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勇者、伝承の後付け部分を知る

 朝食を終えたおれは、外に出た。


「んんんんん」


 伸びをした。朝の陽ざしは気持ちがいい。

 隣に沈んだ村長がいなければ。

 ダメだ。移動しよう。


 壊れた家を直すべく、トンカントンカン木づちの音がしている。井戸の周りでは、主婦たちがゴシゴシゴシゴシと洗濯している。

 労働は大変だろうが、気持ちの良さそうな汗を流している。

 うん。素晴らしい。

 隣に信じられないくらい肩を落としている村長がいなければ。

 ダメだ。両者に対比がありすぎて見ていられない。

 移動しよう。


「我は暗黒超人。貴様らを死へと連れよう」


 山型に置かれた材木の上に立ち、黒いマントに身を包んだ少年がそう宣言した。


「そうはさせるか」

「おれたち山吹獣王隊が相手だ」

「シャーッ!」


 三人の子供戦士が現れた。山吹獣王隊と言うに相違なく、全員が山吹色の服を着ている。


「ライオン丸」

「熊キング」

「スネークエース。シャーッ!」


 名前はダセェが、それぞれが名乗った動物のお面をしている。ぱっと見それは、本物かと錯覚するほどリアルだった。


「いいだろう。暗黒超人の力、見せてやる」


 黒いマントをひるがえし、木材から飛び立った暗黒超人がシュタッと着地した。やるな、暗黒超人。ヴァンガレよ。いいや違った。がんばれよ。

 ちなみにおれは、悪魔超人世代だ。


「でやぁー」

「ちょやー」

「シャーッ!」


 おれの思いを無視するように、戦いが始まった。

 それでいい。子供は元気が一番だ。

 その溌溂さを見ているだけで、こっちも明るくなれる。

 隣にゾンビのようにふらふらな足取りで付いてくる村長がいなければ。

 もうダメだ。これ以上は耐えられない。


「村長。勘弁してくれません?」

「バカ野郎。そんなわけに……いくか。お前とは……約束があんだ」

「約束?」


 そんなものしただろうか。はて? 記憶にない。


「明日、話を聞くって……言った……ろうが。バカ……野郎」


 そう言われればそうだ。約束という感じではなかったが、確かにそう言われた。

 だが、いまの村長で話など出来るのだろうか?


「行く……ぞ! バカ……野郎」


 どこへ? と訊く前に、村長が歩き出す。どうやら、村の外に向かうらしい。

 さすがにあのグロッキー寸前の村長を一人で行かせるわけにもいかないので、おれはその後に従った。

 足取りは重かったが、迷いは感じられない。目的地は決まっているのだろう。


「ここならいいぞ」


 歩みは止めなかったが、村長はそう言った。途切れ途切れ発せられていた言葉が、しゃんとした。

 歩いたことで気持ちに踏ん切りがついたのか。もしくは、森の中でなら腹を割って話せるということだろうか。

 まあ、正直なんでもいい。話が出来るなら、文句はない。

 おれもある程度腹を決め、気持ちを口にした。


「おれには目的がある。正直、ここにいてもそれが叶うのかはわからないし、手がかりもない」

「目的ってのはなんだ? バカ野郎」

「それは言えない。すべてをさらけ出せるほど、おれはこの世界を信じてない」


 おれの本音に、村長はショックを受けたようだ。だが、言い返してくることはなかった。ただ耐えるように、下唇を噛んでいる。


「もっと言えば、おれは巻き込まれただけだ。モンスターを倒したことも、ワァーンを連れて五の村と四の村に行ったことも。さらに言うなら、ご神木の枝を切ったこともだ。これは都合のいい解釈かもしれないが、枝を切った分の償いはしたんじゃないか?」


 村長はなにも言わない。


「それが答えでいいのかい。なら、ここでお別れだ」

「それはダメだ! 頼む! それだけは待ってくれ!」


 村長が土下座した。

 意外ではあったが、思いのほか動揺はしなかった。たぶんこうなるだろうな。とは感じていた。

 察するに、おれとベイルはすでになにかしらのピースとして組み込まれている。問題なのは、それが善行なのか悪行なのかだ。


「話してくれないか」


 額を土につけるだけで、村長は口を開かなかった。

 まあ、これも想定内だ。ここでペラペラ喋るなら、昨日のうちに話は済んでいるはずだからな。


「理由があるのはわかってる。話せないことがあるのもわかってる。だから、話せることだけでいい。村長、それでも黙り続けるのかい?」


 もしそうなら、おれはここを去る。これ以上の譲歩は無理だ。


「竜神様の話は聞いてるか?」


 村長が訊いてきた。首の皮一枚かもしれないが、おれがここに残る可能性が生まれたわけだ。


「ああ。昨日、ワァーンが話してくれた」

「あの話には続きがある。六本のご神木を護るのが各村の使命ではあるが、その使命に縛られることなかれ。我らが倒れしとき、勇者降臨し災厄を沈めるであろう。とな」

「おれがその勇者なのか?」

「わからねえ」


 村長が首を横に振った。その答えは意外だった。話の流れからするに、おれに魔王討伐が依頼されると思った。そして、おれが負けたときの保険がベイルだ。反対のケースもあるが、誤差の範囲内というやつだな。


「だが、その可能性は十分にある。ご神木を傷つけたのが、その証拠だ」

「普通反対じゃないか? ご神木を護るやつが勇者で、傷つけるやつは敵だろ」

「そう思うのも無理はねえ。てめえらはご神木を切れたんだからな」


 村長は、『てめえらは』と『切れた』を強調して言った。ということは……


「ご神木は傷つかない?」

「いや、傷はつく。だが、倒れることはない。まず大前提として、ご神木は頑強だ。村にいる普通のやつじゃ歯が立たない。斧を振るっても弾き返されるだけだ。村一番の怪力がやれば傷はつくが、二度目を振り下ろすときには一度目の傷が修復されている」


 つまりご神木を切り倒すには、二つの方法しかないわけだ。一撃で斬り倒すか。数度の攻撃で倒す。ただし、その場合には次の攻撃を当てるまで回復できない傷を残すこと。

 無理難題のようだが、おれとベイルはそれをやってのけたらしい。

 にわかには信じがたいが、それなら理解できる。圧倒的攻撃力を持つ者なら、災厄も沈められるだろう。


「だけど俺たちは、それを許容できねえ」


 立ち上がった村長が、絞り出すようにそう言った。

 ? どういうことだ?


「ご神木は俺らが生まれるずっとずっと前からあったんだ。共に暮らしてきた大事な仲間なんだ」


 たぶんそれは本当の事なんだと思う。ただ、そう感じるだけにわからないことがある。


「村長。なんでご神木を中心に村を作らないんだ?」


 四、五、六の村に行ったが、ご神木はすべて村外にあった。まあ、四の村については断言できないが、村に中に大きな樹はなかったはずだし、ワァーンも護衛数人と確認したと言っていた。なら、四の村も例外ではないと考えて間違いないはずだ。


「過去に何度か、ご神木を中心に村を作ったことはある。周りの木を伐り、家を建てたり開拓したり。ただ、村が九割がた完成すると、ご神木が消えるのさ。ただまあ、消えると言っても、消失するわけじゃねえ。だれも気付かぬうちに、森の中に移動しちまうのさ」


 意味がわからん。


「ご神木が嫌がるんだよ。バカ野郎」


 護られたくない? もしくは、倒されることを望んでいる?

 そうも考えられるが、ご神木は魔王を封じる結界であるはずだ。わざわざ自分を樹の姿に変えてまでそうしたのに、それをご破算にするようなことをするのだろうか。

 というより、そもそも論として、樹に自我があるのか?

 いままで聞いた話を、少し整理しよう。

 過去、この地には魔王がいた。そこに戦いを挑む六体の竜神がいたが、後の敗戦を確信した竜神はその身を樹に変え、結界を張った。そして、それぞれの樹の側に村を作り、ご神木を護るように告げた。

 だが、それを絶対にする必要はなく、仮にそうなったとしたら勇者が魔王を倒すだろう。とも言ったらしい。

 話だけ聞けば滅茶苦茶だ。

 だけどなんだろう。引っかかっているモノがある。

 それは間違いなくどこかで耳にした。思い出せれば、おれが取るべき行動もわかるような気がする。

 だけどそれがわからない。


「ああもう!」


 ガシガシ髪を掻きむしり、小刻みに足踏みした。

 ドドンッと大きな音を立て、大地が揺れた。

 いや、おれの所為じゃないよ。力は強いかもしれないけど、貧乏ゆすりくらいで地震は発生しない。


「ああっ、嘘だ」


 村長が膝からくず折れた。

 その目線の先には、おびただしい数のモンスターの群れがあった。


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