おあいこ
12月25日、クリスマス。
この日の明也は店の前で宣伝用の看板を持ち、立っていた。それも魔装の姿で。
店長である佐藤からの命令であれば珍しい事でもないのだが、この日の明也は自ら進んでそれをやっていた。
「い、いらっしゃいませーー!! ドーナツ屋さんのシュガーフェストでーーす!!」
まばらを通り越して誰も通らない店の前だが、構う事無く明也は声を上げる。
何の効果もない行いである。普段の明也ならやれと言われても躊躇うようなものだが、なんと今回は明也が発案して1人で実行している。
誰が見ても無意味とわかる行為だが、もちろんそれをやるには理由がある。
それはつい先日、というか昨日の話。佐藤の家でのパーティーに参加した明也は、まあ色々とあって家を汚してしまった。
佐藤本人は気にしていない。しかし自分の出したものの始末を手伝わせている時にはいっそ死んでしまいたいとすら思ったのだ。
なにか罪滅ぼしができないものかと考え、今日がクリスマスと気付いた明也は客引きを頑張ろうと結論を出す。
まあ肝心の客が1人も店の前を通らないのだが。
「あの……暁くん? もうそのくらいで大丈夫ですよ。寒いでしょうし中に入ってください」
明也を案じるような声と共に佐藤が店から顔を覗かせる。が、心配無用と笑顔で返す。
「いやいや、寒くなんてないですよ! なんならこのまま夜まで続けられます!」
「いえ、あんまり大きな声を出し続けると近くのお家から苦情が来たりするので、そのくらいで」
「あ……そうなんですか、すみません……」
そう言われ、明也はおとなしく店の中に戻った。
本当はまだ佐藤の顔をまともに見られないくらいの罪悪感が残っているので店の外にいたかったのだが、これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
「……あの店長。昨日は、ほんと、すみません」
店に入ると同時、そんなことを呟いてしまう。
それを聞いた佐藤は、むっと頬を膨らませて怒る。
「むー、気にしてないって言ったじゃないですか。どっちかって言うなら無理に食べさせちゃった私が悪いんですから」
「そんな、はっきり言わなかった俺の方が悪いですよ」
非は自分にある、と明也が言うと、佐藤は眉をひそめて納得いかなさそうにする。
「……そんなに自分が悪いって思ってるんですかー?」
「はい。だから、せめて何かそのお詫びをしたいんですが……」
「そうですかー。……それって、私のお願いならなんでも聞いちゃう、ってことですかー?」
「ま、まあそういうことですね」
「へえー……」
言う事を聞く、と言われて佐藤は目を細めてにやつくような表情を見せる。とにかくお詫びをしたかった明也はノリで肯定してしまったが、ちょっと後悔してしまう。
相手は奇抜な事が好きな佐藤咲である。どんな要求が飛び出してくるか予想できず、彼女の二の句を聞くのが怖い。
「じゃあ、一緒にご飯食べてください」
「……え?」
ごく単純なその言葉に、明也は目を見開いて驚く。
「一緒にお昼を食べて、ちょっと雑談もして、それで暁くんが気にしている事は全部水に流しちゃってください」
「……それだけでいいんですか?」
「いいですよー。私のお願いは全部聞いてくれるんでしたよね? ちゃーんときれいさっぱり忘れてくれないと駄目ですからねー?」
「あはは……わかりました」
困ったように笑いながら明也は返す。
佐藤の願いとはつまり、「いつも通りに戻ってほしい」というものだ。
昨夜から今まで、明也は店長の顔をほとんど見てもいなかった。避けていた、と言ってもいいだろう。
そんな状態がいつまでも続くのは嫌だったからこその要求というわけだ。
明也としても佐藤を避けるような事はできればしたくない。向こうからそう願ってくれるならありがたいくらいだ。
だが気持ちをそう簡単に切り替えるのは難しい。佐藤の言う通りにできるかは難しいかもしれない。
これに関してはその場の空気に任せるしかないだろう。昨日のパーティーの事を思い返さないような雰囲気会話内容にできるよう努力するしかない。
そう思いながら明也は佐藤の後に続いて調理場へと入っていく。
「あぁ、女の子の家でげぇげぇした先輩が来ましたねぇ」
「くは」
「あ、暁くんーー!!」
入場と同時に飛んできた剛速球が直撃して明也は死んだ。
「まだ気にしてたんですねぇ、冗談のつもりだったんですけど」
「冗談キツイよ戸ヶ崎さん……」
なんとか一命を取り留めた明也は調理場の食事用のテーブルに佐藤と向かい合う形で腰掛けた。致命傷を与えてきた戸ヶ崎は隣に並んで座っている。
「……でも、結構効いたかな」
1回死んだおかげか、張りつめていた気持ちが豪快に断ち切られた事によって佐藤の顔を難なく直視できている。
この上なく荒すぎる荒療治だが、明也は逆に吹っ切れたような心持ちである。これを狙ってやったのか、本当にからかっただけなのかは不明だが、心の中で戸ヶ崎に少し感謝する。
若干すっきりした顔になった明也を横から見て、戸ヶ崎は優しい顔を向けている。
「さっぱりしたって感じですねぇ。もしかしてまたどこかで吐いたりしましたぁ?」
前言撤回。彼女は確実に明也をからかうつもりでしかなかったのだろう。
「……戸ヶ崎さんさ、やっぱり俺の事嫌いだよね?」
「またまたぁ。嫌いな人に話しかけるわけないじゃないですかぁ」
「……」
そう言いながらくすくす笑う戸ヶ崎に、明也は顔を顰める。
「ふぅ、ちょっと言いすぎちゃいましたかねぇ。私のお弁当ちょっとあげるから許してくださぁい」
本気で明也が怒りそうだと見えてか、戸ヶ崎が食べかけの弁当箱を差し出してきた。ドーナツ作りの腕前的に、何を食べても余計に怒りが増しそうな気はするが……。
「うわ、綺麗だ」
中を見た明也の第一声がそれだった。半分ほどに減ってはいるが丁寧におかずを詰めていたのが伺えるさまは美しく、食欲をそそるものだった。
リンゴをウサギの形に切ったり、ご飯の上でふりかけを使ってハートマークを作っていたり、普段の戸ヶ崎からは想像もつかないような普通の女の子っぽさが垣間見える。
できればドーナツ作りもこのくらいにかわいらしくあってほしい。
「ゆうくんと一緒に食べますからねぇ。最近はドーナツの作り方も慣れてきて、いっぱい気合を入れちゃうんですよねぇ」
「ドーナツ関係ある?」
「じゃあ先輩にはこの卵焼きをあげちゃいますねぇ」
明也の疑問は無視して戸ヶ崎が卵焼きに箸を突き刺して持ち上げる。卵白と卵黄が混ざりきらず若干まだらになった下の面があらわになる。失敗部分を隠そうとしているのが本当に手作り感を出していて、ちょっとかわいらしい。
「食べさせてほしいですかぁ?」
「い、いやいいよ」
「また吐いちゃったら大変ですもんねぇ」
「……本当に俺の事嫌いじゃないの?」
「嫌いではないですよぉ。まぁ私があーんなんてしてあげるのはゆうくんくらいなのでぇ、食べさせてって言われてもお断りしますけどねぇ」
「じゃあなんで聞いたのさ戸ヶ崎さん……」
溜息とともに吐き出したその問いに戸ヶ崎は笑ってごまかした。
ついでのように明也の右手を取って、その手のひらの上に卵焼きが直接置かれる。
「そこに渡すんだ…………」
「先輩はお弁当持ってきてないですからぁ」
そう、今日の明也は昼食の用意をしてきていない。いつもの事ではある。なにせシュガーフェストに並ぶドーナツを見ているだけで食欲が失せる、もといお腹いっぱいになるというのが主な理由にあるからだ。
話す方は問題ない。戸ヶ崎に散々からかわれたおかげで普通に会話できる心持ちになっている。
だが「一緒にお昼を食べたい」という佐藤の願いを叶えるのは難しい。そもそも食べる物を持ってきていないのだ。
「……折角だし、お店のドーナツを食べようかな」
しかしシュガーフェストでならどうにかできる。ドーナツなら腐るほどあるからだ。……シュガーフェストのドーナツはなぜか腐らないが。
何にせよ進んで口にしたくはないものだが、今から出前を頼んでも間に合わないし、しかも佐藤が同じく店売りしているドーナツを選んで皿に乗せている。
話をしよう、と言われているのだから共通の話題を作るためにも同じようなものを食べた方がいいだろうと考えた。
とりあえず渡された卵焼きを食べて一旦店の方へ戻ろうと立ち上がった時、佐藤に待ったをかけられる。
「おおっと、そういう話なら暁くんは座っててください。私がオススメを選んできちゃいますので」
言って、明也の返答も待たずに空の皿を持って行ってしまった。
少しして佐藤はたくさんのドーナツを乗せた皿を抱えて戻ってくる。
「とりあえず今日の私のオススメを選んで持ってきましたよー! お代はお給料から引いておくので気にしないで食べてくださいね」
「そんな、悪いですよ……店長の奢りだなんて。お金は払いますよ」
「? ですから、暁くんのお給料から引いておくって言いましたけど」
「俺のから引くんですか!!?? それはめちゃくちゃ気になるんですけど!!?」
まあ、そうは言ってもシュガーフェストのドーナツは安価なので値が張るわけでもないだろう。20個ほどあるが、全部で3000円も超えない程度である。
「……え、20個ですか?」
改めて皿の上のドーナツを見て明也は動揺する。5段重ねのドーナツの塔が4つ鎮座しているさまはすさまじい威圧感だ。
昨夜の白と茶のクリーム塊ほどではないといえばないが。
「キリよく24個の方が良かったです?」
「いえ大丈夫です! っていうかそれはキリのいい数字なんですか!?」
再びドーナツを取りに行こうとした佐藤を制止し、持ってきた皿を受け取る。
手元に来るとやはり恐ろしいほどの圧を放っているのに気付く。
量もさることながらビジュアル面でのインパクトも凄い。食べ物なのかな、と思うより先に「負けイベントの敵かな?」としか感想が出ない。
あとドーナツの1つが皿を持つ手に向かって無数の触手をゆっくり伸ばしてくるのが怖いので高速でテーブルに戻って皿を置いた。
「……さ、さーてどれから食べようかなー……」
軽い気持ちで店のドーナツを食べようとか思ってしまった明也だが、早速後悔の方が上回りつつある。
見ながら手を伸ばすと触ることすら拒絶してしまいそうなので目を閉じてドーナツを掴む。
恐る恐る目を開けて手にしたドーナツを見てみると、人間の歯がトウモロコシのようにびっしりと生えた形をしていた。
「おっ、それから食べるんですかー」
「これから……食べられるんですか……??」
「もー何言ってるんですか暁くん。食べられないものは持ってきませんよー?」
「その言い方だと食べられないものが店頭に並んでるように聞こえるんですが」
逆に言えば皿に乗っているのは食べられるドーナツしかないわけである。意を決して明也は食べてみる。
硬そうな外見だがさっくりと歯が通る。歯のように見えたのはナッツとかだったのだろう。
中は普通の生地っぽく見えた。噛むと同時にドーナツがビクンと震えて空気の抜けていく風船のようにどんどんしぼんでいくのが気になるが、まあ食べられなくはない。
「それ、ひとくち食べるとすぐ死んじゃうんですよねー」
「生き物なんですか!?」
改善点なのかなんなのかわからない事を呟かれながらも、空気の抜けた風船のようになったドーナツの残りを口に入れる。あまりおいしくなくなっていた。
とりあえず、食べ終わったので次を取る。今度のは……クリスマスを模したカラーリングだ。
「あ、それライちゃんが作ったんですよー」
フレンチクルーラー系のドーナツは上が赤で、下が緑の色に分かれていた。切れ込みの間からはカスタード色のクリームが顔を覗かせている。
「へぇ、これかなりいいんじゃないですか? 来年はこれを推したらよさガホッ」
佐藤に返しながら齧ったとたん、鼻に突きさすような刺激が襲ってきてむせた。
「え、痛った……いや、苦……? え……?」
可愛らしい外見から想像できないほどに強い刺激に明也は困惑する。
その正体はすぐに判明する。カスタードだと思っていたクリームはからしだったのだ。
クリームのノリでみっしり詰まったからしだが、口の中にはまだそれ以外の辛みが残っている。
そちらについては佐藤が種明かしをしてくれた。
「赤い所はすっごく辛い唐辛子で、緑の方にはわさびが練り込んであるんですって」
「……罰ゲーム用かな?」
「自分で食べたいから作ったそうですよー」
「この前一緒にお昼食べましたけどぉ、6個くらい食べてましたねぇ、それ」
「へ、へぇー……」
見た目に騙されてしまった。ライミィが作ったと聞いた時点で身構えておくべきだったのかもしれない。
これ以上は食べられなさそうだと判断して、とりあえず隅の方に置いといて次のドーナツへ手を伸ばす。
掴んだものを見て、明也は目を瞬かせて首を傾げる。
「なん、です? これ」
形は、一般的なドーナツとの差はない。
が、明也の手にしたそれはガラスのように透明で、内側が空洞になった筒のようにも見える。
ガラス筒、もといドーナツの上部は削り取られたように穴が開いており、そこからすっぽり他のドーナツが嵌まりそうだ。
もしくはこれは一風変わった容器で、飲み物を入れるために使うドーナツ型のグラスだったりする可能性もあるかもしれない。
「あぁ、そのドーナツは私が作りましたぁ。頑張ったんですよぉ」
が、グラスの線は消えた。製作者本人がドーナツだと言い張ったのだから。
「戸ヶ崎さんかぁ……。ええっと、どう食べたらいいのかな」
「これはですねぇ、まず他のドーナツを入れてくださぁい」
そう言って、戸ヶ崎は明也が皿の端によけていたからし入りドーナツを手にして、透明ドーナツの中に押し込んだ。
無理矢理詰めたという感じではなく、元々それを入れるためだったかのようにするりと収まり、隙間がまるでない。
「はい、どぉぞ」
「え……食べろと?」
さぁさぁ、と戸ヶ崎は食べるのを促してくる。またあの激痛が口内を襲うのかと思うと気が重いが、逃がしてくれそうもない。
しかしわざわざ辛いドーナツをもう1度食べさせようとする辺り、これは辛みを抑えるためのドーナツだったりするのかもしれないと明也は思い、意を決して食べてみる。
透明なドーナツが飴細工のようにバリンと砕け、しかしまるで口の中で溶けずにガラスを噛み砕いているような気分になる。
が、すぐに一緒に食べたドーナツの辛さがまるで襲って来ないのにも気付く。舌が痺れたり、鼻に突き刺すような痛みも来ない。
やはり明也の思った通り、辛さを抑えてくれるドーナツだったようだ。
「わ、すごい。全然辛さ感じないぞ」
「どんな味ですかぁ?」
「え、味? えっと、なんだろ……。みずみずしくて、あんまり味の濃くない……、キュウリみたいな……キュウリ?」
ドーナツの味の感想にキュウリを使う事になるとは思わず、しかしそれ以外に表現しようのない味と食感に自分で疑問を感じながらそう答える。
首を傾げる明也を見ながら、戸ヶ崎は佐藤と共に頷いている。
「これ、何食べてもキュウリの味になるんですか?」
「ちょっと違いますねー」
明也の答えを否定しつつ、佐藤は自分の皿にも乗せてあった透明ドーナツに別のドーナツを入れて食べる。
「正解は、中にドーナツを入れると別のなにかの味になるドーナツ、でしたー」
「……なんかめちゃくちゃ凄いものっぽいんですけど、どうやって作ったの戸ヶ崎さん」
「頑張って作ったんですよぉ」
「どう頑張ったらそんな自動生成ダンジョンに落ちてそうなものができるの戸ヶ崎さん……?」
「ちなみに私が今食べたドーナツは、普通のごはんの味がしまして、はきそう……」
「ちょ、マジで顔色悪くなってるじゃないですか!?」
顔を青くしながら手で口を押さえる佐藤を見て、明也は昨日の自分の事を思い出してしまう。
部屋の隅に置いてあった清掃用のバケツを持って佐藤の元に駆け寄ると、口から手を放して舌を出した。
「ごめんなさい、じょーだんです」
「て、店長もですか……!!?」
「先輩はからかうと面白いですからねぇ」
2度も連続でからかわれ、佐藤相手といえど明也もちょっとムッとする。まあそれよりも佐藤の気分が悪くなったのが嘘で良かったという気持ちも強くはあるが。
……それはそれとして顔色が悪いままなのが気になるのだが、本当に大丈夫なのだろうか。
「あの、痩せ我慢とかじゃないですよね?」
「平気ですよー、吐き気はありませんし。寒気と手足の痺れと息苦しさがあるくらいです」
「それはもういっその事吐いてしまった方がいいのでは!?」
毒でも食ったのかというほど佐藤の顔は青ざめている。実際、彼女からするとそれに等しい味だったのかもしれない。
「そうですねぇ。せっかくですから店長さんの吐いたやつ、先輩に片付けてもらったらいいんじゃないですかぁ? 昨日の事はそれでおあいこにしたらいいと思いまぁす」
「え、何言ってんの戸ヶ崎さん」
「まあ暁くんもだいぶいつもの感じに戻ってきた気がしますし、いいかもしれませんね。……じゃあ暁くん、そのバケツ貸してください」
「やる気なんですか店長!??」
今度こそ冗談ではなく、佐藤の顔には本気さが表れている。明也がバケツを渡せば即やりそうであった。
吐いた方がいいとは言ったが、やはり躊躇なく実行しようとされるとこちらの方がためらってしまう。
迷い所ではあるのだが、佐藤が本当に辛そうに見えて最終的に明也は渡してしまう事にした。
「あ、ありがとうごさいますー……」
「先輩からのクリスマスプレゼントですねぇ」
「ははは……バケツがプレゼントはちょっとショボいんじゃないかな」
「いいじゃないですかぁ、この後店長さんからも中身付きでプレゼントしてもらえるんですよぉ」
「だから冗談キツイって……」
ここから先は佐藤も見られたくないだろうと思い、明也はしばらく店の方に戻ろうとする。
……が、それを引き留めたのは佐藤自身の手だった。明也の手首を掴み、顔色の悪いままの顔を向けてくる。
「……店長……??」
「待ってください、昨夜は暁くんが吐くところを見ましたので、私が吐くところも暁くんには見ていてもらわないと……」
「そ、そんな細かい状況までこだわらなくていいでしょうよ!! 俺はお店の方行ってますって!」
「えぇぇ、先輩は店長さんが吐くの見たくないんですかぁ?」
「その言い方だと見たいのが当たり前みたく聞こえるんだけど!?」
「まぁ一般的にどうかは置いといてもそうしないと店長さんも納得しないかもしれませんよぉ?」
言いながらフリーだった方の手が戸ヶ崎に掴まれる。そのまま、バケツを床に置いてスタンバイ完了状態の佐藤と向き合わされる。
「じゃぁ私が先輩を抑えてるのでぇ、店長さんは今の内にすっきりしてくださぁい」
「はい。ちゃんと見ててくださいね暁くん……」
「あ、あんまり見たくない……!!」
……
まあ、そうして。
佐藤と(ついでに戸ヶ崎とも)食事を共にして、後片付けなんかもしている内に明也が気にしていた事や罪悪感などは消えて、いつも通りに戻っていた。
それを通じて、「この人達に悩みとか申し訳なさみたいなのを感じてもそういうのは表に出さない方がいいんだな」というのを明也はしかと心に刻んだ。
ちなみに、明也はこの後もらいゲロをした。




