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バイト先で魔装少女とかいうのをやらされてます。……あの、でも俺男なんですけど!?  作者: カイロ


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心から信頼できる仲間

「俺は、マリスドベルなんです」


 次の日。

 佐藤たち4人の集まった調理場で明也は開口一番にそう言った。

 前日に明也が言った通りに全員が揃ったので、そこに躊躇いはなかった。佐藤もさりげなく京たちを集めてくれていたので、今更立ち止まることもできなくなっていたのだ。

 普段からけっこう喋るほうであったはずの彼女らもその言葉には一様に口を閉じ、驚きに目を丸くしている。

 やはり凄まじい衝撃を受けてなのか誰も言葉を発そうとはしない。だがそれでも佐藤だけは驚くような様子も見せず、


「……!!!」


 ……いや、むしろこの場にいる人間の中で最大級に驚いていた。そんなこと欠片も想像していなかったようにしか見えない。真っ青に顔色を変え、ありえないほどに口を開けてドの付くレベルの動揺を見せている。ちゃんと受け入れるとはなんだったのか。

 少なくとも1名は冷静に受け止めてくれる人がいると思っての打ち明けだったので、もしかしたらこれはまずいのでは、と明也は思い始める。


「……そうだったのか。うん、言われてみると、確かにそんな素振りは見えていた気がしてくるな」


 そんな中で最初に声を上げたのは京だった。佐藤に期待していた落ち着いた理解を示してくれている。


「まあ、明也がマリスドベルだったからといってこれまでと何も変わるまいさ。正義の心を持った怪人という事だろう? 私はそういうの好きだ」

「気にしないのな。メイヤはメイヤなんよ!」

「悪い人ではないのは私も知ってますもんねぇ」

「みんな……」


 続けてライミィも戸ヶ崎も肯定的な言葉を出してくれた。明也が大事な仲間であるという認識から変えるつもりも無さそうな返答だ。

 彼女たちの言葉に明也は安堵と、感動を覚える。受け入れてもらえた事への安心感に、少し涙腺が緩んでしまい、零れそうになった涙を拭く。


「……それで、なんで3人ともDブレードを持ってるのかな」

「なんでだろうな」

「落ちてたんよ」

「不思議ですよねぇ」


 その指摘に、3人は分かりやすくしらばっくれながらDブレードを放り捨てた。


「……え、何? もしかして俺この後背中から斬られたりする?」

「っ、それは、ダメです! 暁くんはシュガーフェストの大切な仲間なんですから!」

「咲……」


 明也の言葉にハッとした佐藤が叫ぶ。……まあ、いまいち説得力には欠けるのだが。

 それでも京たちはその声に感化されたらしく、同意を示してみせた。


「そうだな。咲の言う通りだ。たとえ明也が人間でなかったとしても今まで通りに接してやればいいのだものな。仲間として、これからも茅原町を守っていこう」

「サトーはいつもワタシにドーナツいっぱい食べさせてくれるのな。そんな優しいサトーが間違った事言うはずないのな!」

「……なるほど、もしかしたら今店長が何も言わなかったら俺確実に殺されてましたね?」

「命拾いしましたねぇ」

「まったく隠す気ないね戸ヶ崎さん!?」


 明也のではなく佐藤の信頼によって仲間である事を認めてもらえたようだ。……すこぶる納得がいかない。

 がしかし特に戦いになるような事もなかったのだ。いきなり襲われたりはしない程度の関係は築けていたのだろうという事にして明也はよしとする。


「……腑に落ちない点がないではないですけど、ともかく話せてよかったです。これだけは包み隠さず話しておきたいとずっと思ってたので」

「勇気のいる決断だっただろうな。これまでずっと戦ってきた敵と同じ存在だなどと知って、それを私達に明かすとは」

「そうですね。そんでさっきまで思いっきり裏切られそうになってたんですけど」


 まあ、ともかく。

 これで明也が年明けからずっと抱えていた思いを解消する事ができたのだ。酷く重い肩の荷が下ろされたような心地で息を吐く。

 全体的に不安が残されるリアクションしか返ってきていないのが気になる所だが、ひとまずは解決だ。

 そういうことにしようと明也が決めた時、京が神妙な顔でスマホを取り出した。それからすぐに顔を顰めた。


「こんな時にか……」

「もしかして、マリスドベルですか?」

「んん、そうだが。……いけるのか? 明也」

「当然ですよ!」


 マリスドベルが現れたらしい。心配するように問う京だが、明也はそんな事はもう気にしていない。気丈に返せるほどだ。



 そうして明也たちは魔装へと着替え怪人の出現現場へ到着した。左右を林に囲まれた、やたら広い道路だ。

 茅原町では珍しくもない地だ。特段目を見張るもののない土地だが、5人は別のものに驚く。


「あれは……」

「マリスドベル、いや人とマリスドベルが融合している……!?」


 そこにいた怪人は、以前に戦った佐藤の友人を思わせる姿だった。

 人間の男性の体を鎧のように守護する闇色の物質が混ざり合い、まさに融合体と呼称するのが相応しいだろう。

 その融合体は道路のど真ん中に立ち、暗黒の霧を放つ長く黒い剣を右の手に握っていた。


「貴様、そこで何をしようとしているッ!」


 京の叫びで初めて明也らの存在に気付いたかのように、融合体は視線をこちらへ向けると暗い笑顔を見せた。


「ここを通る車を斬ろうと思ってるんだ。前から……走っている車を斬ってみたかったから」


 長剣を払い、融合体はそう言う。その背後に切断された車の残骸が転がっていない所からまだ被害者はいないようだ。茅原町は日中でも人通りも車通りも少ない。それが今回は幸いの方向に作用したようだ。


「……まだ被害は出てないみたいですね。今の内に倒してしまいましょう!」


 犠牲がまだ出ていなかった事に安堵しつつ明也はDブレードΩを構える。するとこちらに興味もなさそうだった融合体が、その行動で敵であると認めたのかその手の剣を明也たちへ向ける。


「邪魔するんだ。なら、君達から先に斬ってみようかな」


 と言って融合体が襲い掛かってくる。

 ……かと思いきやその場から動こうとすらしてこない。こちらの攻撃を待っているかのようだ。

 後の先を取ろうというのだろうか。よほど自身の速さに自信があるのだろう。ならば明也が行くよりほかない。


「みんな、俺に任せておいてください!」


 どれだけ速くとも、明也には関係ない。その手に持つDブレードΩへ向けて叫ぶ。


「ナインカウントッ!」

『――起動コード承認、並列時空個体との多重リンクを開始、――リンク成功確認。グレートブースター発動。カウント、スタート』


 頭の中に響く音声と共に、世界の時間が遅くなる。超加速状態となった明也が融合体を斬るべく突撃する。

 依然敵は剣を構えたままの姿勢で動かない。このままいつもと同じく、敵に何が起こったのかすらも理解させずに撃破できることだろう。

 怪人の眼前にまで迫った明也はDブレードΩを振り、


「……ッ!?」


 振り下ろそうとしたDブレードΩよりも先に、明也の体は衝撃を受ける。

 何が起きたのか分からないままにはじき返され、おもむろに自分の体を確認した。

 魔装で守られているはずの胸部が、横一文字に切り裂かれているのにそこでようやく気が付いた。傷口はとても深く、ほぼ両断されかける寸前だった。

 目を戻せば融合体は剣を振り抜いた姿勢で止まっている。明也が超光速で動く以上のスピードで攻撃した、ということなのか。

 その恐ろしいまでの攻撃速度に、明也は戦慄を覚えた。


「こいつ……店長たちとは戦わせられない!」


 ナインカウント状態の明也についてこられるような速度で動かれるのは前例があるので驚きはしない。自分が斬られたのもマリスドベルであるのだからすぐに回復できる。構いはしない。

 だが、魔装という防御手段が意味を成さないとなれば、佐藤ら常人が戦えばたった一撃で殺されてしまう。それだけは絶対に防がなくてはいけない。明也が、必ずこの場で仕留める必要がある。


「この、9秒間でッ!!」


 融合体を睨みつけた。すると明也の視線を認識した融合体は一瞬だけ驚き、不敵に笑う。攻撃を受けてなお立つ姿を見てなのか、自信と同じ速さについてこられる事へなのか。

 いずれにせよ融合体は明也の事を明確に敵として認めたようだ。先程以上に殺意が増した。だが、やはり自身から動くことはせず、その場で止まっている。

 それは今の明也には致命的だ。ナインカウントの制限時間が9秒であるのだから、ただ待たれるだけで追い詰められていく。

 時間切れになれば明也は動けなくなり、その後はどうなるか考えただけでも恐ろしい。

 だから、仕掛けるなら先手は明也が撃つしかない。DブレードΩと共に再び融合体へ斬りかかる。

 さっきは相手が動かないと思い込んでいたが故の被弾だ。反撃があると理解していれば、回避はできるはずだ。


「今度こそッ!!」


 打ち貫くように真っすぐ、DブレードΩを突き出す。速さを意識してのその刺突は、超光速状態であるにも関わらず明也の姿を捉えるのが難しくなるほどだった。

 わずかでも刀身が当たればそれで決着だ。融合体もそのスピードには追い付けず、光刃の先端が顔面を捉え……。

 寸前の所で大きく横に逸らされた。


「くッ、そんな!?」


 DブレードΩの柄に、同じく融合体の持つ長剣の柄で強く殴り付けられて攻撃方向がずれ、明也は空を斬らされる。

 凄まじい技術だ。速度だけでなくそんな技まで扱えるとは。融合体は恐ろしく強い、という事だろうか。

 そしてそれだけでは終わらず、突きを逸らした融合体の剣はそのまま切っ先を明也へと向けて迫りくる。

 救い上げるようなその刺突は明也の顎を狙っており、そのまま受ければ後頭部から剣先が生えてくるのは間違いない。

 回避しようにも、今の明也に並ぶ超常的な速さの前には、どこにも当たらないようにすることはできなかった。


「ううううっっ……!」


 頭は避ける事ができたが、代わりに右肩を貫かれた。貫通した長剣に融合体が力を込め、引き降ろされた刃が脇までを切断しながら抜かれていく。

 激しい痛みに思わずDブレードΩを取り落とし、反撃に出る事すらできなくなってしまう。

 反対の腕で剣を持つべく伸ばす。

 そして、それは当然のように翻る長剣で防がれようとしている。

 残った左腕を断つことで、明也に残された勝機をも断とうとするかのように。


「……!!」


 だが、それだけはさせない。明也は右手で振り下ろされた長剣を掴んで受け止める。握り締めただけでは威力を殺しきれず、上腕の中ほどまで刃が食い込む。

 代わりに、その剣を腕の骨がとどめてくれた。明也の意思が伝わったかのように、骨に食い込んだ剣はがっちりと掴み取られたかのように離れはしない。

 顔にわずかな焦りを見せた融合体を、明也は剣を受けた腕で引き寄せる。長剣伝いに引っ張られ、融合体の体勢が一気に崩れる。

 同時に左手でDブレードΩを拾い直し、逆袈裟に斬り上げた。体が宙へと浮いた融合体はそれを避けることは叶わず、その身体に輝ける一閃が刻み込まれる。


「……ッ、……ナインカウント、解除」

『――リンク解除。カウント、ゼロ』


 確かな勝利の証を刻み付けた明也はナインカウントを終わらせる。世界の速度が元に戻り、同時に融合体もアスファルトの床にその身体を叩きつけた。

 決着を知り、佐藤らが明也の元に駆け寄ってくる。


「暁くん! 倒せたんですね、良か……うわ! ボロボロ!」


 近付いてすぐに佐藤は驚きの声を上げた。魔装ごと切り裂かれた明也を見て、他の3人も驚愕に目を見開いている。


「……本当に無事なのか? 重症にしか見えないぞ」

「そんな顔しないでくださいよ。俺からしたらこんなのすぐ直る程度ですから」

「でも痛そうなんよ」

「平気だって。大丈夫大丈夫」

「人外の化け物ですものねぇ」

「間違っては無いんだけどもう少しオブラートに包んでくれると嬉しいかな戸ヶ崎さん!?」


 そんな話をしている間にも明也の体の傷は見る間に塞がっていく。ほんの少し経てば切り裂かれたのは魔装だけになることだろう。


「う、ううう……そんな……僕の、力が」


 それとは反対に、DブレードΩで斬られた融合体は今まさにマリスドベルが消滅しつつあった。手にした力の喪失に嘆いている。

 その力を自分の身で受けた明也からしてみれば、どうにか撃破する事ができたのは非常に幸いであった。


「俺が言うのもどうかとは思うけど……そんな力には頼らない方がいいよ」

「明也の言う通りだ。やりたい事があるなら自分の力だけで成し遂げるべきだろう」

「その通……いや待ってください、この人車を破壊しようとしてたんですけど他力でも自力でもやらせちゃダメなのでは!?」

「! そうか、僕の力だけで……!」

「あーほら!! 変な方向で自信つけちゃってるじゃないですか!! どうなっても知らないですからね!!」


 京の言葉に融合体だった男は何かよからぬ感銘を受けた様子だが、まあ、マリスドベルでなくなったのならそこから先は普通に警察の方に任せればいいだろう。


「……まあそれはそれとして、俺もこれまで通り店長たちと茅原町を守っていくつもりなので、改めてよろしくお願いします」


 そう言いながら、明也は深くお辞儀をした。最終的に明也が言いたかったのは、それである。

 自らの体が傷付くのも厭わず融合体と戦ったことでその気持ちは言うまでもなく知れていたのか、佐藤たちは頷きを返す。


「わかってますよ。暁くんは私達と同じ魔装少女で……茅原町を守る大切な仲間です!」


 そして、返ってくるのも明也が聞きたかったそれだ。

 仲間。そう認めてくれる事へ感謝の意を込めた笑顔は、明也が生まれてきた中で1番の輝きを放っていたように見えた。

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