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勇者、異世界で勇者と出会う

 目の前に村があった。

 異世界への転移は成功したようだ。

 周りを見れば木がいっぱい。どうやらこの村は、森の中にあるようだ。

 村と森の境を示すように、ガードレールほどの高さの木柵が横に長く築かれている。全体像は把握できないが、たぶん村の四方を囲んでいるのだろう。

 だがそれは、モンスターや獣から村を守る防衛柵ではない。

 おれがそう思うのは、村が魔物の軍勢に襲われているからだ。


「ああああああ」

「きゃああああ」

「いやああああ」


 まさに阿鼻叫喚だ。村人は逃げまどっている。家は燃えている。家畜も殺されている。


「ぐははははは」

「げははははは」

「かふふふふふ」


 それを見て、三匹の魔物が笑っている。三匹目がブラジルの有名サッカー選手の名を呼ぶような笑い方なのが気になるが、高みの見物を決め込んでいる様子から、こいつらがボスなのかもしれない。


「んんん!?」


 その中の一匹がおれに気づいた。

 戦闘フラグが立ったらしい。


「そこまでだ」


 これを言ったのはおれじゃない。


「罪なき村を焼き払い、罪なき者を手にかけし蛮族が! これ以上の狼藉、たとえ神が許しても、勇者である俺が許さん!」


 これもおれではない。言ったのは、突如現れ、村にいる雑魚モンスターを斬り伏せている男だ。

 剣を一閃させると、最低でも二、三体の魔物が屠られていく。

 実力差は歴然だ。

 村内の魔物を全滅させるのに、さほどの時間も必要としなかった。


「後はお前たちだけだ」


 威風堂々といった感じで、勇者が三匹のボスに剣先を向けた。


「貴様、何者だ」


 いや、勇者って言ってたじゃん。


「我が名はベイル。神に選ばれし勇者だ」


 ちゃんと名乗るんだな。おれだったら無視してるぞ。


「おのれ勇者ベイル。雑魚を倒したくらいでいい気になるなよ」


 お前も乗っかるんだな。


「そうだ。我ら漆黒の三連星を甘く見るでない」


 漆黒の三連星だと!? 

 こいつら、なにを以てその二つ名を語っているんだ? お前ら三体とも、どこも黒くないじゃん。黄色い肌に赤の鎧を着ているじゃない。


「漆黒の三連星、か。大した異名だが、俺の正義の心には勝てんさ」


 スゲェなベイル。受け止めたぜ。その器はまさしく勇者だな。


「かふふふふふ。次にお前が発する言葉は、無念、だ」


 言いながら、三連星が槍を構えた。


「そうなるかな?」


 残念。ならなかったね。無念だね。


「すぐにわかるさ。かふふふふふ」


 お~っとスルーだ。笑い声と同じく、一流のサッカー選手のごとき見事なスルーだ。


「いくぞ」


 勇者もそれを理解し、だれも指摘しないまま、決戦の火ぶたが切られた。



 大柄ではあるが、漆黒の三連星はスピードも速い。一体が正面から勇者に突っ込む間に、残りの二体が左右に展開した。

 ドンッという派手な衝撃音を伴い、勇者と魔物……わかりづらいな。よし。心の中で名前をつけよう。

 一匹目の正面から突っ込んだやつが、ルシオ。

 二匹目の左に回り込んだやつが、ロベカル。

 三匹目の右に回り込んだやつが、笑い方のままカフー。

 うん。ワールドカップも勝てそうだ。

 だが、勇者には勝てないだろう。

 勇者とルシオがぶつかった隙をついて、ロベカルとカフーが挟撃する。これが三連星と云われる所以なのだろう。

 だが、この作戦には弱点がある。

 最初の一対一に負けてしまうと、その後の挟撃が意味をなさないのだ。

 いまがまさにそれで、勇者がルシオを押し込み、跳ね返していた。


「バァァァカなぁぁぁぁ」


 踏み止まれず後方に飛ばされたルシオは、木をなぎ倒しながら森に消えていった。


『百連突き』


 止まれないロベカルとカフーが高速の槍を繰り出す。それは見事で、まさに二人合わせて百回の突きだった。

 一人で百回じゃないのかよ。などと無粋なことは言わない。敵であろうと味方であろうと、それは言わない約束なのだ。


「凄い技だ」


 ベイルも褒めている。


「だが、それじゃあ、俺には届かないぜ」


 切り返しもカッコイイではないか。

 これでこそ勇者だ。


「サウザントブレイド」


 凄まじい速度でベイルの連撃が繰り出される。技名に恥じることなく、本当に千の軌跡を描いているかもしれない。

 そうなってしまうと、ロベカルとカフーの百連突は児戯だ。


『バァァァァカなぁぁぁぁ』


 二人仲良く返り討ちにあった。

 だが、致命傷は与えていないようだ。


「これでわかっただろ。もう悪さをするんじゃない。約束するなら、今回は見逃してやってもいい」


 勇者ベイルは慈悲の心も持ち合わせているらしい。

 素晴らしいが、その忠告を受け入れるようには思えない。

 ロベカルとカフーの目は、憎悪の炎で燃え上がっている。


「許さんぞ! 勇者ベイル」


 戻ってきたルシオもだ。


「やめておけ。お前らに勝ち目はない。さっさと魔王のところに戻るがいい」


 ベイルが三人を追い払うように剣を薙いだ。


「おのれナメおってからに。いいだろう。我ら三連星の真の力を見せてやる」

「仕方ない」

「かふふふふふ。この手だけは使いたくなかったけどな」


 ルシオ、ロベカル、カフーが一か所に集まった。


『我らの究極奥義。三位一体』


 言うと同時に、三体が合体した。


「ぐはげはかふふ」


 おおっ! 笑い声が混ざっている。

 三位一体ってそのまんまだな。とか、思ってごめんよ。


「こうなってしまっては、いままでのようにはイカンぞ。あの世で後悔するんだな」

「お前らほどの兵が倒されたとなれば、魔王軍は慌てるだろう。上手くすれば、俺という脅威に備え、いくつかの村が解放されるかもしれない。その可能性のため、俺も本気を出させてもらう」


 ベイルが納刀し、抜刀術の構えを取った。


「いいだろう。我らと勇者。どちらかの命を以て、決着だ」


 なんか急に格好よくなったな。

 胸熱な展開だ。


「くらえ。我らが最終奥義。ブラッディ」


 技を繰り出すために、三連星が肘をねじった。

 嫌な予感がする。


「スク」


 瞬時に抜刀し、おれは地面を蹴った。


「ラ」

「それ以上はダメ~!」


 三連星が言い終わるより早く、おれは三連星を斬り伏せ、その口を塞いだ。

 危なかった。それはもう、いろんな意味で。

 だが、危機は去った。

 正義が勝ったのだ。


「おめでとう。勇者ベイル」


 手を取り、ベイルを労った。


「ありがとう。なんて言うわけないだろ」


 だよね。


「何者だ」

「名乗るほどの者ではありません。通りすがりの冒険者です」

「ウソをつくな。漆黒の三連星は通りすがりの冒険者に倒せる魔物ではない」


 いや、倒せたじゃん。などとは、口が裂けても言ってはいけない。

 結果的にだが、おれは勇者ベイルの活躍を横取りしてしまったのだ。

 これは責められても仕方がない。甘んじて非難を受けよう。

 だがその前に、おべんちゃらで逃げられるかどうかは試してみたい。


「あれは勇者様の活躍があればこそです。勇者様と対峙していたがため、漆黒の三連星は手傷を負い、尚且つ私に対して無防備だったのです」

「そうか!?」


 ベイルはまんざらでもなさそうだ。

 イケる。

 このタイプは持ち上げれば持ち上げるだけ、調子に乗るやつだ。


「ええ。勇者様の存在が決め手となり、村から危機が去ったのです。すべては勇者様あってこそです。見てください。救われた村人も勇者様に感謝しています」

「ありがとうございます」


 おれの言葉に賛同し、村人たちが感謝の言葉と一緒に頭を下げている。

 ナイス。これで事なきを得れるはずだ。


「母ちゃん。あれが勇者様だよ」


 鼻水を垂らしたガキが、おれを指さした。

 空気を読め! 隣にいるベイルの表情が険しくなったじゃないか。


「でも、村を救ってくれたのはあの方よ」


 鼻たれ坊主に手を引かれた母親らしき女性が、嗜めるようにそう言った。


「でへっ」


 ベイルが相好を崩した。

 わからないでもない。鼻たれ坊主の母親は物凄いスタイルだ。化粧っけはないが、生まれついての美人であり、村中で彼女と添い遂げる選手権が巻き起こったであろうことは想像に難くない。

 よかった。さすが母ちゃん。


「ああ、あれは勇者様のお供だよ。ボスを倒せないから、雑魚を相手にしてたんだ」


 鼻たれ小僧が! 殴ってやろうか。


「あらそうなの? じゃあ、母さんの間違いだわ」


 母ちゃん。そんな簡単に折れちゃダメ!


「そうだよ。あっちの勇者様のほうが強そうだもん」

「そう言われればそうね。顔も……好みかも」


 顔を赤らめながら言われても。

 嬉しいことは嬉しいが、この後のことを考えると、面倒臭さしかない。


「これはもう……決着をつけるしかないな」


 ほらね。

 ベイルが危険なことをつぶやきはじめた。


「まずは横取り野郎を殺して」


 剣の柄に手をかけるんじゃない。


「その後で、奥さんにおれの下の剣の威力を思い知らせてやる」


 勇者ってド下ネタを言っていいんだっけ?


「げへっげへっげへへへへ」


 涎を垂らしながら妄想している。

 最低とは言わないが、友達にはなりたくないな。

 村人たちもそう思ったのだろう。一人、また一人とこの場を去っていく。

 身の危険を感じたのか、豊満ボディの母親は鼻たれ坊主の手を引き、一目散に逃げていった。

 おれも追随しよう。

 心を決め、そっと踵を返した。


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