていて気持ちのいいものじゃない。
(助けに入るか)
けど、このままというのはマズイ気がする。根拠はないが、この手の予感は当たるのだ。
おれはキョロキョロと周りを見た。
「おっ!? ラッキー」
手拭いが落ちていた。手を伸ばして拾い、顔に巻いた。
「グフッ」
汗臭さにむせた。
ダメだ。こんなものを身につけて動き回ることは出来ない。別の物だ。
「おっ!?」
少し遠くにハンカチが落ちていた。
近寄り拾う。見た感じ綺麗そうだ。匂いもしない。
「よし。これでいこう」
顔に巻こうとしたが、無理だった。小さい。小顔のおれでも太刀打ちできないほど、布面積が少ない。
残念だ。けど、生地は良い物のようなので預かっておこう。おれはハンカチをポケットに仕舞った。次だ。
「おっ!? おおっ?」
あるにはあった。これなら間違いなく顔は隠せる。けど、人として大事なものを失うような気がする。
一応、被れるかどうかのチェックはしよう。
大きさ……問題ない。
匂い……問題ない。むしろ、ちょっといい匂いがしている。酸っぱいよりはいいことなのだが、事これに限ってはダメだ。許されない気がする。
それらを踏まえて考える。
倫理……ダメだ。絶対に許されない。これは見なかったことにしよう。
「団長! これ以上は無理です! 撤退の指示を」
「いけません。市民の避難が完了しないうちは、我々がここを離れることは適いません。もう少しだけ踏ん張りなさい!」
「ですが」
「命令です。異論反論は認めません!」
「…………わかりました」
その一拍が事実を痛切に物語っていた。放っておけば、彼らは死ぬ。
仕方ない。腹を決めよう。命を懸けて戦っている者を見捨てるのは性に合わない。
倫理や道徳は許さないが、情状酌量は望めるだろう。
「助太刀いたす!」
拾ったパンティーを被り、おれは戦場に飛び出した。




