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勇者は王妃に謁見した

「面を上げよ」


 謁見の間に、重厚な声が響き渡った。

 おれは声に従い顔を上げたが、どうということもない。

 目の前に映るのは薄い布。その奥に椅子に座っている人影のようなものが見えるが、はたしてそれが人なのかは判断できない。

 声を出したのも、布の左右で門番のように仁王立ちしている風神雷神のような迫力のある女性だ。失礼な話ではあるが、小玉……否……見る者によっては大玉スイカと評せるふくよかな胸がなければ、おれも彼女たちを男と勘違いしていたと思う。


「男……なのだな」


 布の奥から聞こえてきた声は、女性ようであった。ただ、性別よりも、声に含まれる落胆の色が濃いことが気になった。


「申し訳ありません。ですが、彼の者が身に纏う衣服は聖法着で間違いありません」


 顔中に汗をかきながら、アキネが必死に弁解する。


「疑いの余地は?」

「ございません! 聖法母団屈指の魔導鑑定士十名、全員が同様の結果を出しております」

「……そうか。なら、信じよう」


 言葉とは裏腹に、声は面白くなさそうだ。

 姿を隠している人間が、これほど感情をあらわにしていいのだろうか。

 それとも、隠す必要性を感じていないのか。

 どちらにせよ、おれは招かざる客なのかもしれないな。


「名を名乗れ」


 自分のことだとは思ったが、違ったら恥ずかしい。だから、なにも言わなかった。

 …………だれも口を開かない。周りを見れば、全員の視線がおれに向けられていた。

 やはりおれらしい。だが、念には念をと考え、自分を指さした。

 ものすごい勢いでアキネとマリアナがうなずいている。


「セイセイと申します」


 偽名を告げながら、おれは頭を下げた。

 なんでそうしたのかはわからない。けど、そうするのがいいように感じたのだ。


「セイセイか。変な名前だな」


 小馬鹿にした薄ら笑いが起きた。

 問題ない。清宮成生の清と成を音読みにしただけだからな。むしろ、咄嗟にしては良く思いついたほうだ。


「ではニセイよ。余のために働け」


 風神雷神が爆笑した。アキネとマリアナは声を出すことをこらえてはいるが、肩が上下に動いている。いや、もういっそ笑えよ。そのほうが清々しくていいだろ。王妃も自らのボケに手ごたえを感じるぞ。

 おれには一切伝わらんが。


「つまらんな。以上で謁見は終了だ。下がれ」


 ノーリアクションだったのがお気に召さなかったようだ。これは申し訳なかったな。愛想笑いでも浮かべるべきだったな。

 だが、もう遅い。


「はっ」


 来たとき同様マリアナに腕を掴まれ、おれは謁見の間を後にするのだった。


「聖法母団もお終いだな」


 背中越しにそんな声を聞きながら。



「よく我慢してくださいました」


 教会に戻ってきてすぐ、アキネがおれに頭を下げた。


「いや、我慢もなにもないけど」

「そうなのですか?」


 不思議そうなアキネに、マリアナが言った。


「アキネ様、神の御使いは異界人です。王妃様の言葉の真意を理解していらっしゃらないのではありませんか」

「なるほど。その可能性はありますね」


 アキネがポンッと手を打った。


「そっちだけで納得しないで、説明してくれ」

「ですが、気分を害される話ですよ」

「あの場にいたんだ。自分がどう思われているかは予測がついてるよ。だから、遠慮はいらない」

「わかりました。ですが、まずは王妃様の無礼を謝罪させていただきます。申し訳ありませんでした」


 アキネの言葉からは誠意が伝わってくる。


「謝罪は受け入れた。だから、話を進めてくれ」

「王妃様は女尊男卑の思考が強いのです」


 驚きはない。むしろ、そうだろうな、という感想だ。


「ですから、セイセイ様の名をもじってニセイなどと……ブフッ、失礼な」


 いや、お前も笑ってるけどね。とツッコんではいけない。そんなことをすれば、また話が進まなくなってしまう。


「どう失礼なの?」

「それ……は……ブフフッ」

「魔法皇国ではすべての職は能力で決まります」


 笑いをこらえるのに必死なアキネに代わり、マリアナが説明を始めた。


「世襲は皆無に等しいのですが、高い地位にある者の子が優秀であるとは限りません」


 それはそうだろうな。環境に甘えるやつというのは、どこの世界にもいるものだ。


「その子たちを無理やり自分の部下にする親も存在します。分不相応な立場に親の権力を使って就く者を、この国ではニセイと呼んで馬鹿にします」


 なるほど。王妃からすれば、男のくせに神の立場を借りてこの地に降り立ったおれは、まさしくニセイなわけだ。

 偶然だが、セイセイと名乗ったこともそれに拍車をかける結果となった。

 無能と言われ腹が立たないわけじゃないが、それならそれで好都合だ。面倒事には一切かかわらず、魔法の習得に時間をかけられるからな。


「ですが、我々は違います。聖法着を纏うセイセイ様は神の御使いです。どうか、我らにご助力ください」

「最初のほうからずっと気になってるんだけど、聖法着ってなに?」

「神が纏う衣です。その布は聖魔法を無力化します」


 それでわかった。


「だから、銃で撃たれても平気だったのか」


 確かあのとき、銃を構えたシスターはホーリーショットと言った。それは言葉の通り、聖魔法の銃弾だったのだろう。


「おっしゃる通りです。ですが、それだけでなく、十人の魔導鑑定士もお墨付きを与えています。そうなれば、疑う余地はございません」

「鑑定士……ねぇ。そういえば、おれはいつ鑑定されてたの」

「セイセイ様が現れてからすぐです。そのときの無礼も、重ねてお詫びします。ですが、鑑定に時間を有したのもご理解いください」


 まあ、ベッドで寝ている男が召喚されたら、だれでも怪しむだろう。いきなり襲うのはどうかと思うが、マリアナは下着を見られているからな。これも仕方がない。その後の小馬鹿にしたような会話も、本当にへりくだっていい相手かどうかわからなければ、致し方ない。


「うん。謎は解けた。もう、文句はない」

「そうですか。ありがとうございます」


 マリアナが笑みを浮かべた。

 サラフィネが言うように、会話は重ねるべきだな。そうすれば、誤解は解けるし、わかりあえる。


「では、西の砦を破壊してきてください」


 …………そうでもないかもしれない。


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