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勇者、二度目の異世界へ

「よく来たな」


 前回と同じ態勢で待ち構えていた二号であった……が、なにがあったのだろう。

 顔面のあちこちに青アザがあり、ところどころハレている。

 壮絶な殴り合いをしたボクサーの試合後のようだ。


「なにがあった?」


 この短い時間で。


「ふっ。ハンデだよ」


 いや、訊きたいことはそういうことじゃない。おれはここでなにが起きたのかが知りたいのだ。


「なにがあった?」


 仕方ないから、もう一度訊いた。


「お前がおれを待たせるなんて、世も末だな」


 答える気はないらしい。

 それならそれでいい気もするが、おっかないのも事実だ。

 サラフィネの言葉をそのまま受け取るなら、おれたちはここで戦うのだろう。

 だが、違うのかもしれない。

 だってそうだろ? おれと二号は一心同体で、片方が受けたダメージはもう片方にも影響される。

 そういうルールだったはずだ。なのに、いま対峙している二号のダメージを、おれは受けていない。自分じゃ見えないから顔を触ってみるが、ハレはない。二号の青あざがある個所を強く押しても痛くない。


「イテテ。おい、卑怯だぞ」


 二号は痛いらしい。

 不可解だ。

 可能性として、修練の間で受けるダメージは各々。という考え方もできるが、それならおれが指で押した個所の痛みを二号が受けるのは筋違いだ。

 わからん。


「おい。本当になにがあった。これじゃあ、怖くてなにもできんぞ」

「ふうぅぅぅぅ」


 重く、二号が息を吐いた。

 おれはゴクッとつばを飲み込んだ。


「…………そんなに…………知りたいか?」


 たっぷりとした間で、そう訊かれた。

 心臓の鼓動が早まる。聞くべきか、聞かざるべきか。

 悩む。悩むのだが……

 おれはうなずいた。


「ふぅぅ、仕方ねえな。教えてやるよ」


 二号がキリッと眼光を尖らせた。

 その姿はハードボイルドだ。カッコイイ。

 ひょっとしたら、ここでおれの知らない戦いがあったのかもしれない。二号の傷は、その激戦の痕なのでは?


「わたしのお尻を触り、さらには胸を揉もうとしたんです」


 どこからともなく現れたサラフィネが、そう言った。

 ポポの格好はやめたらしい。いまはいつもの神官着を身に纏っている。

 なんて冷静に見ている場合ではない。

 えっ!? いまなんと言いました? 尻を触り、胸を揉もうとした……ですと?


「お前、やったのか?」


 半信半疑だった。だから訊いた。


「やってない」


 はっきりとした否定だった。

 二号はおれだ。信じよう。こいつがやってないと言うなら、やってないのだ。


「ここまで殴られるほどは」


 …………


「やってんじゃねえか!」


 自分に返って来るのを承知で、おれは二号の頬を殴った。


「イッテェな! なにすんだ」

「バカやろう。お前を信じたおれの心のほうがはるかにイテェんだよ」


 二号の痛みはおれの痛みだ。同じように頬は痛い。けど、自分自身に裏切られた心の痛みは、おれだけのモノだ。


「なんでセクハラ(そんなこと)したんだよ」


 胸ぐらを掴んで揺するおれに、二号が言った。


「そこに山があったから」

「有名登山家か!」

「いや、それ誤訳らしいよ」

「やかましい! 誤訳だろうがなんだろうが、いまはどうでもいいんだよ。いまはお前の行いが問題なんだよ」

「罰は受けた」


 ぶっきらぼうにそう言い放つ二号。

 これはあれだ。自分が悪いのに、教師や上司に説教されることを不服に思っているガキの態度だ。

 こういうやつにわめき散らしても無駄だ。


「その量刑は誰が決めた」


 責めるなら、感情の起伏を無くし、淡々と。

 案の定…………二号は口を開かない。

 おれは真っすぐ見ているが、二号が外しているため、視線も合わない。

 それでわかった。こいつも自分が悪いことをしたと理解しているのだ。


「謝ろう。一緒に」


 優しく声をかけると、


「うん」


 と二号がうなずいた。


『ごめんなさい』


 おれたちは横に並び、同時に謝罪した。


「謝罪は大事です。そして、よくできました。ですが」


 サラフィネが言葉を区切る。

 嫌な予感がする。なにせ、『ですが』は、直前の言葉を否定するものだから。


「謝れば許されると思うなよ!」


 ほらね。

 あ~あ、怒られた。おれ関係ないのに。


「なんですか。その不貞腐れた表情は」


 イカン。無意識に顔に出てしまったらしい。


「許せません。折檻です」


 言うや否や、サラフィネの肘打ちがおれと二号に炸裂した。

 言葉が出ないほど痛い。

 大魔王はおろか、おれより強いんじゃないかと思うほど強烈な一撃だった。


「あなたたちには罰を与えます」

「いや待て。もうすでにこれが罰だろ」

「その量刑はだれが決めたのですか」


 言葉のブーメランが突き刺さった。

 ぐうの音もでない。


「わかったようですね。ではあなた方に裁きを与えます。あなたたちは合体し、違う異世界に旅立った三号を見つけて来てください」

「いやいや、そんなすぐに次の冒険にはいけないよ。働きすぎはよくないよ。ブラック企業反対」

「お任せください、女神様。必ずや、やり遂げてみせましょう」


 遠巻きに休みを要求するおれの隣で、二号は跪き大仰にかしずいた。

 いまさらだが、こいつとは別人かもしれないな。


「では合体です」


 おれの気持ちは無視され、サラフィネが祈った。


「汝らの魂が一つになることを、女神サラフィネが許可する」


 おれと二号の足元に魔方陣が現れた。


「リザレクション」


 ドクン、と鼓動が撥ねた。その大きさは、心臓が体内から飛び出てしまうのではないかと思ったほどだ。

 沸き上がる恐怖に、おれは思わず、瞳を閉じてしまった。


「勇者よ。儀式は完了です」


 サラフィネの言葉に、恐る恐る瞼を開くと、足元の魔方陣は消えていた。

 隣にいた二号もいない。


「あいつは」

「あなたを支えることにしたようですね」


 自分の胸を触った。心臓の鼓動を感じる。そこに、二人分の強さがあるような気がした。


「これが二号の残した最後のメッセージです」


 サラフィネが四つに折った紙を渡してきた。


「異世界で読んでください」

「ありがとう」


 感謝の意を示すため、おれはその手紙を両手で受け取った。


「勇者よ。再度の健闘を祈ります」


 サラフィネが祈り、足元に魔方陣が生まれる。


「そして、くれぐれも忘れないでください。あなたの仕事は、大魔王を倒すことです」

「いや、魂の回収は!?」

「おまけです」


 二度目のやり取りを最後に、おれは異世界に跳んだ。


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