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勇者は夢の中で神様と会う

冒頭数行を掲載し忘れました。ごめんなさい。

 村内を確認したが、生存者は〇。皆殺しにあったようで、死骸がそこかしこに散らばっている。家もほとんどが倒壊している。


「ご神木も無理かな」


 半ば諦め、そこに向かう。迷うことはない。村内から森にかけ、男たちの死体が矢印のように連なっている箇所がある。そこに、ご神木はあるのだと思う。

 あった。

 男衆の亡骸と一緒に、根元からへし折られていた。

 こうなってはどうすることもできない。

 話も聞けないし、六の村に戻ることも叶わない。

 弔ってやりたいが、一人では無理だ。


「どうしたものか」


 髪を掻きながら、おれは途方に暮れた。

 手詰まりではないのだが、すぐに動き出せるほど気楽じゃない。村と自分の置かれた惨状に、心が沈んでしまった。

 足が重い。

 墓荒らしのようで気は進まないが、おれは三の村に戻って休むことにした。


 備蓄の食糧を頂戴し、お湯を沸かして体を洗った。肩の傷をそのままにはできないからな。消毒液などないので、応急措置としてアルコール度数の高い酒で代用した。清潔な布を患部に巻き付け、後は膿んだりしないことを願うのみ。

 そんなことをしているうちに時間が経ってしまい、日が暮れ始めてしまった。

 仕方ない。今日はここに泊めてもらおう。


「すみませんが、ベッドをお借りします」


 家主はいないが、おれは頭を下げてから横になった。



「る~るる。るるる。る~るる。るるるる~る~る~る~る~」


 聞き覚えのある曲だ。けど、眠りを妨げるのはやめてもらいたい。


「る~るる。るるる。る~るる。るるるる~る~る~る~る~」


 ヤバイ。エンドレスに入った。たぶん、起きるまで続くな。


「る~るる」

「もういいよ」


 おれは布団から身を起こした。

 三の村の一室にいたはずだが、そこは真っ白な世界だった。いつの間にかベッドも消え去っており、おれは立っていた。


「やあ。神様の部屋にようこそ」


 目の前には、キングサイズのソファーに腰を深く沈める超絶美男子がいた。銀髪碧眼。陶器のように艶々で白い肌を、サラフィネと同じような神官着で包んでいる。違いはサラフィネのようにオーバーサイズではなく、体にフィットしたものを着ていること。だからこそ、彼の身体が分厚い筋肉で覆われていることがわかり、性別を判断できたのだ。


「どうしたんだい? そんなにじっと見つめても、僕は抱けないのさ」

「寝ていいかな」

「駄・目・な・の・さ」


 右手と左手の人差し指を交差させ、小さなバツを作るんじゃない。

 ああもう。これだけでわかる。こいつもめんどくさいやつだ。


「とは言っても、そんなに時間をかける気もないのさ。なんたって、僕は神様だからね。忙しいのさぁ。あ~っはっはっはっ」

「なら、さっさと要件を話してくださいな」

「君は利用されているよ」


 驚いた。てっきりわけのわからないボケがくるものだと思っていたのに。


「誰に。とは聞かなくても大丈夫だろうね。容疑者は数人しかいないのだからさぁ。あ~っはっはっはっ」


 その通りだ。この世界でおれが関わった人間はごく少数だ。


「ただ、君を利用する者たちにも大義がある。それを考慮してほしいのさ」

「許せってことですか?」

「いいや違うのさ。そんなことは口が裂けても言わないのさ。僕が言いたいのは、それぞれに理由と目的があるということさ。もちろん、君も例外じゃないのさ」


 その通りだ。おれの目的は魂のカケラを集め、そのついでに大魔王を倒すこと。

 改めて思うと、本当なに一つ進んでないな。


「僕は神様として、それぞれの願いを尊重したいのさ。けど、神様であるが故、それが難しいであろうことも予想できてしまうのさ」


 それは嘆き……なのだろうか。だとしたら、なぜこの自称神様はこんなにも楽しそうなのだろう。


「最悪、だれも得をしないバッドエンドに行きつくこともあるだろうさ」


 目は笑っていないが、口角は上がりきっている。これを笑みでないと判断するやつはそういない。少なくともおれは、目の前の自称神様が、そうなったらそうなったで面白そうだ。と思っているように見えた。


「だけどそれはあまりに可哀そうなんでね。こうして助言に参ったまでさ。ああ、感謝はいらないよ。当然のことをしているだけだからさぁ。あ~っはっはっはっ」


 芝居臭さに拍車がかかる。

 その挙動は不快であったが、おれはなにも言えなかった。ヘビに睨まれたカエルのように、身動きが取れなかった。


「ああ、君は安心していいのさ。僕がアドバイスに来たんだからね。君だけは、死なないように導いてあげるさ」


 ほっ、となどできない。意思に反して、体が小刻みに震える。これが精神的圧力(プレッシャー)なのだろうか。


「いいね! さすがは女神に選ばれた勇者だ。それでこそ導きがいがあるってものさ」

「サ、サラフィ、フィネを知、知っているののか?」


 奥歯がカチカチと噛み合い、うまく言葉が出てこない。


「そうだね。知っていると言えば知っているけど、知らないと言えば知らないのさ。おおっと、納得出来ないだろうから付け足すと、サラフィネという女神が存在していることは知っているけど、深い交流はないのさ」


 深くはない交流ならあるのだろうか。


「天界ですれ違ったことぐらいはあるかもしれないから、交流がないとは言い切れないのさ」


 おれの思考は完ぺきに読まれている。


「僕は神様だから、言葉に責任を持たなくちゃいけないのさ。曖昧な言い方で申し訳ないが、そこはよしなに。ってことなのさ。おおっといけないのさ」


 自称神様が天を仰ぎ見た。


「こんな無駄話をしている時間はないから、改めて君に告げるのさ」


 すっ、と自称神様から笑顔が消えた。


「君は利用されている。そうなれば当然、貧乏くじを引くのは君だ。それをよしとするかどうかは君次第だが、僕としてはもう少しだけ利用されてほしい。そうすることで、君に利がないわけじゃないからね。その証拠として、起きたら一の村に行ってみるといい。そこで真実の一端が知れるはずだ」


 物凄く落ち着いた語り口だった。たぶん、こちらが素なのだろう。


「それは邪推なのさ」


 自称神様がニコッと笑った。付き合いの短いおれでもわかるのだから、だれが見ても明白だろう。

 あれは作り笑いだ。


「どうあっても信じてくれないんだね」


 両手を高く突き上げてから、自分を抱くように肩を抱いた。


「僕は悲しいのさ!」


 極めつけが、流れてもいない涙を大げさに拭い去る仕草だ。

 サラフィネにも言えることだが、神を名乗る者は偏屈もしくは、変人じゃなければいけないのだろうか。


「こうするには理由があるのさ」


 どんな?


「真面目に振る舞ったら、君が勘違いするかもしれないだろ? 僕を竜神だってさ」


 その可能性は大いにあったろう。なにせこのタイミングで現れ、助言を残すのだ。そう思っても不思議ではない。


「嫌なのさ。あんな力のない底辺神と間違われるのはさ」


 声のトーンが高い。本人はポップに言ってるつもりなのかもしれないが、言葉の棘が剥き出しだ。


「こればっかりは仕方がないのさ。竜神と僕では位が違いすぎるのさ。解り易く言えば、いまの君と僕ぐらい差があるのさ」


 左腕に激痛が走った。見れば、骨が覗くほど二の腕が深く斬れていた。

 なにが起きたのかはわからないが、やったのは自称神様で間違いないだろう。

 これが力の差ってことか。


「違うのさ」


 言いながら、自称神様がフラメンコダンサーのように手を叩いた。

 音に反応し視線を移したのは一瞬だったが、その一瞬で二の腕の傷は治っていた。


「僕と君の差は見えないのさ」


 それは実感した。殺そうと思えば、簡単にできるのだろう。


「それは否定しないのさ。けど、それをしても意味がないのさ。僕は無意味なことはしたくないし、するならこんな無駄な時間は使わないのさ。出会って一秒でキルさ」


 自称神様がキリッと表情を引き締め、斜めに手刀を斬った。

 痛みはないし、斬られた様子もない。

 自称神様はなにがしたいんだ? なぜ、表情を決めたんだ?


「君はダメなのさ! 最後の出会って一秒でキルさは、英語の『Kill』と『斬る』がかかったダブルミーニングなのさ! ちゃんとツッコンでくれなきゃ困るのさ! プンプン」

「わかるか!」

「ふふん。今度はちゃんとツッコめたのさ」


 自称神様は満足げだ。


『干渉限界が近づいています』


 どこからか、無機質なアナウンスが聞こえた。


「おおっとイカンのさ。これは本当に無駄な時間を使っている暇はないのさ。まあ、君が僕を信じるかどうかは任せるけど、一の村への道がわからない君でも迷わず行けるように、目印だけは付けておいたからさ。気が向いたら行ってくるといいのさ」


 最後にそう言い残して自称神様が消えた。


「る~るる。るるる。る~るる。るるるる~る~る~る~る~」


 テーマソングを歌いながら。


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