勇者は見た! 穴の中にいた竜を
「いよっ」
着地と同時に、おれはもう一度宙に跳んだ。
「どれどれ」
上空から見れば、森の現状が掴めるだろう。
正解だった。高層ビルなどの遮蔽物がないから、全体が良く見える。
前回確認したことに間違いはなく、森の中央に大きな穴が開いている。
どうやら穴はいまだ拡張している様子で、周辺の地盤を消失させ、そこにある樹やモンスターを呑み込んでいる。
……いや……違うのか?
違和感を覚え、おれは目を凝らせた。
穴は確かに開いていて、拡張もしている。ただ、そのスピードは遅い。
初めが重機で掘っていたとするならば、いまは大きめのシャベルといった感じだ。拡張のスピードはぐんと落ちたといっていいだろう。
なのに、穴にはいまも樹やモンスターが絶え間なく落ちて行っている。
穴の拡張とそこに落ちる物体の数が合わない気がする。動けない樹はともかく、走って逃げられるモンスターが、あれほど落ちるとは考えにくい。
なら、それが意味するところは……穴もしくは、そこにいるであろう魔王が、周囲のものを吸い込んでいる。ということではないだろうか?
……なんのために?
第一、上から物が詰まれば、下にいる魔王は出て来にくいはずだ。あえてそれをする理由があるのだろうか? あるとすればなんだ?
自己紹介を兼ねた破壊の挨拶。
悪の帝王による殺戮ショー。
魔王はまだ完全体じゃないから、魔物を吸収したい。
ダメだ。少年漫画みたいなことしか思い浮かばない。
……考えてもわからないなら……仕方がない。
食べられてしまうかもしれないが、穴に入ってみるか。
「ガアアア」
思案するおれの耳に、聞き覚えのある咆哮が届いた。
「これはあれだな。蘇ったな」
見れば、森の中からロナウドが飛び出してきた。予想は的中だ。
「おう、マジか!?」
それでも驚いた。驚いてしまった。
もともとデカかったロナウドの体が、さらに二回りぐらい大きくなっている。具体的に言えば、その手に握られている大きな針葉樹が小さな槍に見えるほどだ。
「ウソだろ!?」
その瞳は完全におれをロックオンしている。憎悪の炎もメラメラと燃え盛っている。
蘇ってすぐ、おれを見つけて飛び上がったのだろう。
「ガアアアア」
やる気満々だ。
……魔王の前にまたロナウドと戦うのか。
「めんどくせえなぁ」
いけない。思わず本音が漏れてしまった。ただまあ、距離も離れているし、声も小さかったから大丈夫だろう。
「面倒なのは我も同じだ」
ヤベェ。聞こえてた。
「今すぐ殺してやりたいが」
ロナウドが歯噛みした。よほど悔しいのか、あごからギリギリと音が鳴っている。
「貴様を殺すのは後だ。今は、より面倒な方を始末するのが先だ」
より面倒な方!? 言っていることの意味がわからない。魔物たちは魔王が穴から出てくるために活動していたのではないのか?
「ガアアア!」
吠えながら穴に向かって針葉樹を投げるロナウドからは、魔王のためという気配は微塵も感じない。
「マジか!?」
物凄い勢いで穴に針葉樹が突き刺さり、おれは目を見開いた。
目覚めの一撃。などというレベルではない。確実に穴の中にいるなにかを殺すもしくは、粉砕しようとしている。
「進撃しろ!」
ロナウドの気勢に反応するように、森からモンスターの叫び声が上がった。
「どういうことなんだよ」
落下するおれは首をひねった。
益々もってわからない。
「あいつらは魔王のために働いてるんじゃないのか!?」
「勇者様」
「なにが見えた。説明してくれ」
着地したおれのもとに、ワァーンと甲冑騎士が駆け寄った。
「う~ん」
どう言ったらいいかわからず、おれは腕を組んでうなった。説明しようにも、おれ自身が理解できていない状態では無理だ。
「わりぃけど、ちょっと待ってくれ」
そう言い残し、おれは再度上空に跳んだ。
地面に降りたロナウドが穴に向かって進軍している。周りの樹々が揺れているので、部下たちも追従しているのだろう。
そこから考えられることは……穴から出てくるのは魔王ではない。……じゃあ、なにが出てくるのだろうか?
「グゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
正解は、竜だった。「えっ!? 竜って神様じゃねえの!?」
世の中わからないことだらけだ。
「グゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
肯定? 否定? どっちかわからないが、竜が吠えた。なんとなくだが、その声は不機嫌そうだった。
「ああ、これはあれだ。魔王も竜だったってオチだ」




