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勇者は断固として異世界転移を拒みたい

「質問」


 おれは勢いよく手を挙げた。


「発言を許します」

「いまから始まるのはオマージュやパロディーといった趣旨のものですか?」

「いい質問ですね。率直に言いましょう。違います」

「違うんですか!?」


 予想外の答えに、声が上ずんでしまった。


「ええ。違います。なぜなら、わたしはご指摘のものをそれほど詳しく存じ上げていません」

「なら、前フリとしては最低だと思います」

「引きとしてはまあまあだったので、問題ありません」

「誇大広告と非難された場合、反論できません。いますぐ訂正と謝罪を要求します」


 授業というより、記者会見のようになってきた。


「なるほど。あなたはそうやってマウントを取るのですね。いいでしょう。ここは素直に謝罪します。申し訳ありませんでした」


 サラフィネは腰を折り、深く頭を下げた。

 その謝罪はマナー講座のお手本のようであったが、こうすれば謝っているように見える、といった意識が透けて見て取れた。

 注意しなければいけないだろうな。謝罪は誠心誠意しなければ意味がない。


「サラフィネよ。心が変われば態度が変わる。態度が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる。運命が変われば人生が変わる。と言った有名な野球人が地球にいたんだ」

「存じ上げております。南海、ヤクルト、阪神、楽天などを率いた名将、野村克也氏のお言葉ですね」

「う、うん。そうだね」


 知ってんのかい!? というツッコミを飲み込み、うなずくことしかできなかった。


「あれは確か、ヒンズー教の教えから引用したのでしたね」


 やばい。おれより詳しい。こちとら元ネタは知らねえよ。


「おや? その顔はひょっとしてご存じありませんでしたか?」


 図星だぜ。あまりのことに、心臓がズキンッ! と飛び跳ねたね。


「いいいや、知ってたよ」


 ダメだ。これほどろれつが回っていなければ、認めたも同然だ。


「疑ってはいません。勇者は知識と良識を合わせ持った賢人ですから」


 バカ野郎。賢人はこんな解り易いウソはつかないし、間違いはすぐに認める。それが出来ないおれは、賢人ではない。断じて違う。


「ではお訊きしますが、勇者はなぜその名言をわたしに告げたのですか?」


 謝罪は誠心誠意しなければいけない。なのに、あの謝罪はどうだ。形ばかりにこだわり、心が伴っていないじゃないか。心が変われば態度が変わる。態度が変われば行動が変わる。まさにその通りだ。理解できたなら、もう一度やってみなさい。


「ごめんなさい」


 心中にあった論法を弾き飛ばし、おれは椅子から飛び降りて土下座した。


「謝罪の理由を伺ってもよろしいですか」

「ほんと、勘弁してください。お願いします」

「非を認めるのは立派なことです。しかし、あなたは自己完結が多すぎます。なぜ、もっと周りとコミュニケーションを図らないのですか? それが原因で、先の異世界でも失敗をしましたよね?」


 ぐうの音もでない。これはあれだ。いま分かった。ハメたつもりが、見事にハメられていたのだ。


「それが駄目とは言いません。現にあなたは、地球でも立派な収入と社会的信頼を勝ち得ていました。地球とは環境の激変した二つの異世界においても、見事大魔王の討伐を果たしました。これは称賛こそされ、非難されるものではありません」


 穏やかな声音が降り注ぐ。

 これは思っていた角度と違う。おれはガンガンに糾弾されるのだと思っていたのに。


「ですが、それを行った方法がいただけないのです。特に、先の異世界での行動は大いに反省すべきです」


 サラフィネの言葉には重みがある。何度も言われていることだが、それほど噛んで含んで伝えたいことなのだろう。


「はい。申し訳ありませんでした」


 おれはおでこが床に着くほど頭を下げた。


「やはりあなたは聡明ですね。自分の不手際を認め、謝罪できるのは優れた証拠です」


 サラフィネの声が少し弾んでいるように感じたので、おれも少しだけ顔を上げた。

 優しい笑みを浮かべていた。

 さっきとは違う意味で、心臓が少し撥ねた。

 目が合った瞬間、サラフィネの目じりがキッと持ち上がった。


「視感はやめなさい」

「イデェ!」


 無実の罪で、おれは鞭で叩かれた。


「まったく、油断も隙もありませんね」

「いや、いつどこでだれが視感したよ!?」


 おれには一切の覚えがない。


「視線に邪なものを感じました。わたしは女神ですからね。そういうものには敏感なのです」


 言い切りやがった。胸を張る姿からは、絶対の自信がうかがえる。


「なら、女神の力も大した事ねえな。おれはお前をそういう対象で見たことがねえからな」

「無意識ですか。それが一番危ないですね。わかりました。では、三つ目の異世界に赴いてもらいましょう」

「待て! 毎度のことながら、話が噛み合ってねえ」


 手で制止するおれに、サラフィネが言った。


「勇者よ。先の異世界で力の増幅を実感したでしょう」


 おれはうなずいた。ネイ、マールたちと戦っているときに、そういうことがあった。


「あれは、あなたと二号の精神と肉体が完全に一致したことで起きた現象です。二つのものが一つになり、本来の力を取り戻したのです」


 なるほど。穏やかな心を持ったおれが、激しい怒りを覚えたことによってパワーアップしたんじゃなかったのか。

 理由がわかったのはいいが、ちょっと残念でもある。


「だが、それと異世界転移は繋がらんぞ」

「いいえ、繋がります」


 断言された。このまま放置すれば、強制的に飛ばされる。

 それはいただけない。

 是が非でも論破し、おれは休暇をもぎ取る!


「理由を聞かせてもらおうか」


 心を決め、おれは着席した。


「よろしい。では、今度こそ授業と行きましょう」


 サラフィネも教壇に戻るのだった。


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