勇者対大魔王~決着~
次の瞬間。
凶悪そうな顔をした大魔王がいた場所には、服を着た超絶イケメンがいた。
立ち位置から考えても、大魔王なのだろう。砕けた拳が綺麗に治っているから断言はできないが、どことなく醸し出す雰囲気が似ている。
一瞬での入れ替わり。
そんな上質の手品を見た気分だ。
だが、喜んではいられない。
進化した大魔王の実力は、さっきの比じゃない。
それだけは間違いないだろう。
「ダークネスウェイブ」
大魔王が掌をおれに向け、そう唱えた。
鳥肌がたった。
声に反応したのではない。大魔王の掌から撃ち出された、黒い波に反応したのだ。
あれはヤバイ!
本能的にそう感じ、おれは大きく横に跳んで躱した。
紙一重が許されるモノではないと思う。
すぐに背後から、鈍い衝撃音が聞こえた。確認したいが、いまは大魔王を注視しなければいけない。
「避けるか。それは予想外だ。けどいいのか? そんなことをして」
言っている意味が解らない。
訝るおれに、大魔王がダークネスウェイブの射線上を指さした。
極力大魔王から視線を外さず、おれはそっちを見た。
「信じらんねえ威力だな」
黒い波は俺の背丈より低かった。けど、城の壁には、それの倍以上の巨大な穴が開いていた。
「そこではない。お前が見るべきは、その先だ」
大魔王の言わんとすることはすぐに理解できた。街になにかが起きたのだ。
おれは壁に空いた穴に近づき、外を見た。
壁を突き抜けたダークネスウェイブは市中に落ち、そこに横たわる市民の吞み込んでいた。
「ダークネスウェイブ」
再度放たれたそれは、一度目より確実に大きかった。
避けるのは可能だ。だが、それをすれば、街に被害が出る。
仕方ない。出来るかどうかは出たとこ勝負になるが、チャレンジしてみよう。
「風波斬!」
おれが放った斬撃は、ダークネスウェイブを二つに割った。
風波斬が勝ったのはいいことだが、手放しで喜ぶこともできなかった。
二つに割れたダークネスウェイブは消失せず、二本の黒い波として現存している。
さてどうしたものか。
普通の波なら、堤防や波消しブロックのようなもので止めればいいのだが、そんなものはない。あったとしても、破壊されるのがオチだ。城のぶっとい支柱が見るも無残に粉砕されているのだから、議論の余地はない。
ダークネスウェイブを止める手立てとしては……現状、おれが直接受ける、以外は有効な手はない。
けど、それはリスクが高い。
もし万が一、ダークネスウェイブの威力がおれの予想を上回っていた場合、大魔王との戦いが不利になってしまう。
結果、負けることもあり得る。
そうなれば、だれも救えない。
市民もそうだし、おれ自身も。
いま優先すべきは、出来ることを確実にこなすこと。
可能ではあるだろうが、それを行った結果、出来たはずのことが不可能になることはするべきではないし、そんな綱渡りをすることは許されない。
頭の片隅に浮かんでいる、あわよくばこの世界の勇者がなんとかしてくれる、などという甘い願望を計算に入れ、未来を考えるのは悪手にほかならない。
何度でもいうが、出来ることを確実にこなす。
市民を救うことは副産物。
外道と罵られようとも、そう割り切るしかない。
ただ、頭では理解していても、心で納得できない。
「風波斬。風波斬。風波斬。風波斬」
二つの波をそれぞれ四つに裂き、おれは大魔王と対峙した。
こうすれば、多少被害も少なくなるだろう。
いま、できるのは、これだけだ。
「甘ちゃんかと思ったが、そうでもないらしい」
「大人なんでね。自分が全知全能じゃないことは、とっくの昔に経験済みだ」
「なら、俺には勝てんな。ダークネスウェイブ」
大魔王であるなら、全知全能の存在であると自負するのも理解できる。もっと言うなら、それぐらいの自信家でなければ、到底務まらないポジションだろう。
だが、こいつは理解していない。
上に立つ者が大事にしなければいけないことを。
ダークネスウェイブを放ったのが、なによりの証拠だ。
回数を重ねるごとに威力を増しているようだが、速さに変化はない。ということは、避けられる。
大魔王からすれば、当たっても当たらなくても、どちらでもいいのだろう。どちらにしろ、おれもしくは、街に被害が出る。それでいいのだ。
バカが。
街や人に被害を出せば、いままであった日常が成り立たなくなる。
それはつまり、人材の損失に他ならない。
世界を征服するから、街一つ失うことなど些事だ。などと考えているのだろうが、強敵と対峙するといった、いまと同じ状況に陥ることはないと想定しているのだろうか。
だとすれば目の前の大魔王は夢想家であり、自分に都合のいいようにしか物事を考えられないアホだ。
もしくは、自分以外のモノはすべて破壊する。とでも考えているのだろうか?
理解できない。他者がいない世界を征服してなんになるというのだ。
新しい世界の創造? 森羅万象の把握? そんなくだらないことを夢想しているのか?
ダメだ!
考えれば考えるほどイライラしてきた。
実際いるのだ。こういったアホなワンマン社長というのは。
昔派遣された会社にもいた。
競合他社は潰れろ。倒産後は俺の会社の下請けにしてやる! などと平気でのたまう屑が。
ああ、イカン! 思い出したら我慢できない。
「風波斬!」
おれは閃ではなく、面で斬るイメージで刀を振るった。
出来るという確信に近い思いはあったが、見事成功したようだ。迫りくるダークネスウェイブを、おれの風波斬が呑み込み、消失させた。
「バ、バカな。俺の必殺技が」
そのリアクションもダセェ。
バカ社長が社員に逃げられたときと一緒だ。
後悔したってもう遅い。
人材を蔑ろにしたのは、お前自身なのだから。
次の言葉を大魔王が発する前に、おれは床を蹴った。
「避けなさい!」
神官が叫ぶが、遅い。
大魔王が反応する前に、おれは大魔王を斬った。
「くっ」
大魔王の下半身が横に跳んだ。
「忘れ物だぞ」
指摘すると、大魔王がおれを見たので、下を指さした。
確認し、大魔王が目を見開いた。
そこにあるべきはずの下半身はなかった。
おれの斬撃で切り離されたのに気づかず、上半身だけが移動したのだ。
「貴様~ぁ」
怒気に顔を赤く染める大魔王。その宙に浮いた上半身を、おれは真っ二つにした。
死の断末魔すら上げることを許さず、大魔王が死んだ。




