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勇者は裸身像を破壊した

 一の村に案内してくれた矢印は消えていた。ほんの少しだけ残っているのを期待していたが、ダメらしい。まあ、その可能性のほうが高いと思っていたし、あったとしてもおれの行きたい場所を指し示してくれるのかも不明だ。

 信じてついて行った結果、別の場所でした。では笑い話にもならない。

 予定通り、自力で向かおう。

 行き先は、六の村だ。

 目印も案内もないが、問題もない。視認すればいいのだ。


「よっ」


 軽く助走し、おれは宙に跳んだ。


「絶景かな絶景かな」


 樹々の二倍近い高さまで飛び上がれば、下は良く見えた。森の中にある村は拓けており、簡単に見つけることが出来た。


「どれが六の村かな?」


 目視では判別できない。どれも同じに見える。ご神木のあるなしで判断しようかとも思ったが、いまいちよくわからない。

 仕方ない。勘に頼ろう。


「どれにしようかな」


 と言いながらも、おれは直線状にある村をロックオンしていた。


「風波斬」


 進路上にある樹に向け、剣を振るった。

 ヒット。倒木を確認しながら、おれは着地した。

 視線の奥に倒れた気が見える。ということは、あの樹の先に村があるということだ。


「風波斬」


 道を作るべく、おれは真っすぐに風波斬を放った。

 割り箸を折るように簡単に樹が伐採されていく。見通しは良くなったが、罪悪感も覚えてしまう。


「ごめんね、ごめんね~」


 謝罪しながら、おれは拓けた道を行く。思いの外簡単に、村に着くことが出来た。

 もう一度くらい空から確認しなければいけないかもしれないと思っていただけに、それは嬉しい誤算だった。

 ただ残念ながら、そこは六の村ではなかった。

 ここは、たぶん四の村だ。

 穏やかでいて、人気がない。けど、よく考えれば、それはおかしい。森の住民たちはどこも原始的な暮らしをしていた。であれば、貴重な日の光がある昼間に、外に人がいないということはないだろう。注意深く目を凝らせば、村には戦闘の痕跡もある。

 いまならわかる。

 おれが前に来たときには、すでに四の村は壊滅していたのだ。

 なぜそれをワァーンが隠したのかは不明だが、いまとなってはどうでもいい。それよりも、ご神木の確認だ。

 森に入ると、倒れた樹があった。これで間違いないな。

 よし。次に行こう。

 さっきと同じように、ジャンプして空から村を確認する。


「あそこが六の村だな」


 目星を付けたら、同じように風波斬で樹を伐り、まっすぐ走る。

 森林破壊を棚上げすれば、この方法はアリだな。驚くほど迷うことがない。

 あっという間に村に着いた。


「勇者様!?」


 ワァーンがいたから、六の村で間違いないな。


「ご無事だったのですね。急にいなくなられたので、心配したのですよ」

「悪い悪い。けど、この様子なら村は無事だな」

「ええ。勇者様の機転もあり、危機は回避できました」


 ワァーンは嬉しそうだ。

 まあ、被害がなかったならなによりだな。ただ、おれはその心配はしていなかった。

 ご神木が倒れたいま、村が襲われることはないのだろうし。


「勇者様が倒してくださった魔物たちの後始末も行いました」

「ありがとう」

「どういたしまして。ところで勇者様、いままでどちらに行っておられたのですか?」

「三の村と一の村」

「えっ!?」


 ワァーンが驚きに目を見開いた。


「三の村はご神木共々ダメだった。一の村はなんとか持ちこたえてる」

「そんな……」

「帰りしな、四の村にも行った」


 たまたまだけど。とは言わなかった。けど、それだけでおれが言わんとすることは理解できたのだろう。


「申し訳ありません」


 ワァーンが深く頭を下げた。


「気にしないでいいよ。それより、あれはなに?」


 村と森の境目あたりに、木彫りの像があるのに気づき、おれは指さした。


「あれは……」


 ワァーンが顔を赤らめ言いよどむ。まあ、その気持ちはわからないでもない。

 だって……あれはどう見てもワァーンだ。しかも、裸体の。芸術なのかもしれないが、おれには理解できない。

 正直、あんなもん作るやつの気が知れんし、衆目の中飾るのは狂気の沙汰だと思う。


「村長は?」

「父はベイルさんと一緒に五の村に行っています」

「あれが飾られてるのは知ってる?」

「はい。設置したのは父ですから」


 マジかよ!? 信じらんねえんだけど。実の娘の精巧な裸身像をこんなところに飾るかね。


「村人から異論はないの?」

「新たなご神木です。咎める者などいようはずがありません」

「新たなご神木? あれが?」

「はい。いまはあの姿ですが、数年後にはかつての姿を取り戻します」


 特別な樹だからだろうか。でも、そんなことがあり得るのか?

 樹を伐るのは簡単だ。けど、育てるのは難しい。それが地球の常識である。

 植樹をしてから立派な樹になるまでには、何十年という歳月を要するのだ。

 それがたった数年で大木になるとは……地球にも植えてくんねえかな。

 まあ、冗談はさておき、おれには確認しなければいけないことがある。


「じゃあ、あれもご神木なんだ」

「そうですね。でも、魂がまだです」


 ワァーンの表情に急に影が差した。


「魂……ねえ」


 それだけで、ネガティブなことが起こるのであろうことは予想できた。


「いいんです。それは私が負わなければいけない咎なのですから」

「死ぬの?」

「死ぬわけではありません。勇者様の導きによって、ご神木とその身を重ねるのです」

「難しいことはわからないが、それをしなければご神木じゃないってことかな」

「そう……ですね」


 歯切れが悪いということは、ワァーン自身すべてを理解しているわけじゃないのだろう。

 なら、放置はできないな。


「ワァーン。責任はおれが取る」

「勇者様!?」

「風波斬」


 困惑の表情を浮かべるワァーンを横に、おれはワァーンの裸身像に風波斬を放った。


「!!!!!!」


 声にならない悲鳴を上げるワァーンを残し、おれは一足飛びで間合いを詰め、裸身像を細切れにした。

 うん。これは精神的にもいい感じだ。牧歌的な村に、あんなものは必要ない。


「それじゃあ、ワァーン。おれ行くとこあるから」


 ジャンプし、次に行く村を探す。

 すぐに見つかった。けど、なんだか面倒臭そうだ。空から見てもあそこがモンスターに襲われているのがわかる。

 まあ、おれが着く前に壊滅するなら、それもありだな。


「風波斬」


 いままでと同じように目印を付ける。


「勇者様!? なにをしてらっしゃるのですか!」


 着地したら、ワァーンに怒られた。


「ごめんごめん。次の村に行くために目印が必要だからさ」

「私が案内します! 森の破壊はやめてください!」


 軽い感じで謝ったら、物凄い剣幕で怒られた。

 そうだな。懸命に生きてきた場所を破壊されれば、だれでも怒るか。


「ごめんなさい。それと、道案内お願いします」

「よろしい。では、行きましょう」


 そう言って、ワァーンが手を広げた。

 このパターンか。

 文句も言えず、おれはワァーンを抱えて五の村に行くことになった。


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