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バイト先で魔装少女とかいうのをやらされてます。……あの、でも俺男なんですけど!?  作者: カイロ


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封印の解放


「あ、おはよう暁くん! もう動けるようになりました?」

「はい! やっぱり1日1回までなら何ともないですね」


 シュガーフェストに来た明也は顔を合わせるなり佐藤にそう挨拶された。

 ナインカウントの連続使用によって2日ほど動けない時もあったが無事に復調。そして体が自由に動けるようになった途端に現れた融合体を再びナインカウントを用いて撃破したりしていた。

 当然その翌日は反動で体が動かせなかったが、1夜明ければピンピンしている。


「……まあそれはいいんですけど、最近特に多いですね、融合体」

「ですねー。危なくて困っちゃいます」


 元気であると示してみせた明也だが、融合体の出現の多さには疲れたような顔で笑う。

 珍しい例であると思い込んでいたマリスドベル融合体が立て続けに現れるのは、明也にとって気の休まらないことだ。

 特にその殺傷能力。対峙している本人が身をもって体感するのだから間違いない。魔装が意味を成さない以上、あれは普通の人間が相手をするべきではない存在だ。

 これまでは明也だけで対応はできていたが、このままの調子で2体、3体と同時に出現する融合体の数が増えでもしたら明也以外の4人の中から死人が出てもおかしくはない。そうなりかけた時も、確かにあったのだから。


「……どうにか元を断てないものですかね」

「たしかに。出てきた怪人を倒していくってだけじゃきりがないですし……ただどこから来てるんでしょうね、マリスドベルって」


 明也の呟きに佐藤も賛同する。だが怪人たちの発生源には心当たりがないらしく、2人は揃って首を傾げるだけだった。


「その答えにはならないかもしれんが……またマリスドベルだ」

「あ、京ちゃんおはよー」

「またですか、……本当に多いですね最近」


 明也に続いて出勤してきた京がスマホを片手に示しながら現れる。矢継ぎ早に現れる怪人に明也も嫌気がさしてしまう。


「うわ、しかも3か所同時に……!?」

「場所もバラバラですねー。これは手分けして行くしかなさそうかな?」


 マリスドベル出現を知らせる3つの地点は、それぞれが遠く離れた位置にあり、1つ1つに全員で向かうのは非効率な状況だった。

 その全てが融合体、ということもないだろうが、連続で融合体が現れ続けている現状を思えばこの中の内いずれかがそうである可能性は低くないだろう。


「……もしも融合体がいたら俺が相手をしますから、2人共絶対に手を出さないでくださいよ?」

「ふふふ、強敵との戦いに餓える戦士みたいな事を言うじゃないか」

「いや真面目に2人を心配して言ってるんですからね!? 死んだりなんてしてほしくないんだから約束してくださいよ!?」

「わかってますってー」


 いまいち緊張感に欠けるものの約束はして、3人はそれぞれに分かれてマリスドベルの出現地点へと向かった。

 明也が付いた場所は茅原町に点在する林の内の1か所、その奥にある古い井戸の前だった。

 はるか昔に涸れた井戸は廃棄され、間違って誰かが落ちないようにか木の板と大きな石でしっかりと蓋がされていた。

 ……何枚かお札のようなもので封をされているのだが、その辺りは明也は意識しないようにする。

 ともかく森に近いような規模の林には人の気配がなく、マリスドベルもどこにいるのかわからない有り様だ。もっと、別のものが出てきてもおかしくないような気すらする。


「……まいったな、もう逃げられたのか?」


 静かな林に明也の声が吸い込まれていく。それに返事をする相手は当然おらず、深い沈黙が返ってくるばかりだ。

 あまりにも静寂に満ちた空間に落ち着かない明也は、早くも帰りたくなってきた。気のせいか、さっきから自分の真後ろになにかがぴったりとくっついているような感覚がするせいもあるだろう。

 それでもマリスドベルを倒さずに帰るわけにはいかない。早いとこ怪人を倒して帰ろう、と明也は林の中をもっとくまなく探そうと決める。

 と、その時、ドン! と強い力で何かを叩く音がした。


「おおおおおっ!!???」


 そしてそれを上回るかのような大声をだしながら明也はビックリし、ひどく高く飛び上がりながら周囲を見回した。

 だが視界内には変わった様子もなく、音の発生源も特定はできなかった。周りにあるのは林を構成する何本もの木と井戸だけだ。

 DブレードΩを構え、上下左右を高速で見回す明也の耳に、再び同じ音が響く。それから間を空けて再び。ドン、ドンと不規則に繰り返される。

 1度ならず何度も繰り返されれば、その音の位置も特定できるというものだ。よく聞けばくぐもったような音であるのもわかる。

 なにかの内側から叩かれるような音がどこから聞こえているのか、発生位置を特定した明也はひどく嫌な顔をした。


「…………ここかぁ……」


 この林に入って最初に目にした建造物、封じられた井戸の中から叩くような音が聞こえ、それに合わせて蓋の上の石が小刻みに振動している。

 マリスドベルの放つ闇色の霧も、よく見えれば井戸の隙間からわずかに零れ出てきているし、怪人はこの中にいるという事だろう。


「やっぱり、開けないと駄目なのかなぁ……」


 井戸を見て、明也は愚痴をこぼす。そこに怪人がいる以上は倒さなくてはいけないのだが、これを開けてはマリスドベル以外のナニカも解き放ってしまうような気がする。

 いや、そもそもマリスドベルが人間の悪意から生まれるなら近くに怪人を生んだ人間がいるはずなのだが、こんな井戸の中にいるとはどういう事なのだろう。余計な事を考えて、明也は余計に怖くなってしまった。


「……うん、やっぱり戻っ」


 後ずさりながら言っている途中で、明也の背後から鞭のようなものが伸びて井戸を直撃する。

 それで、石も蓋も簡単に砕け散り、封は簡単に開けられてしまった。


「なッ……!?」


 背後を振り返る明也は驚愕した。そこにはにやにやと笑うマリスドベルがいたのだ。何者かの存在を感じていたのは気のせいではなかったらしい。

 音もたてず静かに笑うマリスドベルは今まで自分の存在に気付けなかった明也をあざ笑うように攻撃してきた。鞭のようにしなる腕が明也を打ち据える。


「っ、このッ!!」


 怪人の攻撃を首元に受けるが、明也に傷は無い。融合体でないただのマリスドベルならやはり魔装が身を守ってくれる。

 背後に立つためか至近距離にいたマリスドベルはそのまま反撃のDブレードΩを避けられずに両断された。

 光になって消えながらも、そのマリスドベルはにやにや笑いを止めないでいた。

 その姿に気味の悪いものを覚えた明也は、しかし破壊された井戸の方へと視線を戻す。


「こっちのマリスドベル、は……!?」


 思わず、明也は息を飲む。砕かれた井戸は大きくその口をあけている。そこからは既にマリスドベルが這い出してきていた。

 闇色の霧を纏った怪人が井戸から既に脱しており、その全身を露わにしているがそれは分かり切っていたことだ。明也が驚いたのはもっと別の所である。

 そのマリスドベルに続くように井戸から1体、また1体と、とめどなくマリスドベルが這い出てきているのだ。

 本当に止まることを知らないかのように次々にあふれ出てくる。どれもこれもが別々の形状をしており、同一個体でもなさそうな怪人たちが現れては林の中をどんどん埋め尽くしていく。


「な、なんだこの数……!? いや、でも止めないと!」


 際限なく現れ続けるマリスドベルに呆然としていた明也だったが、自分の使命を思い出してDブレードΩを握り直す。

 これほどの数がもしも林を抜けて茅原町に解き放たれようものなら大変な事になる。明也は怪人の群れに斬りかかろうと踏み込んで、


「ぁっ……?」


 それと同時に喉に衝撃を受け、言葉を発せないまま縦に半回転して地面へと叩きつけられた。

 何が起きたのかを確認すべく状態を起こし、怪人たちの方を見る。

 その中に紛れるように、人間の体にマリスドベルを纏った者がいるのを明也の視界が捉える。


(融合体がいたのか……!!)


 完全に油断していた明也は奥歯を強く噛み締めた。見渡す限りほとんどが通常のマリスドベルで、融合体がいるとは思いもしなかったのだ。そもそもあんな井戸の中に人間がいる事も予想できなかったので警戒さえしていなかった。

 しかし、いるとわかればためらう事はない。立ち上がった明也はDブレードΩへと向かって叫ぶ。


「……っ、……!?」


 だが声が出ない。気付けば喉からシュウシュウと音がする。自分の喉に触れて、明也は状況を理解した。

 融合体による一撃で喉を貫かれたらしく、巨大な穴が開いていた。ナインカウントの起動は音声認識なので切り札を封じられてしまった形となる。

 焦る明也だが、すぐに落ち着きを取り戻す。この傷もマリスドベルである明也には致命傷ですらない。ちょっと時間が経てば元通りに再生できる程度のものだ。

 回復するまでの間、通常戦闘で数を減らすまでだ。そう考え、明也はもう1度怪人たちへ突撃する。

 喉を穿ってきた融合体の攻撃も、来ると分かっていればなんとか回避できる程度のものだった。かわしつつ、明也は手近な怪人めがけてDブレードΩを振り抜こうとする。

 が、振ることはできなかった。DブレードΩを握る手を背後から掴まれている。ビタリと止められてしまったかのように前後左右どこにも動かせない。

 驚きに目を見張る明也が振り返ると、そこにはまた別の融合体がいた。巨大な腕を持ち、その大きさに相応しい怪力でもう片方の腕も拘束されてしまった。


「……! ……!!」


 大きくバンザイをするように腕を広げさせられ、巨腕に持ち上げられた明也は空中で拘束されてしまった。どれだけもがこうと、びくともしない。

 融合体が1体だけだと思っていた明也はもはや動く事すら叶わない状況だ。

 身動きの取れなくなった明也の所に他の融合体やマリスドベルたちが次々に集まり、凶悪な笑みを浮かべている。

 相手は悪意から生み出された怪人たちだ。そんなものが今からどんな行いをしようとしているのか、想像した明也は恐怖に息が荒くなってしまう。


「ーーーーーーッ!!!」


 そんな思考も束の間、周囲の怪人たちは明也を蹂躙し始めた。

 明也の喉を封じた融合体が明也の体へと同じように次々に穴を開けていく。するとその場所へ続けざまに他のマリスドベルの攻撃が殺到する。ただのマリスドベルでも、魔装に遮られなければ殺傷能力は融合体と大差ない。

 斬られ、刺され、砕かれ、焼かれ、溶かされ、混ぜられ。ありとあらゆる苦痛を体の内側から連続で与えられ続け、声のない絶叫を上げていた明也はいつしか意識を失ってしまった。





「ッ、あ……!?」


 自分が気絶した、そう理解した明也は目を覚ました。いつの間にか解放されたのか、最初に見えたのは木々に覆われた空だった。

 仰向けになっていた明也は素早く身を起こして辺りを見回す。しかしそこには何の気配もなく、砕かれた井戸があるばかりだ。

 意識と同時に取り落としたDブレードΩはあるがマリスドベルはもはや影も形もありはしない。


「そんな……」


 ――逃げられてしまったらしい。それを理解した明也は声を震わせながらうなだれた。そして自分の体を見る。

 魔装は穴だらけにされ、ボロクズのようにされてしまっていた。半ば裸のような状態だ。

 しかし傷はまったくない。声が出る事からもわかるが、気を失っていた間に負傷は再生したのだろう。

 ダメージが残っていなかったのは有り難いが、それは同時に相応の時間が経っているのを意味しているためあまり喜んでいられない。

 あの無数のマリスドベルと融合体は既に茅原町に進軍してしまっているのが確実である。

 治っているはずの傷がまた痛むような感覚がして、思わず明也は胸を押さえた。

 怪人たちの中には融合体も複数いた。もしもそれが町に到達して暴れ出したり、明也がされたのと同じように不意打ちをうけたりしようものなら。


「……。こんな所で立ち止まってるわけにはいかない。マリスドベルを止めないと」


 DブレードΩを拾い、明也は解き放たれてしまったマリスドベル達を追って林を後にするのだった。

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