第32話 魔王の激しい怒り
太陽の光が反射して光る青い海。
そこで私はあの子と出会った。
そして、あの子は私に言った。
『君を僕の──────』
それは、小さなころに交わした約束。
魔界の空は黒い雲に包まれた。
赤黒い稲妻を纏って。
それは魔王の怒りの証。
人魚一族の王と女王は震えながら、陸上で魔王に平伏していた。
「我が息子がとんでもない真似をしでかして、本当に申し訳ございません!!」
「・・・・・・・・・・」
魔王は無言だ。
だがその眼は、視線を交わしただけで相手の心臓を射抜くかのような冷たい眼だ。
アスモデウスとベルゼブブは背中の寒気が止まらなかった。
ここまで怒りに満ちた魔王を見るのは初めてだった。
「ただいま、海の魔獣達の力も借りて海の中をくまなく探しております・・。本当にリオンがとんでもない事を・・」
女王は地面に額をつけて魔王に頭を下げた。
小さな第一王女のリンリは他の人魚に抱かれて、涙目でその様子を見ていた。
幼いながらも実の兄が重大な事をしでかしたという事は、話の流れで理解しているようだ。
「・・・・・王よ・・・」
冷たい、低い魔王の声。
がたがたと、人魚一族の王は震えていた。
「一刻も早く見つけ出せ・・。もしタマの身に何かあれば・・・貴様ら人魚一族は、我が手で根絶やしにしてくれる・・良いな?」
魔王の右手がバチバチっと、赤黒い静電気を纏った。
魔王は本気だ。
その気になれば、一瞬で人魚一族を滅ぼす事だって可能である。
王と女王は青ざめて再び深く頭を下げ、必ず見つけ出しますと叫んだ。
「これは・・やばい事になるかもしれない・・」
「先輩・・」
サトミが不安げにアイアンを見上げる。
「もし見つかったとしても、タマ様に何かあれば・・魔王様の怒りは頂点に達して・・この魔界を滅ぼすかもしれない・・」
「そんな・・・」
「それだけ魔王様の力は強大だ・・。タマ様が無事であるのを祈るしかない・・」
「タマ様・・・」
アイアンの考えは、七つの大罪であるアスモデウスとベルゼブブも同じだった。
二人も魔王の強い怒りに、魔界も危ないと感じていた。
アスモデウスが魔王に膝まづく。
「魔王様、わたくしとベルゼブブもタマ様救出に全力を尽くしますわぁ」
「他の大罪達の力も借りて、魔界中を捜索します」
「・・・・・・・・・任せた」
こうしてタマと、タマをさらった人魚一族の王子リオンの捜索が開始された。
「・・・・・・・・・・やっと、やっと会えた・・・」
深い深い海の底。
ある洞窟の奥。
タマは無事だった。
大きな大きな貝の中で、眠っている。
リオンは海へ引きずり込む際に紅玉サンゴでできたブレスレットをタマに付けたのだ。
だから無事であった。
リオンは眠るタマを見つめる。
「今こそ、あの時の約束を果たそう・・・タマ」
リオンはタマの頬を撫でる。
その中指には、ピンクがかった真珠がはめ込まれた指輪が光っていた。
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