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店長の過去?


 シュガーフェストでの採用から3日。明也は新しいドーナツの開発を進めていた。

 まあそうは言っても明也自身もお菓子作りのプロというわけでもなく、佐藤と京に作り方を教えてもらいながらなのだが。

 初心者なりにもそこそこ形にはなっており、分量を間違えることなく生地を完成させた。


「よし、とりあえずドーナツの生地はできたぞ」

「そしてそこにこの水銀っぽい液体を注いで混ぜると人を襲うドーナツができるんですよ」

「いや、そんなB級映画のモンスターみたいなの作ろうとしなくていいですから。……っていうかその口ぶりだと既に1回は作ってますね!?」

「心配はいらない。そのドーナツを討つためにドーナツを殺すドーナツをも作ったからな」

「……もう突っ込みませんけど、それだとこの町のドーナツが皆殺しにされません?」

「ああ、対策済みだとも。対ドーナツスレイヤー用アンドロイドドーナツを作り町へと放ってだな」

「い、いたちごっこだ……!」


 ……その新商品を作らなくてはいけない理由がそもそもこの2名にあるため脱線に次ぐ脱線を繰り返し、とても順調とは呼べない。

 明也もかなりの美人2人に挟まれての作業自体はとても楽しいと思っているし、邪険にはできそうもない。佐藤に対しては特にだ。

 度々V字に近い路線変更を要求してくる2人をしのぎながら、ようやく後は揚げるだけという所まで進む。


「暁くん、それなんにも入ってないですよ?」

「とりあえず最初はプレーンなドーナツからかなって。俺もお菓子作りに詳しいわけじゃないですから」


 型抜きをして真ん中に穴の開いた生地を油の中に優しく沈めていく。すぐに、ドーナツの香りが明也の鼻孔に入ってくる。

 どのくらいの時間で丁度良く火が通るかも既に聞いているのだが、佐藤は不安そうな表情だ。


「でも、普通すぎません? こういうのってどこのお店にもありそうだし」

「まあそうかもしれないんですけど、この店にはないじゃないですか」

「うん……でも私、普通なものって、ちょっと……」


 佐藤の言葉に、確かに平凡すぎるとは明也も思う。が、他の商品は逆に特異すぎるのだ。今明也が作ろうとしているものはシュガーフェスト唯一の食べられるドーナツと言っていいだろう。

 ……食べられるドーナツが1種類しかないというもの異常な話ではあるが。


「あ、もうすぐ揚がりそうですよ。とりあえず、みんなで試食してみましょうよ」


 気が付けばドーナツの表面は綺麗なキツネ色に変わっている。いまいち納得できていないという感じの佐藤だが、明也の言葉にとりあえず頷きを返した。

 油を切ったドーナツを皿に乗せ、いつもの休憩用テーブルへと持って行く。

 各々ドーナツを手に取り、一口かじってみる。明也の感想としては、まあ思った通りの味というところか。普通の材料で作った普通のドーナツであり普通に美味しく普通に食べられる。

 特別感動するような味でもないので残り2名の反応も濃くはない。京は特にリアクションもせず黙々と完食したので、不評ではない様子だ。佐藤も途中まではあまり変わらない様子だった。が、食べ終わると悲しそうにうなだれた。


「……うう、普通……」

「そ、そんな嘆くほどに!?」

「これ……お店に出さないとダメですか……?」

「ふ……普通のドーナツなのに!?」


 しばらく咀嚼した末、非常に渋そうな顔と呻くような声で言った佐藤に思わず明也もうろたえる。

 確かに面白い味ではなかったとは思うがこれほどだろうか。流石にここまで普通である事を拒絶するのには何か理由があるのではないかと明也は疑い始めた。


「まあ、咲の反応も無理はない。悪気があるわけではないんだ、許してやってくれ」

「……過去に、何かあったんですか?」


 訳知り顔で言う京に、明也は食い付いた。やはり昔に何か起きたようだ。

 続きを促すと佐藤に確認もせずに頷いて返される。プライベートな話の予感がするのでそれはどうかと思わないでもない明也だが、そんな事を聞く必要もないくらい昔からの古く深い付き合いなのだろうかと考えると、ちょっと羨ましい。


「少し長くなるかもしれない。まあ、私もたまにはこういう話がしたくてな、聞いてくれ」


 ひとつ咳払いをすると、京は語り始める。


「ここで働く前はかなりの……まあ、いわゆる富豪だったんだ。欲しいものは何でも手に入ったし、やりたい事も何でもできた。家の長女だったから親の後を継ぐはずで、本来ならこうして別の仕事をする必要もなかったんだ」


 語られる内容に、佐藤はうんうん頷いている。どうやら、元はお金持ちの家の娘だったらしい。

 意外だった。明也の目には佐藤はそんな家の出には見えなかったからだ。どちらかというと割と普通の家に生まれたように見えるが、人はやはり見かけにはよらないのだろう。

 そんな彼女が今こうして単身ドーナツ屋を営んでいるという事は(2階に妹か弟? もいるが)、家に何かがあったのだろう。多分、かなり重い事情の予感がする。

 これ以上聞くのはどうなのだろう、と流石に不安になってきたが、そんな明也の心情が顔に出てしまっていたのか佐藤が笑いながら言う。


「大丈夫ですよ暁くん、これそんなに重い話じゃないですから」

「あ、そう、なんですか……?」


 ぎこちなく返事した明也に佐藤は柔らかく微笑んで見せる。かわいい。

 まあ語られている本人がそう言っているのならいいのだろう。明也は続きを聞く事にした。


「それが何故今こうしているかと言うと……どうしても叶えたい夢があったわけさ」

「なるほど。その夢って言うのがドーナツ屋さんだったってわけですね」

「いや……? 違うが?」

「あ、あれ?」


 話の着地点が見えてきたかと思った明也だったが、違うらしい。困惑したように京に言われ、似たような戸惑いを見せた明也はどこに話が落ち着くのかを見失う。

 一瞬謎の間が生まれてしまったが、京はすぐに気を取り直して話し始めた。


「で、その夢というのはだな、自分で番組を作りたかった、というものだ」

「……番組、ですか?」


 つまり、佐藤が司会とか主人公とか、そういった主役の立ち位置のテレビ番組を作りたかったという事なのだろうか。しかしそうだったとしてもやはりなぜそれがドーナツ屋になるのかは不明だ。


「ああ。いわゆる特撮だな。家の金に惜しげもなく物を言わせ全4クール、好きなように作らせてもらったよ。……いや、思い出すだけでも胸が躍るような気分だ」

「うんう……ん? あの、ちょっと」

「実に楽しかった。楽しかったんだが勝手に父の金を使ったせいで酷く怒らせてしまってな、そのまま単身家を追い出されてしまったよ」

「いや! 待って! 待って先輩! どういうことですか!!」


 待ったをかける明也に京は不思議そうな顔を向けた。


「どう、とは?」

「あの、これって店長の話なんじゃないんですか?」

「……? 今のは私の過去バナだが」

「なんで!!?」

「なんでって、明也の方から私の過去に何があったか聞いてきたんじゃないか」

「あの流れでなんで先輩の過去を知りたいと思ってるって考えたんですか!? どう考えても違うでしょ!!」


 とんでもない無駄話を聞かされていたと知り、明也は叫ぶようにツッコミを入れた。まあ、確かに佐藤が言うようにそんな重い話でもなかったのだが、そもそも佐藤自身の話ですらなかった。

 一通り言いたい事を言い終えると息を切らしながら、もう一つ気になる事を思い出す。


「……それじゃあ、2階にいる博士って誰なんです? 1人で追い出されたって事は先輩の妹弟じゃないんでしょうけど、やっぱり店長の家族なんですか?」

「いえいえ、私と博士に血の繋がりはないですよ?」

「えっ……!? まさか、彼氏……とか、だったり、します?」


 縁者ではないと言われ、ドキリとする。もしやと思い恐る恐る問うてみると、ふるふると頭を振って否定され、明也はホッとした。


「まさかまさか。博士も女の子ですし、何よりもう好きな人がいるみたいですからね。博士はただお店の近くに倒れてたのを拾っただけですよ」

「なんだぁ、それなら安心……いや、それはそれで安心していいのか……?」


 人の心の闇から生まれる怪人が出現したり、それを一撃で消滅させる超兵器を開発する博士が行き倒れていたり、茅原町の未来が不安になる。


「ていうか、夏条先輩ってお金持ちだったんですね」

「暁くん知らなかったんですか? 茅原町の夏条家って言えば結構有名なお家のはずなんですけど」

「そうなんですか……?」


 明也はまるで知らなかった。佐藤の反応的にも知ってて当然ぐらいの知名度らしいが、まったく記憶にない。

 そして京が手掛けたという特撮作品もまた初めて知った。明也も子供の頃はそういうものをよく見ていた方だったと思うので、ちょっと気になる。


「まあ苗字は夏条だが、半ば絶縁同然に追い出されて今は関係のないものだよ。……ちなみに最近の特撮界隈では私の名はかなり知られているぞ」

「へえ、先輩が作ったやつの評判が良かったんですか?」

「ああ。私の趣味を詰めに詰めて詰め込んだ結果、『実体のある無』『味のなくなったガムより無味無臭』『全話捨て回』『2度と特撮に関わるな』、ほか多数の呼び名があるが放送終了から1年近くが経とうとしている今も各所で作品を語るスレッドが建ち、そこで私の名前が上がらない日は無いな」

「ア……アンタ何作ったんだ!!??」


 何があったのかは分からないが相当に評判は悪かったらしい。そこまで言われるほどの出来とはどんなものなのか、明也はむしろ興味が湧いてきた。


「……詳しい話はとりあえず置いておきますけど、俺が知りたかったのは佐藤店長の話ですよ」

「え、私の昔話ですか?」


 ともかく明也は話を戻す。結局なぜ佐藤は普通のものが嫌なのかはわからないままであるし、直接聞くより他ないだろう。

 ちょっと困ったような表情を見せる佐藤は小さく笑い、口を開いた。


「あはは、京ちゃんのに比べるとあんまり面白くないと思うけど……いいの?」

「それはもちろんですよ。そもそも面白さを求めて聞いてるわけじゃないですし」

「そっか。じゃあ……」

「いや、待て」


 話し始めようとした矢先、京が割り込んできて止めてしまった。その行動に佐藤も明也も驚いた。


「先輩? なんで」

「マリスドベルだ。話はまたにしよう」


 訳を聞こうとした明也の前に京が制服の内側から取り出したスマホの画面が突きつけられる。そこには地図のアプリが開かれているらしく、茅原町一帯の地図が描かれていた。

 その中のシュガーフェストから少し離れた位置に、瘴気のようなものを放つ黒いひし形のマークが存在する。


「えっと、これがマリスドベル?」

「その通り。そしてこれも博士が作ったものだ。マリスドベルの出現を検知すると自動的に知らせてくれる。出撃の準備をするぞ明也!」

「は、はい!」


 京と共に椅子から立ち上がった明也は更衣室へ戻り魔装へと着替えに向かう。それに続いて佐藤も席を立つ。


「じゃあ、今日こそ私も」

「いや、咲は店の方を頼む」


 そう言って京に押しとどめられ、佐藤は驚いた表情を見せる。明也も、耳にした言葉に思わず立ち止まって振り返る。


「え、でも京ちゃん……」

「店に誰もいないのはもしもの時に困るだろう? それに明也も新人という割には強い。心配はいらない。……そうだろう、明也!」

「えっ……と、まあ、そですね。Dブレードさえ当たれば倒せますし、大丈夫だと思います」

「そう言ってくれて助かるよ。今回は私も共に戦うから万が一、なんて事も無いだろうさ。店は任せたぞ、咲」

「う、うん……京ちゃんがそう言うなら」


 押し切られるように佐藤は京の言葉に従った。明也には再び佐藤の魔装少女姿を見ることができず不満がないでもないが、特に何も言わない。

 なんというか、2人のやりとりには何か秘密のようなものがある気がしたからだ。

 マリスドベルの出たタイミングまでは偶然ではないとしても、やはり佐藤の過去に何かあったと見て間違いないだろう。仮にマリスドベルが出なかったとしても、どうにかして話は断ち切られていたように思う。

 人の過去なんて話せるものの方が少ないのは当然だ。佐藤本人はそう思っていないのかもしれないが、京の目線からは聞かせるべきものではないと判断したのかもしれない。

 となると結局は普通が何故嫌なのかはわからないままとなってしまうが、しばらくこの話題は避けた方がいいのかもしれない。そう考えて明也は一度忘れておくことにした。

 更衣室に入った明也は、まずはマリスドベルを倒す事を念頭に置く。


「……それで、なんで京さんも一緒に入ってくるんです?」

「え、だって一緒に着替えた方が効率が良いだろう」


 返事も待たずに服のボタンを外し始めた京を見て、明也は一目散に更衣室から出て、彼女が着替え終わるのを待った。




 マリスドベルの暴れていた現場に2人はあっという間に到着した。魔装は身を守るためだけではなく身体能力の向上させる役割もあったのだ。

 明也とは色違いの青い魔装に身を包んだ京は先輩と言うだけあってマリスドベルを手際よく撃破してみせた。電柱の破壊に夢中になっていたようなので隙だらけの相手だった。

 Dブレードさえ当たれば一撃というのもあって、今回明也の出番はなかった。怪人が消滅したのを見て京はふーっと息を大きく吐いて明也へ向く。


「どうだった、私の戦いぶりは」

「え? まあ……かっこよかった、んじゃないでしょうか」

「フッ、そうか」


 質問の意図がわからなかったので困惑ぎみに明也がそういうと、京は目を閉じて口角を上げる。

 まあ、恐らく今の質問に意味はないのだろう。佐藤を残して2人でここへ来たのも含め、佐藤の過去をこれ以上詮索させないよう気を逸らそうとしているに違いない。

 少なくとも自分より付き合いの長い人がそうしているのだから、明也としてもここまで隠すなら聞くつもりもない。京の思惑に乗る事にした。


「それはともかく、すまなかったな。話の途中で連れてきてしまって」

「え? え、いや……まあ……」


 思っていた矢先、まさかの京から触れてきた。このままうやむやにするつもりなのかと思っていたが、違うのだろうか。


「……続きが気にならないって言うと嘘になりますけど、でも先輩としてはあんまり聞かせたくないんでしょう?」

「? なんでそう思うんだ?」

「え、だって佐藤店長の過去話を聞かせたくないからここに俺も連れてきたんですよね?」

「いや……ただ私が明也に先輩の実力を見せたかったから一緒に来てもらっただけだが?」

「えええええ関係なかったの!?」


 佐藤との話を中断させたのに他意はないらしく、平然とした顔でそう言われて明也は驚愕を隠さずにはいられなかった。


「じゃ、じゃあホントにそれ以外には何の理由もなかったんですか!?」

「そうだが……そんなに驚く事か?」

「あの流れだったら絶対何か別の理由があるって思うでしょうよ……」

「そうなのか……。私としては後輩に力の差を示したかっただけなのだが」


 京は先輩風を吹かしたいのだろうか。そうは言ってもDブレードなら傷の深さに関係なく一撃必殺なので目に見えて差は実感できないのだが。


「まあ話の邪魔をしてしまったのはすまないとも思う。戻ったら私の方から咲に話の続きを頼んでみようか?」

「いえ……なんか、今日はもういいかなって……」


 京の言動に振り回され、明也は精神的に疲れてしまった。佐藤の過去についてはまた今度、折を見て聞くことにする。

 とりあえず新しく採用してもらえそうな新メニューを考えつつ明也はシュガーフェストへと戻るのだった。

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