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バイト先で魔装少女とかいうのをやらされてます。……あの、でも俺男なんですけど!?  作者: カイロ


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茅原町・観光スポット案内

 積雪と寒気が厳しさを増してきて、誰もが家から出るのが億劫になりつつある日。シュガーフェストに来客があった。

 それだけでも滅多にない事なのだが、その客はなんと以前も店を訪れた経験のある人物だったのだ。


「……」

「……」


 見せに現れたのは褐色肌でサングラスを着けた黒服の大男だ。それも2人。遠目に見ているだけだった明也だが、強い威圧感を感じさせる彼らに若干震えている。

 その2人と対峙しているのはライミィだ。自分の3倍はあろうかという身長差にも物怖じせずに鋭く睨みつけている。まあ、少女の眼光ではむしろ可愛さの方が上回って威嚇としての意味は成していないが。

 ともかく、この2人が現れたという事は、まだ来ている者がいるという事でいいのだろう。

 それを肯定するように彼らが別れ、シュガ―フェストのドアを開く。

 さらに4名が追加で来店する。ライミィと同じような髪色の夫婦に、その背後を守るようにして続く黒服2人。


「なにしに来たのよ、パパ、ママ」


 非常に強い敵意を込めた声色で夫婦に向かってそう言い、ライミィの視線がパパとママと呼んだ2人へ向く。

 そう、店に訪れたのはライミィの両親だ。以前、海を越えての家出を敢行した彼女を連れ戻しに来て以来、初の再訪である。

 また家に強制的に連れていかれるのでは、とライミィは警戒を露わにして身構えている。

 だが今にも逃げ出しそうな姿勢を取るライミィに、夫婦は慌てたように弁解をする。


「……は? 今日はそういうつもりじゃないの?」


 完全にではないが、警戒を緩めたライミィに夫婦が揃って頷きを返す。まあ、当たり前のように海を泳いでシュガーフェストに戻ってくるような少女相手では諦めるのも仕方ないだろう。


「で、何しにいらっしゃったって言ってる、ライミィ?」


 それから二言三言話すライミィの両親が何を言っているのか尋ねてみる。

 それは何とも首を傾げるような話だったらしく、明也の方を見たライミィも困惑を隠せない顔をしていた。


「……えっとな、観光にきたって言ってるんよ」

「観、光?」


 疑問を顔に浮かべたまま明也はライミィの両親を見る。

 言ったことが間違っていないようで、夫婦はにっこりと笑顔を見せて肯定のジェスチャーを返す。

 それからライミィの通訳越しに2人は詳しく説明をしてくれた。自分にとっても都合のいい内容らしく、明也に話すライミィはイキイキとしていた。


「もうワタシを連れ帰るのは諦めるって言ってるのな。あそこまでして駄目ならもう手足を切り落とすしかないって」

「ど、どんな拘束されてたのライミィ……? っていうか、実の娘の体にそんなことする気なのヤバくない?」

「や、そこまでする気はないって話なんよ。ワタシが飽きるまで好きにしていいのな。だから、せめてワタシのいるココがどんな町なのか知りたいって言ってるんよ」

「そうなんだ。それで観光……」


 夫婦の意図は理解した。自分の娘を抑える事ができないなら、娘の居る場所がどんな場所なのか、安全なのかくらいは見ておきたいという事だろう。

 それには明也も同意できる。自分の子供なんて明也にはいないが、それでも見知らぬ土地に身内が1人で住んでいると聞けば、そこが危険ではないかどうかは気になってもおかしくない。


「でもどこを見て回ればいいか、とかわからんらしいんよ。メイヤ、そういうの詳しい?」

「いやぁ、俺はちょっと」


 だが、続くライミィの言葉には首を横に振る。正直、明也は茅原町の事についてまったく詳しくない。

 明也が茅原町について知っている事と言えば、見渡す限りに広がる畑と、見渡す限りに広がる田んぼと、見渡す限りに広がる森林と、それらの隙間を埋めるようにぽつぽつと存在する民家くらいだ。

 見るべきものを問われても、それを除けば何も答えられないだろう。……一応シュガーフェストと商店街、それにこの前行った温泉は候補に挙げられるが、わざわざ見に行くほどのものでもない。


「店長に聞いた方が良さそうかな」


 早くに諦め、確証はないがたぶん自分より茅原町に詳しいであろう佐藤に頼る事にした。京、戸ヶ崎と共に調理場にいる彼女の元へ向かう。



「……茅原町の観光名所ですかー」


 事情を説明し、明也に問われた佐藤はうーん、と唸りだす。

 回答が出るまでの沈黙がやたらと明也は重く感じる。ライミィ、そしてライミィの両親に加えて4人の黒服が調理場に入ってきているせいだろう。


「…………温泉くらいですかねー。ほら、この前暁くんがライちゃん戸ヶ崎さんと一緒に行ったとこです」

「そこですか……」


 長めの沈黙の後に出た回答は明也と同じようなものだった。思わず明也はがっくりしてしまう。


「あの、店長。他には何か……ないですかね。もっとこう、この町にしかないような」

「ふふふ、この町にだけっていうならやっぱりシュガーフェストですね! よそでは食べられないようなドーナツがいっぱいですし!」

「そうですね、食べられないドーナツがいっぱいですね」

「ライちゃんのお父さんお母さんもどうです?」

「……!!」

「あっ違います違います! 毒とかじゃないので! そうとしか見えない気持ちはわかるんですが撃たないで! ノー危険物! ノー危険物!!」

「アハハ、それじゃ伝わらんと思うんよメイヤ」

「笑ってないで止めようよライミィ!?」


 皿の上に乗った名状しがたきものを持って近付こうとした佐藤に黒服達が一斉に懐へ手を伸ばしたが、すんでの所で誤解は解けた。

 ともかく、どうやら佐藤も明也と同じ程度にしか茅原町の事を知らないらしい。


「まあ咲もあまり町を出歩いたりはしないからな。興味がなければその程度だろう」

「そう、なんですかね。ちなみに先輩はどうなんです?」

「もう少し詳しいかな。1つくらいは見るべき個所を挙げられる」

「ほんとですか! じゃあ教えてください」


 名所に心当たりがあると言われ、明也は待ってましたとばかりに京の言葉の続きを待つ。


「近くに高校があるだろう?」

「あー、先輩の妹さんが通ってるんでしたっけ。分かります」


 以前、京と共にその高校の近くまで行った時の事を明也は思い出す。

 しかし思い出した限りではごく普通の校舎に、ごく普通の民家が立ち並ぶようなところだったはずだが、何か見るべきようなものがあっただろうか。


「で、どこが名所なんです?」

「そこだが」

「……はい?」

「私の妹が通っているのだ、名所と言って差し支えないだろう」

「……」


 平然とした顔で言う京に明也は何も言えない。冗談とかではなく本気でそう思っているようだ。


「……えー、そういう訳でライミィのお父さんお母さん、茅原町は特に見る物がないので近くの商店街でお菓子とか買って帰るのが一番いいかと思います」

「ちょっと先ぱぁい、なんで私には何も聞かないんですかぁ?」


 結論が出たようなのでライミィの両親へ告げようとした明也だったが、そこに戸ヶ崎が割り込んでくる。


「え、でも戸ヶ崎さん、そんなに茅原町に詳しくなさそうかなって思ったんだけど」

「そんなわけないじゃないですかぁ。ゆうくんとのデートにいろんな所へ行ってるからむしろ博識な方なんですよぉ?」

「そうなの?」


 戸ヶ崎の意外な言葉に、明也は驚きもあらわに聞き返してしまう。

 まあ言われてみれば納得のいく話ではある。恋人がいるのなら様々な場所へ出かけて想い出作りをするのは不思議でもなんでもない事だろう。

 ……それが人形相手というのは少し引っかからないでもないが、同時にゆうくん相手の戸ヶ崎はとても真摯であるのも明也は知っているし、詳しいと豪語するのであれば是非聞かせてもらいたい所だ。


「詳しいですよぉ。ばんばん聞いちゃってくださぁい」

「それなら、1番のオススメはどこか教えてよ」

「そうですねぇ、距離的に近場なのは……海ですねぇ。このお店からでも車なら日帰りで行って遊べる所があるんですよぉ」

「ああ、そこなら夏に咲と明也と一緒に行ったな」

「楽しかったよねー」

「楽しかったかなぁ……。いや、それはともかく! 思いっきり県外だよ戸ヶ崎さん。茅原町の名所が聞きたかったんだけど……」

「この町のですかぁ。ゆうくんと私の出会った場所はあんまり教えたくないしなぁ……」


 その戸ヶ崎の言葉に、以前明也が連れていかれた崖を思い出す。あれも戸ヶ崎以外には見た所で感慨も浮かばないだろうし、危険度の方が高いので教えずともいいだろう。

 ゆらゆらと体を揺らしながら戸ヶ崎はしばらく考えた。そして答えが出たのか揺れが止まり、口を開く。


「うーん、ありませんねぇ」


 が、結果は変わらず。茅原町に見るべきものは無かった。まあ初手から県外の海を近場として紹介した時点で察する事はできたかもしれない。

 残念と言えば残念だが、落胆よりも納得の方が明也は大きかった。


「……まあ、あんまりお店とかもないもんね、この辺」

「桜の木とかは結構あるんですけどねぇ。まだまだ雪の季節ですしお花見もできませんからねぇ」

「あーお花見いいですね! 近くに良い場所があるんですよー! 春になったらお店のみんなで行きましょう!」


 結局、ライミィの両親に茅原町の名所を案内することはできなかった。一応町ではあるが規模としてはほとんど村に近い町である。何人かで知恵を絞って名所を探さなくてはいけないような状態では、仮に名所があった所でわざわざ見てもらうほどの価値があるかは微妙だったろう。

 そういうわけで、春になったらお花見をすることになったのだった。

 ……ライミィの両親は商店街でお菓子を買って帰ったという。

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