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勇者は思う。マントの集団はヤバい

「あ~っ、ワガママを言うようで申し訳ないのですが、殺人や誘拐やテロ行為は専門外ですので、それ以外でお願いします」


 おれは先に予防線を張った。


「ご安心ください。我々は風体こそ怪しいですが、至極真っ当な人間です。このような身なりをしているのも、正体を明かすことが出来ない故です」


 筋は通っているな。自分を怪しいと認識しているのもプラスだ。


「それを踏まえたうえで、話だけでも聞いていただけますか?」


 マントマンもしくはマントウーマンは低姿勢だ。けど、言葉ほど温厚な人間たちではない……ような気がする。


「ダメって言ったらどうするの?」


 試しに訊くと、先頭のマントマンもしくはマントウーマン……面倒臭いな。どちらの性別、あるいは人外であっても通じるように、怪人マントと名付けよう。うん。名案だ。


「……り……い……ま……す」


 ん!? 怪人マントがなんか言ったな。ダメだ。全然聞いていなかった。

 あっ、怪人マントたちが不審な目を向けている。表情は見えないのだが、全身からその雰囲気はダダ洩れだ。


「ゴホンッ。失礼。拒否権はあるのかな?」


 双方の気持ちを入れ替えるように咳ばらいをし、おれはそう言い直した。言い方もシリアスっぽく変えてみた。


「あります。けど、それには危険が伴います」

「話を聞くだけなのに?」

「ええ。こちらにも事情がありますので」


 まあ、それはおおむね予想通りだ。なんでもない話をするなら、身分を隠す必要はないもんな。

 問題は、どんな危険が伴うのか? だ。

 おれはわかりやすく一歩後退した。

 先頭の怪人マントは微動だにしなかったが、後ろの集団は反応した。通りを塞ぐようにV字型にフォーメーションを変えた。

 逃がさないぞ。という意思表示だな。

 つまり、おれの行動を逃亡準備と捉え、実行に移した瞬間、武力行使もいとわないということだ。


「戻りなさい」


 後ろの集団にそう命令する怪人マントだけは違うらしい。動じた様子がカケラもない。


「お前たちは馬鹿ですね。彼は逃げるとなれば、躊躇なく行動に移します。ついさっき目にしたばかりでしょうに……まったく。度し難いですね」


 バレているようだな。怪人マントの推察通り、おれに逃げる気はなかった。そのフリをすることで、探りを入れたのだ。

 結果は、あまり芳しくないな。怪人マントのことがなにもわからない。けど、経験や実績が高いのだけは間違いなさそうだ。

 そんな相手とこのまま交渉に入るのはマズイ気がする。


「あなたも、挑発のような行為は控えてください」


 再度探りを入れようとしたが、おれが行動に移す前に窘められてしまった。

 これは本格的にマズイかもしれない。


「最初に言ったけど、殺人、誘拐、テロ行為は請け負わないよ」

「もちろんです。我々もそのようなことを依頼する気持ちは、露ほどもありません」

「言質取ったぞ!」

「そのようなことを豪語なさらずともご安心ください。今は持ち合わせがないので応じられませんが、必要なら署名捺印した証書をお渡しします」


 外堀が埋められている。これはもう、逃げることは無理だな。


「お手柔らかに。それと、話をするのは食事ができるところで頼めないかな」

「お安い御用です。では、付いてきてください」


 怪人マントが消えた。けど、魔法の類ではない。視界からいなくなっただけだ。

 一瞬だったが、飛び上がるのは確認した。後ろの集団もそれに続いているので、間違いないだろう。

 おれは視線を上げた。覗きの趣味はないが、もしかしたらマントの中が見えるかも、という思惑はあった。

 何人かは見えた。まあ、見えたといっても、確認できたのはマントの下に隠した服だけ。有益な情報は皆無だ。他の者にいたっては、なにも見えない。ただ黒い塊が飛び上がり、近くの屋根に降り立っただけだ。

 まあ、実力が違うんだろうな。


「この交渉はヘビーだな」


 自分にそう言い聞かせ、おれも怪人マントが待つ屋根に飛び上がった。

 んん!? なんか低いな。感覚としては、おれは結構な高さに跳んだつもりだった。

 さっきとは逆で、上から見れば怪人マントたちの顔が覗けるかもと思ったのだ。でも、おれが飛んだ高さはちょうど屋根の上に立てるくらいだった。

 一番に思いつくのは重力の違いだが、それは違うような気がする。この世界に来て一週間ほど経っているのだ。もしそうなら、多少感じるところもあったろう。


「思考を遮るようで申し訳ありませんが、移動してよろしいですか?」


 体を動かして確認しようと思ったが、それは許されないらしい。


「我々のこの格好は目立ちますので」


 わかっているなら脱げば? とは言わない。それこそ無駄なおしゃべりだ。


「どうぞ行ってちょうだい」

「ありがとうございます」


 怪人マントたちが屋根から屋根へと飛び移る。それに続くおれは周囲に視線を走らせるが、得る情報は少ない。

 怪人マントたちが、絶妙におれの視界を塞いでいる。


(参ったね。こりゃ)


 ここまで徹底した動きをするのだから、ただ者じゃない。

 いくつかの屋根を越え、おれたちは屋上に降り立った。

 珍しいな。というか、屋上自体初めてじゃないか。


「ここからお入りください」


 カギは掛かっていないらしい。怪人マントが扉を開けて中に促した。


「ありがとう」


 ここでゴネても仕方ないので、おれは素直に従った。踊り場は狭く、ここで待機するわけではないだろう。

 なら、下に続いている唯一の階段を下りるのだな。


「お待ちしておりました」


 階段を下りた先には、五人のメイドがいた。


「こちらにどうぞ」


 メイド長らしき人物の案内で通されたのは、大きな部屋だった。足元には毛並みの長い絨毯が敷かれ、中央に円卓が置かれている。大きな窓から差し込む光を受け、部屋の各所に置かれたシャンデリアが輝いている。


「キャラが合ってないんじゃないかな?」


 おれはもっと薄暗い所に案内されるんだと思っていた。それこそ、場末の札付きしか利用しないアウトローな店だろうと予想していたのに。


「信用は買えますからね。相応の対価さえ惜しまなければ、秘密は保持できる可能性が高まります」


 その通りだな。木を隠すなら森とは言うが、木が多ければ注意しなければいけないことも増える。本気で秘密を守るなら、ごく少数で共有するのが一番だ。


「お座りください」

「ありがとう」


 メイドさんに勧められるまま、おれたちは席に着いた。


「ご足労、感謝します」


 労いながらも、だれ一人としてマントを脱ぐことはなかった。

 警戒は怠らない。ということだな。

 益々もって、おれはヤバイ者たちと交渉することになったのだと認識させられた。


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