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勇者、指揮官を屠る

「ウソ……だろぉ?」


 理解したときにはもう遅い。

 唐竹割りにされた巨体が左右に離れ、オークは自分に起こったことを理解した。

 巨大なオークの身体が地面を打ち、地響きを立てた。


「う、うわああああああ」


 振動と共に伝播する恐怖。絶対的な存在であった巨大なオークが一瞬で骸にされたことで、オークの一団はパニックに陥った。


「に、逃げろおおおおお」


 空にいるガーゴイルにもそれは波及している。

 チャンスだ。


「死にたくなければ道を開けろ! 風~」


 オークが避ける時間を作れるように、タメを作った。

 本来ならこんなものは必要ない。だが、こうすることで、いままでより強烈な一撃が繰り出されるのでは? という思考と恐怖を与えられる。


「波~」


 オークたちが民家の壁を壊し、部屋になだれ込んでいく。

 脅しは成功だ。


「斬!!」


 おれは風波斬を撃った。

 狙うは前方はるか遠くに見える城の最上部。そこなら壊れても問題ないだろうし、壊した破片が落ちても巻き込まれる人間は少ないはずだ。

 剣線も斜め上に向かうので、通りに横たわっている一般市民や、戦意を失ったオークたちを巻き込む可能性は少ない。

 敵対関係にあろうとも、無益な殺生は遠慮したい。力があろうとなかろうと、おれは日本人なのだ。ゲームの中以外で、他者の命を奪ったことはない。

 いまは良いかもしれないが、落ち着いたとき、おれの心は自責の念に潰されてしまうかもしれない。

 そうなれば、魂の回収以前に、冒険にすら出れなくなってしまい、おれは永遠の虚無をたゆたうことしかできなくなるだろう。

 それは避けたい。

 最後が契約不履行というのも、おれの矜持が許さない。

 だから、いまさらかもしれないが、なるべく戦闘は避けたい。

 そのために放った風波斬が、狙い通り城の上部を瓦解させた。

 崩れゆく瓦礫を確認し、モンスター軍団が完全に制止した。

 思った通りだ。

 圧倒的な武力行使が可能であるということを示せば、モンスター軍団への抑止力になると思った。


「まだやるか?」


 鋭い眼光で睨むと、オークたちが頭を振り、武器を捨てた。中には鎧を脱ぐやつまでいた。


「これより先、住民には手を出すな!」


 必死になって何度もうなずくオーク。

 これなら、信じてもいいだろう。


「これは約束だ。お前らが守るなら、これ以上はやらん。だが、破るなら、同じ目にあわせる! いいな。 お前らもだぞ!」


 見れば、指揮官のガーゴイルは不満そうであったが、部下のガーゴイルたちは武器を捨て、深くうなずいていた。


「やるのか!?」

「投降する」


 おれが剣先を向けると、苦虫をつぶしたような表情で、指揮官のガーゴイルが握っていた剣を手放した。

 当然それは落下し、


「ああっ!」


 指揮官の下にいた青年の腹に刺さった。


「おっと悪い。気づかなかった」


 ニヤニヤ笑いながら、指揮官は自分には戦闘の意思がないと示すように、両手を上げた。

 無益な殺生はしたくない。

 それは本音だ。

 けど、やらなきゃいけないときがあるのも理解している。

 自責の念が積もろうとも、やらねばいけないのだ。

 おれは無言で飛び上がり、指揮官の首をはねた。

 場が凍るのがわかった。

 でも、これでいい。

 こうすれば、おれの本気をより強く印象付けられる。


「次はどいつだ」

「おい。これを飲め」


 おれが睥睨する中、一匹のオークが腹を刺された青年に近づき、液体の入った瓶を差し出した。


「ううっ、痛い。助けて」

「ああ。助けてやる。だから、これを飲め」


 痛みがひどいのか瓶を受け取らない青年の口に、オークが瓶の中身を無理やり流し込んだ。


「マジか!?」


 驚くおれを尻目に、青年の傷がみるみる塞がっていく。


「俺たちは投降する。信じてもらえるか?」


 青年はオークに感謝の言葉を告げている。

 大丈夫そうだ。


「ああ。十分だ。約束は守る」


 おれは剣を鞘に納め、再度手近な民家の屋根に跳び、一直線に城へ向かった。

 襲ってくるモンスターは零に近い。

 ほとんどがおれの視界に入らないように、次々に飛び退って投降の意思を示した。

 だが、隠れた野心家というのはどこにでもいるらしく、武勲を立てようとアタックをかましてくる雑魚も散見する。

 無視して突き進んでもいいのだが、放っておくのも後のしこりになる。一般市民を人質に取られたりすれば、面倒なことになる。それは火を見るよりも明らかだ。

 一番いいのは返り討ちにすることだが、時間がかかる。

 ほとんどのモンスターは一太刀で斬り伏せられるが、襲い来るやつらは正面から対峙すれば勝ち目がないのを理解していて、視界の外から不意打ちをかけてくる。

 それを屠るため、おれは身体の向きを変えたり、足を止めなければいけなかった。

 そのせいで数秒が過ぎる。大した時間ではないかもしれないが、積もれば数十秒……数分と膨れる。

 そのわずかな時間で、命を落とす者だっているだろう。

 ジレンマだが、焦りはなかった。

 生前、おれはこういったことに対処するのには慣れていた。

 おおまかなシステムを正常運行させながら、細かい不具合を修正していく。

 それはシステムエンジニアとしての業務に似ている。

 そして、これの正しい対処法はたった一つだ。

 サボらないこと。

 的確に状況を判断し、小さな不具合や問題を放置しない。時間はかかるかもしれないが、その都度きちんと対処する。

 それが一番の近道なのだ。

 放置した結果、一時的に凌げることもあるが、大抵はどこかで破綻する。そうなれば、処理に必要な時間は倍以上かかるのが経験則でもある。

 だから、こいつらも放置してはいけない。面倒でも、対処しなければいけないのだ。

 そうすることで、投降した連中の戦意を根こそぎ刈ることもできるだろう。

 そう自分に言い聞かせ、おれは雑魚を殲滅した。


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