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バイト先で魔装少女とかいうのをやらされてます。……あの、でも俺男なんですけど!?  作者: カイロ


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滅びへの打開策

「はあっ、はぁっ、はっ……。な、なんでにげたの、戸ヶ崎さん」


 自分が追いかけられていると悟った戸ヶ崎はしばらく明也から逃げ続け、走り疲れたのか諦めたのかいきなり立ち止まった。

 息切れを起こして若干涙目になった明也を見て、戸ヶ崎は少し呆れたような顔になる。


「……せっかく邪魔したら悪いと思って離れたのに。先輩の方こそなんで逃げちゃったんですかぁ?」

「えっ、どういうこと!? もしかして戸ヶ崎さんさっきの人とグルだったりする!?」

「しらないですよぉあんな人。私はただ面白そうだったから見てただけで」


 そう言いながら戸ヶ崎は笑い、それからちょっと残念そうに息を吐く。


「まぁ途中までしか見れなかったんですけどねぇ。もうちょっとちゃんと隠れてたらよかったなぁ」

「最後までいったら俺殺されてたと思うんだけど」

「殺されはしなかったと思いますよぉ、空気でわかりましたからぁ。だいたい先輩はマリスドベルだから死なないですし」

「そ、そうだったんだ……。じゃあ俺は一体どうされる所だったんだ……?」

「わからないんですか? ……まぁ、それならそれでいいと思いますけどねぇ」


 自分がどんな状況に置かれていたのかを理解していない明也に戸ヶ崎は目を丸くし、しかしそれはそれとして話を切り替えた。


「そんなことより町にいっぱいマリスドベルがいるんですけどぉ、何があったか教えてくれます?」

「ああ、えっとね……」


 明也は茅原町の棄て井戸から無数の怪人が湧き出てきた事を説明する。


「わぁ、大変ですねぇ。この町も1人残らず皆殺しにされちゃうんでしょうかねぇ」

「も……ってどういうことか気になるんだけど、とにかくそうはさせないよ。戦えるのはシュガーフェストの俺達5人だけかもだけど、できる限りマリスドベルを倒さないと」

「できますかねぇ。なんかだんだん数が増えてる気がするんですけどぉ」

「増えてる……?」


 その発言に気がかりなものを覚える明也は周囲を見回す。近くの怪人はできるだけ倒しているので姿はないが、少し離れた場所にはマリスドベルの影がちらちらと見える。

 見える範囲の情報ではあまり判断できず、明也は近くの電柱を登って高い視点から再び町を見てみる。

 そこで衝撃の光景を目にしてしまう。


「ッ!? そんな、林から……!!」


 明也たち3人の向かった井戸のある林。そこからはマリスドベルと思しき小さな影がいくつも見えた。

 遠く離れた位置からでもすぐに発見できたほどに怪人の放つ闇の霧は濃い。その数は茅原町にいると思しき1万のマリスドベルなどほんの先触れに過ぎなかったのだと理解できてしまうほどだ。

 数十万を軽く超えているだろう規模のマリスドベル。それが町に到来すれば、間違いようもなく待っているのは破滅のみであろう。

 電柱から降りた明也はショックで足元をふらつかせながら戸ヶ崎の前に戻る。


「当たってましたぁ?」


 自身の勘が正しかったかどうか尋ねる戸ヶ崎は楽しそうな顔をしているが、明也の方はそれとまるで正反対だった。まもなく来たる絶望を目の当たりにして心が折れかけてしまっている。


「……シュガーフェストに戻ろう。みんなで、話し合った方がいいと思う」






 町を回り、5人全員を揃えてシュガーフェストへと戻ってきた明也は、早速膨大な数のマリスドベルが迫っているのを他の4人にも伝えた。

 どう考えても押し返せないような破壊が迫りつつある。その事実を、明也は淡々と述べていく。


「……俺が見たのは以上です。あれは流石に、もう対応しきれるような数じゃありません。戦った所で、茅原町ごと押し潰されて終わりですよ」

「……そうですか」


 諦めるような声色にそれが覆しようのない事実だと感じ取ったのか、佐藤たちからはほとんど否定するような言葉も返さず、ただ明也の言葉に頷いた。

 斬っても斬ってもマリスドベルが減っていかないのは佐藤たちも気付いていたのかもしれない。そこへ抗っても待っているのが確実な終わりだと告げられ、あっさりと受け止めてしまったのかもしれない。


「逃げるしかない、という事なのか?」

「それも……どうなんでしょうね。町の人を避難させるにも、俺達だけで逃げるとしても、間に合わないかもしれません」


 既にマリスドベル達は動き出す直前という状態であった。たとえ少人数であっても今から即町の外へ逃げたとしても捕捉されずに逃げ出すのは厳しい賭けとなってしまう。更に融合体がその中に潜んでいようものなら、もはや賭けにすらなってはくれない。

 今からできるのは、見つからないように隠れている事、くらいなのかもしれない。

 そんな考えがその場の者たちにも伝わったのか、悲痛な沈黙がその場を支配しようとする。


「おやおや、随分と暗く空気が淀んでいるね。諦めるには早いと思っていたのだけれど」


 だが、そんな明也たちに静かな声が投げかけられる。俯いた顔を上げればそこには、店のドーナツを盛り付けた皿を手にする赤い髪の女がいた。


「博士?」

「やあ、久しぶりに会うね」


 明也に呼ばれ、博士は明滅するラズベリーのようなドーナツを齧りながら返す。

 緊張感などまるで感じさせないいつもの振る舞いの彼女に、なんらかの解決策があるのを期待して京が立ち上がる。


「我々にはまだできる事があると、そう受け取って良いのか!?」

「うん。もちろんだとも」


 京に向けて博士は笑顔を見せる。あまり感情を見せない態度を貫いていた彼女にしては珍しい。まるで良い事でもあったかのようだ。

 それが今の状況を何とも思っていないような素振りに見えてしまい、明也は思わずムッとして反論してしまう。


「……諦めるのは早い、なんて言いましたけど本当にどうにかできるんですか? 俺達たった5人じゃあの数のマリスドベル、絶対に倒しきれませんよ」

「知っているとも。あれは巨大な水源を流れる水のようなもの。君達がいくら掬い上げたところで尽きる事はないんだよ」


 当然のように博士はそう言った。あのマリスドベルの大群に終わりはないのだと。解決法ではなく決して逃れられない終わりを改めて突き付けられ、明也は奥歯を噛み締める。


「どうしようもないじゃないですか!」

「うん。だからその源流を断ってやればいいんだよ。簡単な話じゃないかい?」


 これまた同じく当然のように簡単に言われ、明也は唖然とする。

 理屈そのものは理解できる。しかし、その元凶がどこにいるのかなどまるでわからないのだ。

 だが、これだけできて当然というような挙動をしている博士なら、既にそれを見つけ出しているという事になるのではないだろうか。それならばこの余裕溢れる態度なのも納得がいく。

 博士の言わんとする事を理解し、明也は頷く。そして、改めて彼女へ聞き返すのであった。


「……なるほど。それで、このマリスドベル達を生み出している親玉はどこにいるのか、聞かせてもらいましょうか?」

「? 私はしらないけれど?」

「お前!!!!!!」


 期待させるだけ期待させて見事に空振りを披露してくれた目の前のアホを殴るべく飛び出そうとしたが、佐藤と京に止められた。


「待ってください暁くん! それよりどうして今頷いてたんですか!」

「そうだ! 何がなるほどだったのか教えてくれ! 気になる!」

「どっちも忘れて下さい!!!!!!」


 しばらく抑えつけられ、多少冷静さを取り戻した明也は荒い息を吐きながらもう1度座り直す。

 それを見届けた博士はようやく口を開く。


「……その様子だとまだ気付いていないのかな。知っているのは君の方だよ。いや、探せるのは、と言ったらいいのかな」

「……俺、が……?」


 どういう事だかもわからず呟いた明也に博士は頷きを返した。


「そうだよ。君の……ほら、ね……アレ……前にさ…………教えた……アレをね……」

「……俺がマリスドベルだって話ならとっくに済んでますからね?」

「そうかい。なら話は早いね。君がその力を操ってやれば簡単に大元へたどり着けるんだよ」

「操る……? どうやってですか?」


 そう聞き返すと、簡単な話だよ、と言って博士は自分の胸に手を当てた。


「君もマリスドベルなんだ。それをもっと心の奥深くから受け入れて、彼がどこにいるかを探ってごらん? あれほどの数を産んでいるなら相当な力を使っているはずだ。かなり分かりやすいと思うよ」

「な、なんて曖昧な指示を……まあやってはみますけど」


 なんとも言うは易しな事だと思わないでもないが、他にできる事も無い以上は挑戦してみるしかない。とりあえず明也は目を閉じ、深呼吸を繰り返して自分の内側に深く潜っていくようなイメージをしてみる。

 途中、そういえば最近他の場所でも受け入れなさいよ、と言われたのを思い出す。……もしもあの時、何もせずあの場に留まり続けていたらどうなっていたのだろう。


「うん、いいね。君が集中してきているのを感じられるよ」

「……今まさに関係ない事考えてた最中なんですけど」


 分かったような口を利きながら何も分かっていない博士に、本当にこのままこんなやつの言う事を聞いていていいのか不安になってくる。

 と、同時に明也は自分の精神がふわりと浮き上がるような感覚を覚えた。目を閉じたままなのに、世界が広がっていくような、茅原町全体を空高くより俯瞰しているような感覚だ。

 今なら見えないはずのものも見つけられる。そんな気がして明也は博士の言葉に従い無数のマリスドベルを生み出している親玉を探してみる。

 地上に存在するマリスドベルが放つ力が赤黒く輝いて見えた。大小様々な力のきらめきを感じる明也はその中でも一際大きく異様な輝きを放つ力の元に向かって降りていく。

 他のマリスドベル達とは違って白銀の色に輝いたその力を追いかける。それは、茅原町の大地に立ってはおらず、それより深く、深くで鎮座しており――


「これは……地下?」


 明也の脳裏によぎったのは茅原町の奥深く。地の底で蠢く強大な力の存在を確かに感じ取った。


「茅原町の……中心付近の地下に……なんか、よくわからないけど銀色の球体みたいなものが」

「なるほどね。ならやはりそこで間違いないはずだよ」

「茅原町中心っていうことは、旧地下水源ですね」


 元凶の位置を特定した明也に、佐藤は明確な情報を教えてくれた。


「旧地下水源、ですか?」

「ああ、随分昔に使われていたものだったそうだ。そこから各地に水を供給するために使われていたのだが、ある時枯れてしまって、それっきり放置されているんだ」

「昔にできた割りにしっかりした作りなんですよねー。子供の頃に見学しに行ったの覚えてますよー。あんまり見るものはなかったですけど」


 敵がいるのは町の施設の中らしい。それも子供が入れるならしっかりとした入口があるという事だ。どこから向かうべきか悩まずともいいわけである。

 そして棄て井戸からマリスドベルが無数に現れた事も説明がつく。その水源が町の井戸と繋がっていて、産み出された怪人たちはそこから溢れてきたという事だろう。

 そして、その水源に待つ敵を倒せばマリスドベル達も……と考え、そこで明也は気が付く。


「……待ってください博士。相手の場所はわかりましたけど、どうやって倒せばいいんですか?」


 明也の言葉に、佐藤たちは一斉に首を傾げた。


「? どうって、コレで倒せるのな」

「いつもみたいにバッサリやっちゃえばいいんじゃないですかぁ?」


 そう言ってDブレードを示してみせるライミィたちに、明也は首を横に振った。


「マリスドベル相手ならそうなんだけど、倒しに行くのってそれを生み出してる奴なわけでしょ? それだとDブレードではどうやっても倒せないはずなんだけど……そこはどうなんですか、博士?」


 そう言って、明也は博士へと視線を送る。

 Dブレードはマリスドベルを倒すための特攻兵器だ。これで斬られたマリスドベルは斬撃痕から光の粒子へと変わっていき、消滅する。

 だがその効果の発揮される相手はマリスドベルのみである。人間相手に効力はなく、つまりは怪人を生む宿主へは通用しないということになるはずだ。

 明也が見たのは銀色の球体である。とても人とは思えないような外見であるが、マリスドベルを生み出しているというのならDブレードが効かない可能性もあるかもしれない。

 そう考えての質問だったが、博士は心配いらないよ、とすぐに返した。


「その剣は元々彼の為に作ったからね。マリスドベルに効果ありという事は、それと繋がっている彼にもしっかりと力を示してくれるはずだよ。安心していい」

「……本当ですか?」

「もちろん。私が嘘を吐くように見えるかい?」

「そこそこ」

「そうかい。ただ今回は信じてくれていいとも。……もっとも、マリスドベルとは違って何度か斬る必要はあるかもしれないのは留意してほしい。彼が完全にこの世界から消えれば一緒にマリスドベルも消滅するはずだからそこを目印にしてほしい」

「わかりまし……いや、待ってください」


 頷きかけ、明也は博士に確認したい事ができて聞こうとした。


「……いえ、やっぱり大丈夫です」


 が、すぐに今聞くような話でもないな、と考えて再度訂正した。博士の方もそれ以上聞いてくる事も無く、明也たちは話を終えると旧地下水源へと向かっていく。

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