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勇者は美人兄弟と怪しい集団に出会う

「俺はガキでも容赦しねえぞ」


 凄む浮浪者は本気だろう。悪い薬物に手を出しているのではないかと疑いたくなるほど、目も据わっている。まあ、そうでもなければ、表通りから見える場所でこんな堂々と犯罪は行えない。


「金なんかない」


 姉が首を横に振った。


「なら、その服を脱げ」


 とんでもねえことを言うやつだな。変態だなんだの話じゃないな。


「早くしろ!」

「ヤダッ」


 よほど嫌なのだろう。姉が服を守るようにぎゅっと自分を抱きしめた。

 わかる。行動で裸にさせられるのは、おれもごめんだ。


「めんどくせえな」


 浮浪者が顔をしかめ、姉の胸ぐらを掴んだ。


「おっちゃん、やめとけって」


 放っておけば殴る蹴るの暴行が始まりそうだったので、おれは足を速めて止めに入った。


「なんだてめえは!?」

「いい年こいた大人が子供を威すなよ」

「てめえに関係ねえだろ」

「まあな。けど、見ていて気持ちいいものじゃねえよ」

「ああもう、めんどくせえや。てめえから黙らせてやる!」


 短気なやつだ。浮浪者は子供を放し、おれに殴りかかってきた。

 遅い。まるでパンチがスローモーションだ。これを殴り返したら大惨事間違いなしだな。下手すりゃこの浮浪者死ぬぞ。

 犯罪者になりたくないおれは、浮浪者の拳を避けながら姉妹を小脇に抱え、ダッシュで逃げた。

 こういった手合いには、関わらないのが一番だ。



「おいお前! いい加減に降ろせ!」


 姉が怒ってジタバタしたので、おれは足を止め姉妹を立たせた。


「悪い悪い。まあ、そう怒るなよ」

「怒るに起こるに決まってるだろ。こんな街外れまで連れて来やがって」


 ぷりぷり怒る姉妹を、おれをよく見た。姉のほうはやや野性味の濃い顔をしているが、妹は掛け値なしの美人だな。二人揃っていると、宝塚の男役と女役のスターのようだ。身長も姉が一二〇センチぐらいで、妹が一〇〇センチあるかどうか。エスコートするにはピッタリなサイズだ。

 黄色と薄い青のドレス型ワンピースもよく似合っている。ビーズのような装飾も施されており、普段着にしてはやや豪華だが……まあ、裕福な家庭の子なのだろう。

 服と姉妹。セットで売れば、さぞ高値がつくことだろうな。

 賛成はしないが、浮浪者がこの子たちを威したのもなんとなく理解できた。


「で? お前の要求はなんだ?」

「要求!?」

「とぼけんじゃねえよ! 言っとくがな、家に金はねえぞ!」

「金なんかいらねえよ。いや、まあ、余ってるなら欲しいけど……」


 情けない。思わず本音がこぼれてしまった。最初の一言で止めとけばよかった。


「ごめんなさい。お金はありますけど、これはお母さんに頼まれた買い物に使うので」


 申し訳なさそうに妹に頭を下げられてしまった。

 これはキツイ。精神的なダメージが半端ない。


「あんた大人だろ!? 自分の食い扶持くらい自分でなんとかしろよ」


 姉の追い打ちがクリティカルヒットした。ダメだ。もう立っていられない。


「兄さん。そんなこと言ったらダメだよ」

「えっ!?」


 膝をつきそうだったが、妹の放った言葉におれは眉を寄せた。


「兄さん……そう言ったかい?」

「えっ!? うん」


 おれの確認に、妹がうなずいた。


「じゃあ、なにかい。きみは男の子なのか?」

「ったりまえだろ!」


 胸を張って言われた。


「マジかよ。じゃあ、なんでドレス着てんだよ」

「母ちゃんの趣味だ」


 これにもやっぱり胸を張っている。ある意味、男前だな。


「もしかして……きみも?」


 妹が無言で首肯した。こちらは胸の前で組んだ手をモジモジさせていて、少し恥ずかしそうだ。よかった。この子とは感覚が近いらしい。


「そうか。そうだったのか」

「確認させてやろうか?」

「いや、必要ないから、その手を下ろせ」


 スカートの裾を掴み持ち上げようとする兄を嗜めた。


「冗談に決まってんだろ。バ~カ」

「兄さんったら、そんなこと言ったらダメじゃないか」


 楽しそうに笑う兄を、弟が心配そうに見ている。

 信じられないが、目の前の姉妹は兄弟で間違いないらしい。


「用がないなら、おれたちはもう行くぞ。母ちゃんが待ってるからな」

「おう。今度は絡まれないように気を付けろよ」

「うっせえ……あんがとよ」

「あっ、ありがとうございました」


 兄は素直ではないが、兄弟揃って礼を言いながら通りを戻っていった。一緒に行ってやってもいいが、おれにはやらねばならないことがある。

 仕事を探さなければ。聖法母団に戻れば衣食住は賄ってもらえるのだろうが、それではいけない。兄に言われたように、自分の食い扶持くらい自分でどうにかできるようにしなければダメだろう。

 久々におれの中の労働意欲に火が点いた。心のガソリンは満タンだ。メラメラと炎がたぎっているぜ。

 いまならなんでもできる気がする!


「あの~ぅ、この辺に職業案内所ってありますか?」


 街の人にそう訊いて回った。結論からいえば、この街に職業案内所はないらしい。いや、あるにはある……のだが……男に斡旋する仕事がない。

 奇妙な話だが、理由を詳しく聞く前に追い出されてしまった。しかも、四つある職業案内所すべてでだ。

 これは困った。仕事がないのでは働けない。

 どうしたものか。


「お仕事を紹介しましょうか?」


 困っているおれの背後から、そんな声がかけられた。

 渡りに船だな。


「ぜひお願いします!」


 振り返りながら言って、すぐに後悔した。

 背後にいたのは、黒いフード付きマントで全身を隠した集団だった。


(こんなやつら真っ当なワケねえじゃん!)


 おれの労働意欲は急激に萎んだ。けど、逃げられそうにはなかった。


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