勇者、三度目の異世界転移を認識する
薄々感ずいてはいたが、どうやらおれは三度目の異世界転移を済ませているようだ。
不満はあるが、入浴と食事と睡眠の時間があったのだから、過去二回と比べればマシかもしれない。
そう思えるのも、事前にサラフィネと話していたからだ。
「あなたを魔法の世界へと送り込みます。そこで魔法を体得するのです。現地での案内は手配済みですから、ご心配には及びません」
みたいなことを言っていた。
つまりは、ここがそうなのだろう。
「魔法って覚えるの大変?」
『えっ!?』
全シスターが一斉に眉をしかめた。
なにかマズイことを訊いたのだろうか。
「ここって魔法の世界じゃないの?」
「そうです。魔法皇国トゥーンで間違いありません」
『よかった』
胸をなでおろすおれと、シスターたちの声が重なった。
これではっきりしたな。確実にボタンの掛け違いが発生している。
「女神サラフィネは知ってるよね?」
「当然です。ですが、我が皇国では女神の名はサラフィーネと発音します」
一音伸びるか伸びないかは問題じゃない。問題なのは、それが同一人物であるかどうかだ。
「写真はあるかな?」
「写真とはなんでございましょう」
そうか。この世界には写真と言う概念がないのか。もしくは、違う言い方をするのかもしれないな。
おれは写真の概要だけ伝えた。
「神の世界にはそのような物まで存在するのですね。残念ながら、この世界にそのような技術は存在しません」
感心しながらも、老婆は首を横に振った。
自画像もなく、あるのは彫刻のみ。教会の一番いいところに据え置かれているのがそれだと言われ見たが、サラフィネだと肯定することも否定することも出来なかった。似てると言えば似てるし、違うと言えば違う。仮にこれをサラフィネだとするなら、おれは五~六〇点を付けざるを得ない。
困った。けど、こうなれば仕方ない。この問題は放置だな。解決できることから手を付けよう。
「なんでシスターマリアナは下半身を丸出しにしていたのかな?」
ボンッと音がするほどマリアナの顔が一気に赤くなった。
自分で言っておいてなんだが、セクハラだな。けど、これを訊いたのにはわけがある。糾弾するなら、その後でお願いしたい。
「召喚の儀の途中で破けてしまいました」
蚊の鳴くような声でマリアナがそう説明してくれた。
「ということは、おれをこの世界に呼んだのは君たちなんだな」
マリアナが大きくうなずいた。
「理由は?」
「ご助力を賜りたく存じます」
まあ、そうだろうな。用もないのに神様を呼び出す馬鹿はいない。
だが、だからこそわからない。サラフィネはおれに魔法を覚えてこいと言ったのだ。
なのに、神様に縋る状況まで追い込まれた場所に送るだろうか?
答えは否だと思う。
理不尽極まりない女だとは思うが、サラフィネは人でなしではない。なら、こうなった理由があると考えるのが妥当だろう。
おれが推したいのは、入り口と出口が変わった説だ。
例えば、サラフィネはおれに魔法を学ばせるために魔法学校などがある異世界に転移させようとした。けど、マリアナが召喚の儀式を行ったことにより、本来おれが行くはずだった世界ではなく、この世界に来てしまった。
どうだろう。中々の説得力ではなかろうか。
答え合わせのできない現状、そう思って話を進めるしかない。
ただ、問題もある。彼女たちが具体的になにをおれにさせたいのか。それをはっきりさせなければならないし、数少ないはっきりさせられることでもある。
「なにを望むか、具体的に口にしていただこう」
「それは私からいたします」
老婆が一歩前に進み出た。
「遅ればせながら名乗らせていただきます。アキネと申します。サラ教会聖法母団の宗主を務めています」
サラ教というのがどれほどの規模の団体なのかは不明だが、目の前のアキネと名乗った老婆が権力者であることは間違いない。
願わくは小さな宗教団体であってほしいものだ。
「聖法母団は王妃様より国土の防衛を任されています」
願いは届かなかった。王妃の勅命で国土防衛を担う集団が、小規模であるわけがない。
「そのご助力を賜りたく存じます」
とんでもなくデカイ話になりそうだな。
そして、おれが魔法学校のようなところに行くことはないな。
「王妃様との謁見の場を用意しています。疑問のあるかとは存じますが、詳しくはその後に説明いたします」
「では、参りましょう」
マリアナがおれの右手に腕を絡めた。
それはエスコートというより、逃がさないぞ! という意思の表れのようだった。




