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勇者の真実を知るための戦い

 背後からの奇襲に、モンスターの群れに動揺が走った。だが、最前列から遠く、暴れられないことに不満を持っていた連中には、おれが現れたのは好都合らしい。

 隊列もなにも関係ない。我先にと襲いかかってくる。


「ちっ」


 おれは舌打ちした。

 これは想定外だ。乱戦は覚悟していたが、まさかこれほどモンスターの知能が低いとは思っていなかった。


「グルアアアア」


 吠えて口からエネルギー波みたいなものを放つやつもいる。射線に仲間がいても関係ない。そいつらもろともおれを殺そうとしている。同士討ちもなにもない。ただ本能に従い、力を振るっているだけだ。

 こうなれば、前に進むしかない。下手に立ち止まれば、四方八方から襲撃やら狙撃やらをされてしまう。安全なのは視界におさめられる範囲のみ。


「風波斬!」


 全力で放った斬撃で道を開き、まっすぐに突き進む。

 すれ違いざまに屠れるモンスターは逃さない。剣が届く範囲は直接。届かないなら、風波斬で。

 前へ前へ。ひたすらに歩を進める。


「風波斬」


 何度か繰り返し、一回の風波斬で倒せるのは精々十匹がいいところだとわかった。

 そして、自分の読みが外れていたことも知った。

 モンスターの数は多くても数百だと思っていたが、桁が違うかもしれない。倒しても倒しても一向に減らないし、村も見えない。

 進む方向が間違っているのかな? 

 なんかモンスターの種類が変わってきているんだよな。

 最初は知能の低い動物の変異種みたいなモンスターが主流だったのだが、いまはその比率が減り、人型の魔物が混在している。その風貌は仮面ラ●イダーに出てくる雑魚のようだ。


「騒がしいぞ」


 ちゃんと喋った。キーッとは鳴かないらしい。

 一抹の寂しさを感じながら、人型の魔物を斬り伏せた。

 にしても、数が多い。いまはまだ元気だからいいが、この状況では逃げるに逃げられないかもしれない。

 失敗したかな?

 ふっと浮き上がる考えを振り払うように、風波斬を放った。

 少し弱気だったこともあり、威力も抑えめになってしまったようだ。常時十匹前後を屠っていたのに、いまは眼前の二匹を倒すのがやっとだった。

 イカンイカン。気持ちで負けていてはどうにもならない。こちとらデスロードには馴れっ子なのだ。やってもやっても終わらないのはいまに始まったことじゃない。

 頑張れ! おれ!


「風波斬!」


 鼓舞するために放った風波斬が、人型の魔物に命中した。


「イテェ! だれだ!」


 前にも同じリアクションをしたやつがいたはずだ。少し頼りない記憶だが、いまはどうでもいい。

 風波斬で倒せなかった初めてのモンスターだ。気を引き締めなければいけない。


「人間が、なんでこんなとこにいやがる」


 言いぐさから、モンスターで間違いないらしい。見た目はさっきの人型と似ているが、別の個体だ。一目でわかる。なぜなら、さっきのは全身タイツっぽい黒さだったが、目の前の魔物は推理漫画の犯人を彷彿とさせる滑らかな黒だ。それはまさにインクで書かれたような黒であり、目と口だけが認識できる姿は、ちょっとワクワクしてしまう。


「犯人はお前だ!」


 脈絡はないが、どうしても言いたかったので、言ってみた。


「ああっ!?」


 黒ずくめが表情をしかめた。残念ながら犯人ではないらしい。


「一人敵陣に乗り込んだってところか? ザケんじゃねえぞ!」


 怒髪天を衝くとはこういうことなのだろうな。黒くてわかりにくいが、丸い頭頂部からトサカのようなものが生えた。


「ネイ! マール!」


 サッカー選手を呼んだのかと思ったが、違うようだ。

 異変は空と地面から伝わってくる。樹の葉と大地が揺れている。

 その原因は、滑空する全長二~三メートルぐらいのコンドルと、地面を突き破って出てきたミミズだ。こちらも二メートル以上はあるだろう。断言できないのは、穴から全身が出てきていないからだ。

 コンドルはともかく、ミミズのほうは気色悪い。斬ったら変な色の体液が漏れてきそうだ。

 想像しただけでブルッと背筋が震えた。


「風波斬」


 近寄りたくなかったから、おれは風波斬を放った。


「ケアアアアア」


 ネイが鳴き、翼を羽ばたかせた。……鳥がネイで合ってるよな? などとくだらないことを考えていたが、それどころではないらしい。

 風波斬とネイの生み出した突風がぶつかり、互いを消滅させた。


「がははははは。いいぞ、ネイ」


 黒ずくめが鳥を撫でた。よかった。間違っていなかった。

 だが、こうなると風波斬は使えない。使うにしても、ネイをなんとかしてからでないと、効果が薄い。

 最初に仕留めるべきはネイだな。

 ちょうど地上付近にいることだし、都合がいい。おれはネイに斬りかかった。


「だりゃぁ」


 打ち込んだ袈裟斬りを阻むように、マールがおれとネイの間に現れた。

 盾になるということは表皮が固いのかと思ったが、そうではないらしい。思いの外簡単に真っ二つに斬れた。

 ドシンッという音を立て、マールが地面に横たわった。順番は違うが、これはこれでありだ。思っていた通り、体液は緑色をしていたが、量はそれほどではなかった。飛び散らなかったし、かぶることもなかった。

 マジでよかった。

 安心して残りをやっつけよう。


「死神灯篭」


 日本刀に形状のよく似た剣を大上段に構え、黒ずくめが向かってきた。

 速度は大したことない。後は技の威力だ。


「くらえ!」


 振り下ろされた斬撃も遅い。避けるのもカウンターを取るのも容易だ。


「ケアアアア」


 ネイが鳴き、風を起こした。

 完全に油断していた。吹き付けた強風に、おれはバランスを崩してしまった。

 それとは反対に、備えのあった黒ずくめの斬撃は速くなる。追い風をブースト代わりにしたわけだ。

 あまりに急な速度変化に対応できない。カウンターは無理だ。


「ちっ」


 舌打ちしおれは回避動作に入ったが、バランスを保つために踏ん張った足は容易には動かない。風も行動を阻害している。


「もらったぁ!」


 切っ先が目前に迫る。

 四の五の言っている場合ではない。やらなければ死んでしまう。


「ふんぬぅ」


 歯を食いしばり、上体を横に倒す。最優先は頭を護ることだ。


(イテェ!)


 脳天直撃は避けられたが、左肩が削られた。


(鎧があってよかった。マジでよかった)


 無ければ、左腕が落とされていただろう。

 背筋が凍るとはこのことだ。


(感謝! サラフィネ、マジ感謝!)


 でも、今度は盾もねだろう。

 そう心に決め、おれは敵から距離を取った。


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