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勇者の休暇

 竹編みの篭に綺麗にたたまれた衣服が用意されていた。

 手に取るとそれは、白いTシャツとブルージーンズだった。

 デザインはシンプルで、素材を加工し縫い合わせただけ。ファッションに疎いおれはそう思うが、実は巧妙な工夫がされているのかもしれないな。

 ただ、そんなおれでも、この素材が上質であることだけはすぐに理解できた。

 肌触りがいい。持っただけでこれなのだから、袖を通したらどう感じるのだろうか。それに軽い。あまりに軽すぎて、心許なさを感じるほどだ。


「破けないよな?」


 裾の部分を左右に引っ張ってみた。

 伸びた。けど、力を緩めるとすぐに戻る。伸縮性は抜群だ。

 よし。着てみよう。

 貫頭衣を脱ぎ、Tシャツだけを身につけた。

 いい。最高だ。服を着たというより、皮膚が厚さを増したように感じる。


「どれ」


 浴室の扉を開け、中に入った。

 暑い。湿気もあるな。ただ立っているだけでも良さそうだが、おれは浴槽に足だけ浸けた。いわゆる足湯だな。

 早くも汗が浮いてきている。だが、じっと我慢だ。もう少しこのままで。

 一、二分経過しところで、おれは脱衣所に戻った。


「おおっ!」


 感嘆の声が漏れてしまった。というのも、シャツの吸水性が凄い。それは数多の高性能バスタオルと同等か凌ぐほどだ。なのに肌に張り付いている感じがしない。


「天使の技術やべえな」


 地球で売れば争奪戦は必至だな。


「くぅぅぅぅぅ」


 ダメだ。唸ることを止められない。

 信じられないが、乾燥も段違いだ。さっき濡れたはずのシャツが、もう乾いている。

 匂いを嗅いでみたが、悪臭もしない。

 これはもうあれだ。逆に売っちゃいけないヤツだ。性能が良すぎて戦争になりかねない。

 それぐらい素晴らしい。

 問題は皆無だ。

 後は寒さにどうなのか知りたいところだが、それはパスだな。

 理由は簡単。おれが寒いのが嫌いだから。


「準備はよろしいですか?」


 部屋の外から、サラフィネの声がした。


「ああ、いま行く」

「お待ちしています。けど、一応、汗は流してくださいね」

「見てた?」

「見てはいません。しかし、なにをしていたかは予想が出来ます」

「わかった。すぐ行く」


 シャツを脱ぎ、浴室に駆け込んだ。

 良い物を着て、その品質を堪能したかっただけ。

 恥ずかしいことはしていない。していないのだが、おれは汗を流す口実に水をかぶった。

 秘密のヒーローごっこやおままごとを見られていたような気分だ。

 冷静に。冷静になろう。

 桶に汲んだ水をひたすらかぶる。


「よし。大丈夫だ」


 気持ちは切り替えた。汗も流した。リセット完了だ。

 浴室から出ると、竹かごの中にタオルと新しいTシャツが用意されていた。

 タオルも素晴らしい。一度拭いただけで、体に付いた水滴が綺麗に取れた。


(地球に帰ることがあるなら、お土産に数セット欲しいな)


 そんなことを思いながら、おれは衣服を取り換え、部屋を出た。


「サイズはどうですか」

「問題ない」


 正直、ピチッとしたジーンスなどは苦手なのだが、いま身につけている物に関しては丈の長さもそうだが、服と肌の間に適度な空間があり、好みに合っている。

 文句のつけようがない。


「それは喜ばしいことですね。では、食事にしましょう」


 サラフィネと一緒に隣の部屋に移動した。

 広いな。二、三〇畳はくだらない。その中央に円卓が置かれていた。


「どうぞ」


 グラマラスな天使のお姉さんが椅子を引いてくれた。

 こういう接待みたいな雰囲気は好きじゃないのだが、無下にも出来ない。


「ありがとう」


 礼を言いながら、着席した。


「では皆さん、ご苦労様でした。退室していただいて構いません」


 サラフィネの言葉に頭を下げ、天使たちが部屋を後にした。

 うん。こっちのほうがくつろげる。


「わたしもご一緒していいですか?」

「ああ、もちろんだとも」


 用意されている食事は、一人で食べきることは不可能だ。残すくらいなら、二人で食べたほうがずっといい。


「ありがとうございます。では、冷めないうちにいただきましょう」

「そうだな。いただこう」


 和洋中の豪華な食事に舌鼓を打つ。どれも絶品で、箸が止まらない。年齢もあって食が細くなっていたのだが、今日はイケる!

 サラフィネも箸が進んでいる。細い体にしてはよく食べている。

 内心、なにかあるんじゃないかと構えていたのたが、それも杞憂らしい。

 別段変わったこともなく、おれたちは食事を楽しんだ。



「ふいぃ~、満腹だ」


 食後のお茶を飲みながら、おれは膨れた腹をさすった。

 幸福感が胸を占めるいまが、死んでから一番満たされている気がする。

 だからか、どっと眠気に襲われた。


「わりぃ、寝るわ。ベッドどこ?」

「あの天蓋の奥です」


 白で重なっていたから気づけなかったが、サラフィネの指す先には天蓋があった。


「んじゃ、おやすみ」

「はい。いってらっしゃい」


 ??? 受け答えとしておかしくないか?

 ……ダメだ。頭が働かない。一旦寝よう。

 おれはベッドに向かう。


「いいですね。大魔王討伐が目的で、魂の回収はおまけです」

「ああ。わかった。その話は起きてからしようぜ」


 後ろから聞こえてきた声に手を挙げて答え、おれはベッドに横になった。


「では……闘を……祈…………ます」


 サラフィネがなにか言っているのはわかったが、よく聞こえなかった。

 おれの意識はそこで切れた。


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