勇者は神の遣いであると証明した
連れていかれた部屋のイメージとしては、広めの懺悔室。前回の作戦室同様、中央に一つだけ机がある。違うのは、椅子が四組置かれていること。
「お座りください」
上座に座るアキネが、下座に座るように勧めた。上下など、現代の日本人では気にする者は少ない。おれも例外じゃない。
ただ、他の全員が立っていることは気になる。おそらく聖法母団のナンバー2であるマリアナですら、アキネの後ろで直立不動でいるのだ。
どうするべきかと一瞬迷ったが、おれは素直に従った。というより、出入り口に近い席を与えられ、内心ほっとしている。歩く距離が少なくて済むし、足が重くて立っているのもしんどい。
腰を下ろしほっと一息つくおれを、アキネが鋭く睨む。
「お聞きしたいことがあります。正直にお答えいただけますか?」
さて、どう答えたものか。
教会でシスターと向き合っているのだから、真実を語るのが筋なのかもしれない。けど、おれは仏教徒だ。いまだかつて洗礼を受けたことはないし、ミサに参加したこともない。
それになにより、おれを囲むシズターたちの表情の硬いこと。中には明らかな敵意を宿している者もいる。そんな中で真実を話すと約束したところで、意味はあるのだろうか?
大体にして、おれはすでにセイセイという偽名を名乗っているのだ。真実もクソもない気がする。
けど……
「答えられないこともあるけど、答えられることに関しては正直に話しましょう」
おれは肯定した。保険をかけて。
「あなたは神の御使いで間違いありませんね?」
「そうですね」
「ですが、男性……ですよね?」
アキネの言葉には含みがある。それが性別のことに関してなのは間違いないが、真意がわからない以上追及しても仕方がない。
「そうですね」
問題は脇に置き、とりあえず首肯しておいた。
そのたった二回のやりとりで……おれはあることを思い出していた。
笑っていいとも! みたいだな、と。
なつかしいな。もうちょっと、このラリーを続けたい。
「加護を与えているのは、サラフィーネ様ですよね?」
うなずきづらい質問がきてしまった。おれが知っているのは、サラフィネであってサラフィーネではない。ないのだが……
「そう……ですね」
誘惑に負け、肯定してしまった。でも、こうしないと笑っていいとも! ごっこは続けられないのだ。
もう少しだけ。もう少しだけ続けさせて!
「加護の証明は出来ますか?」
「そうですね!」
反射的に、強く同意してしまった。
「では、証明してください」
まあ、そうなるわな。
一時の満足感は得られたが、おれは先ほどのごっこ遊びをひどく後悔した。そして、なぜ肯定したのかと自分を責めた。
「何卒お願いします」
んなもん出来ねえよ。なんて言いそうになるが、それはダメだ。ただでさえ厳しい目つきをしているシスターが多いのに、そんなことを言おうものなら殺されかねない。
考えろ! なにか方法があるはずだ。
「もしかして……出来ないのですか?」
「そうですね。いやいや、違う違う」
流れで肯定してしまい、慌てて否定した。こうなるともうあれだ。パニックだ。
「どうやら嘘のようですね」
アキネが残念そうにそうつぶやき、
「お前たち……やれ」
間髪入れずそう命令した。
「待て待て」
すぐさま実行しようとする武装シスターを、おれは手で制した。
「焦るなバカ者。あれだよあれ。ほら、あれ」
額に指を当てたり離したりしながら、喉元までなにかが出かかっているようなフリをした。
「あれとは、何ですか?」
知るか! とぶちまけたいが、それをやってはいけない。
「あれだよあれ。あっただろ!?」
あくまでなにかがあったのだと思わせ、時間を稼がなくては。
「これ……ですか?」
アキネがテーブルの上に剣を置いた。
「あっ!」
思いがけず声が漏れてしまった。見覚えのあるそれは、おれがサラフィネに貰った物だ。
間違いない。ということは……証明もできるな。
「それそれ。ちょっと貸して」
「どうぞ」
受け取り、腰に装備した。
『おおっ!』
周りから感嘆の声が上がった。
それもそうだろう。剣を携えるのと同時に、おれの身体に胸当てと手甲足甲が装備されたのだからな。
「神の御使いよ。やはり、あなたは我ら聖法母団の救世主なのですね」
アキネが感動に肩を震わせ、目を潤ませている。他の連中も跪き、おれに熱い視線を向けている。マリアナの表情だけは険しいが、皆と同じように跪いてはいた。
すごい掌返しだ。でも、生命の危機が去ったならありがたい。
「おれ、魔法使えないよ」
こういうことも言いやすいしな。
「理解しています。ですが、神の御使いにはサラフィーネ様の加護がおありであることがわかりました。そうであるなら、問題はございません」
マジか!? すげえな! サラフィーネの加護は! けど、油断してはいけない。きちんと確認しよう。
「どう問題ないの?」
「我ら聖法母団に害成す者を、腰に携えし剣で斬り伏せていただけばよろしいのです」
確認は正解だったな。まさかこんな恐ろしいことを平然と言われるとは……
「協力……していただけますね?」
協力、という言葉を強調された。
前の異世界でもそうだったが、言質を取りたがるやつが多すぎないか? まあ、フリーランスとして生きてきたから、その気持ちはわからなくはない。
だからこそ、簡単にはうなずけない。
それをするのは危険だと、おれの本能が訴えている。
「おれはこの世界に魔法を習いに来たのであって、殺戮をもたらすために来たのではない。そこは理解してもらっているのかな?」
「もちろんです。魔法修得の証として、西の砦を破壊していただくのです」
「破壊の理由は?」
「新たな砦の建設が予定されており、現在の物は不要になります」
「なるほど。皆もアキネの言うことに異論はないんだね?」
座するシスターたちが大きくうなずいた。
よし。言質は取った。
ただ、安心はできなかった。ナンバー2である、マリアナがうなずいていなかったから。




