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勇者、己の性能を知る

 荒んだ心ゆえか、鉢合う魔物を片っ端から屠った。

 そして、理解した。

 おれは、強い。

 この世界においてどうなのかは知れないが、少なくとも上中下の上の部類だと思う。希望的観測で底上げされてはいるが、根拠がないわけじゃない。

 三つのそれがあるのだ。

 まず第一に、サラフィネに貰った剣は、すごい切れ味だった。

 兎、熊、大木などを斬ったが、刃が止まることがない。すべて一刀両断だ。

 剣術の素人がやってこれなのだから、それは得物の性能が高いということで間違いない。

 もっと言うなら、この剣は空気も切れる。

「風波斬」などと冗談半分だったが、文字通り剣を振るった波動が風の斬撃となり、遠くのモノを切断した。

 これには驚いたを通り越し、恐怖に軽く膝が震えたほどだ。

 おれ自身、一番切れる刃物は日本刀。

 日本人ということもありそう信じてきたが、サラフィネがくれた両刃剣は神が作った業物である。日本刀を凌駕していても不思議ではない。

 感謝だ。

 武器は文句のつけようがない。

 しかしそれは、武器に限ったことではない。

 武具も凄い。

 それが第二の理由だ。剣と同時に顕現した胸当て、手甲、足甲。これだけでは剥き出しの部分が多いと不満だったが、目に見えないだけで、きちんと全身が守られている。

 物凄く薄い透明の膜が体を覆っていると考えてもらえば解り易いだろう。

 それがわかったのは、防具の性能を試すためにわざとくらった熊や一角兎の体当たりが原因だ。

 初めこそ避けていたのだが、思いのほか焦ることがなかった。

 付け加えて言うなら、それらに苦戦することもなかった。だから、あえて武具のないところで試してみようと思ったのだ。

 だが、これが思わぬ事態を呼んだ。一方的に屠るだけだったおれが急に無防備になったものだから、熊や一角兎たちは総攻撃をかけてきた。

 乾坤一擲という言葉がピッタリだった。

 その数も凄まじく、わらわらと森の奥からも増援が現れ、捌ききれなくなったのだ。そして、体のあっちこっちをドツかれた。

 パニック。

 あのときの心情はその一言だ。

 だが、次第に冷静にもなった。

 どこも痛くなかったから。

 それどころか、よくよく確認すれば、手甲や足甲に突撃してきた熊の骨や兎の角を粉砕していた。殴ったり蹴ったりしたわけじゃない。おれはそこにいただけである。

 それで理解した。これは防具というよりは、武器だ。そう思わせるほど、強固な作りをしている。

 なのに、軽い。

 感覚的には、ベストと手袋と靴下を身に着けている感じだ。

 装備は一級品。

 唯一の難は、剣を腰から外すと、胸当てなども消えることだ。

 万が一にもかけるのがイヤで、小用を足す際に剣を外したとき、それを理解した。

 少し焦って、ズボンを濡らしてしまったのは内緒だ。

 まあなんにしろ、鞘を付け直したら胸当て等も再び装着されたので一安心した。

 サラフィネからの装備品に加えて、第三に、おれ自身の身体能力も格段に向上している点がある。

 泉からトコトコ歩いているのだが、体感では三~五時間ぐらい経過しているのではなかろうか。

 中年になり体力も筋力も衰えた身では、長時間ただ歩くだけでもしんどいはずが、まったく疲れを感じない。

 途中途中で魔物や動物と戦闘していることも考慮すれば、身体能力は事故前より数百倍に加算されている。

 跳べば数メートルは楽勝だし、本気を出せば雲の高さまでいけた。

 駆ければ動物はおろか、スポーツカーくらいの速度は出せる気がする。

 そのため、殴る蹴るは本当に加減しなくてはいけない。

 一度思いっきり拳を振り抜いてしまったが、それを受けた魔物が粉砕したときは焦るよりも謝罪の気持ちが勝った。

 スプラッタはもう御免だ。

 自分の手足だが、これは凶器だ。破壊兵器だ。

 可能な限り行使してはいけない。

 ただまあ、加減を知れば扱いやすい。

 自分の体ということもあるのだろうが、わりかしフィットするまでにそこまでの時間はかからなかった。

 そういう意味では、魔物と戦いながら移動できたあの状況は、良かったのかもしれない。

 もし仮に街の中からスタートしていたら、いまごろは大量殺人犯になっていただろう。

 勇者から殺人犯に強制ジョブチェンジは勘弁してほしい。

 まあ、そんな転職をせずに済んだのだから、悪いことばかりじゃなかった。

 そう思えるのも、ようやく街が現れたからだ。


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