第14話 ドラゴンレース
「さあいよいよ始まりますドラゴンレース!今年の優勝はどのドラゴンに決まるでしょうか!?」
マイクを持った悪魔がレースの開幕を宣言する。
何かテレビで見たカーレースみたいな席にはたくさんの悪魔達がいる。
物凄い皆盛り上がってる。
そして、私と魔王様、サタンさんは特別席という豪華に飾られた席に座っている。
魔王様の膝の上に私は座らされてるけどね!
もう目立ってる・・!
「今年は魔王様とタマ様も直々にお越しくださっております!皆さま盛大な拍手を!!」
巨大なテレビ画面に私達が映し出された・・。
ぎゃー!止めてくれえええ!!!!
恥ずい恥ずすぎる!!!
魔王様は優雅に手を振って、大きな拍手に包まれる。
うう・・恥ずい・・・。
「きゅう?」
腕に抱っこしたままのドラゴンの赤ちゃんが顔を覗き込んでくる。
ああ、君だけが癒しだよ・・。
スタート地点には色んな色の大きなドラゴン達がいた。
ゼッケンを付けられたドラゴンの体には悪魔が乗っている。
優勝したドラゴンは優秀な名ドラゴンとして、七つの大罪さん達の誰かに乗り物として贈られるとか。
それはとってもとっても名誉な事で特に優秀な成績を残したドラゴンは、魔王様の乗り物になるらしい。
ドラゴンを上手く乗りこなした悪魔も莫大な賞金が貰えるというのだから、皆真剣な顔だ。
「タマ様、あの10番のゼッケンを付けたドラゴンがその子の母親ですよ」
「え、どこどこ?」
あっいた!
うわあ、この子にそっくりな白いドラゴンだぁ。
あ、眼も似てる。
「お母さんそっくりだねぇ」
「きゅう~」
赤ちゃんドラゴンはお母さんの姿を見つけて、嬉しそうな声を上げた。
「あ、サトミさんもいる!」
サトミさんがお母さんドラゴンの体を撫でてる。
「サトミはあのドラゴンのケアも担当しているんです。しかしあのドラゴン・・今年初めてのドラゴンレースで緊張しているようですね・・」
初めてなのか。
そりゃあ緊張するよね。
私も発表会とか国語の時間に朗読とか物凄い緊張したもん。
これはそんなレベルとは雲泥の差だろうけど。
サトミさんはお母さんドラゴンを落ち着かせようとしてるのか。
「ドラゴン達はどんなコースを飛ぶんですか?」
「この大陸をぐるっと一周するのだが、途中色んなトラップがあるぞ」
「トラップ?」
「毎回変わるので確かとは言えないが、去年は火を纏った岩雪崩のトラップがあったな。あれは実に盛り上がった」
それ超危険トラップじゃないですか!!?
だ、大丈夫かなお母さんドラゴン・・・!!
「心配はいらん。魔界のドラゴンは例え溶岩に突っ込もうとも酸の泉に飛び込もうとも死にはしない」
すげーな魔界のドラゴン。
最強種族だ。
「皆さまお待たせいたしました!まもなくスタートです!」
ドラゴン達がスタート地点につく。
観客も自然に静かになった。
「ドラゴンレース・・・・GO!!!!」
怪しいラッパ音みたいなのが響いたと同時に、ドラゴン達は一斉に飛び立った。
観客も同時に立ち上がって、推しのドラゴンがいるのかゼッケンの番号を叫んで応援し始めた。
ドラゴン達は皆名前がない。
飼い主が決まったときに、その飼い主が付ける事になってるからだ。
ドラゴンレースに出ているドラゴン達も、皆名前がない。
レースを見て気に入ったドラゴンがいれば、悪魔達は牧場に買取りを申し出るらしい。
大型のテレビに中継が流された。
こんだけのドラゴンがもの凄いスピードで飛んでいる姿はまさに圧巻・・。
マイクを持った悪魔がエコーがかかるほど実況をしている。
「うわ、あの黒いドラゴン早い・・」
ぶっちぎり一位で飛び立つ一匹の黒いドラゴン。
とんでもない速さだ。
あっという間に、他のドラゴン達と差を付けた。
お母さんドラゴンはどこにいるんだ?
「・・あ、かなり後ろだ・・」
「きゅう・・・」
お母さんドラゴンも早いけど、他のドラゴン達と比べると遅れてる。
大丈夫だろうか?
赤ちゃんドラゴンも心配そうな声を出してる。
中継に映し出されるトラップは、人間の私から見たらかなりエグいものだった。
悪魔達が魔法で繰り出すトラップなのだが、何だあれ!?
ギロチンみたいな刃が次々と落ちてきたり、雷の雨だったり空中に岩の壁が出てきて飛んでるドラゴンをサンドしようとしたり・・。
その度に観客も実況も大盛り上がりだけど、私は気が気でない。
でもドラゴン達は巧みにトラップを避けてる。
お母さんドラゴンも頑張っていた。
でも流石に後半になってくると、ドラゴン達に疲れが見え始めた。
お母さんドラゴンも必死に羽根を動かしてるけど、中々前を飛ぶドラゴンと差が縮まらない。
一位はあの黒いドラゴンのままだ。
黒いドラゴンだけは全くスピードが変わらない。
凄いな黒いドラゴン。
でも私はお母さんドラゴン推しだ!
「頑張れ・・お母さんドラゴン・・!」
「きゅうきゅう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
魔王様に見つめられてる事に、私は気づかなかった。
とにかくお母さんドラゴンに集中していた。
ゴールが近い。
お母さんドラゴンはかなり辛そうだ。
私だってフルマラソンで死にかけたけど、あれよりも辛そうだ。
ああ!体がよろけ始めた・・!
「おおっと10番のドラゴン、ここでリタイアかー!?」
実況の声に、思わず私は立ち上がった。
「っがんばれーーーー!!お母さんドラゴーーーーーーーン!!!」
「きゅうーーーーーーーーーーーーー!!!!」
私の声と、赤ちゃんドラゴンの鳴き声が重なった。
一瞬観客がしん、となった。
「タマ・・・」
魔王様もサタンさんも目を丸くしてた。
「・・・・あ」
観客中に注目されて、私は自分がした事に今更ながら恥ずかしくなった。
だけど。
「・・・ん?こ、これは驚きです!皆さま見てください!」
皆テレビ画面を見る。
私も見て驚いた。
お母さんドラゴンの目が変わった。
羽根を高速で動かし、スピードがぐんと上がり始めてる。
「10番のドラゴンが次々と他のドラゴンを追い抜いていきます!」
ほんとだ!
どんどん追い抜いてる!
「きゅうう!!」
赤ちゃんドラゴンも嬉しそうに鳴いた。
「ついに2位のドラゴンを追い抜いたぁああああ!」
観客が一層盛り上がる。
あの黒いドラゴンとお母さんドラゴンの差が縮まっていく。
段々ドラゴン達の姿が確認できるまで近づいてきた。
ゴールまであともう少し・・!
「果たして優勝はどちらが手にするでしょうかああああ!!!!」
頑張ってお母さんドラゴン!!
ゴールまであと数十メートル。
黒いドラゴンとお母さんドラゴンの差がまた縮まる。
ついに並んだ!!!
全員が息を呑む。
ゴールの瞬間を見逃さないために。
「ゴーーーーーーーーーーーール!!!」
ついに勝負が決まった。
優勝したのは・・・。
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「惜しかったねお母さんドラゴン」
「きゅう・・」
ほんの少しの差で、黒いドラゴンが優勝した。
でもお母さんドラゴンも本当に頑張ったよ。
特に最後!すごかった!!
優勝したドラゴンと乗っていた悪魔の表彰式が行われた。
ここは何か人間界っぽいな。
サタンさんがお母さんドラゴンとの面会を許してくれたので、私と魔王様はお母さんドラゴンの元へ。
近くで見るとおっきいなああ!
サトミさんがお母さんドラゴンの体を拭いていた。
「サトミさん!」
「タマ様、魔王様も来てくださったんですか?」
「うむ、素晴らしいレースだったぞ」
「ありがとうございます」
お母さんドラゴンに乗っていた悪魔さんとサトミさんもどこか嬉しそうだった。
初めてのレースで2位なら嬉しいだろうな。
「お母さんすごい頑張ったよね」
「きゅう!」
赤ちゃんドラゴンがぱたぱたと小さな羽根を動かしてお母さんドラゴンの元へ。
お母さんドラゴンは優しい目で赤ちゃんドラゴンに頬を寄せた。
「あの、触っても大丈夫ですか?」
「ええ、勿論」
サトミさんの許可を得て、私はお母さんドラゴンに近づく。
お母さんドラゴンはじ、と私を見た。
私はどきどきしながら、お母さんドラゴンに手を伸ばす。
・・・・・なでなで。
お母さんドラゴンは目を閉じて、顔を撫でさせてくれた。
うわあ、何か感動!
「お疲れ様・・すごかったよレース」
お母さんドラゴンは低く鳴いた。
それが私にはお礼の声に聞こえた。
その夜はサタンさんのお城に泊まった。
食事中にまさか骸骨メイドさんの踊りを見せられるとは思わなかったけど、結構楽しかった。
いやー、ものすごかったわ。
色んな意味で。
香水入りのお風呂なんてのも初めて入った。
風呂上りに、骸骨メイドさんによるエステがあるとは思ってもみなかったけどね!
びびったけど、マッサージ気持ちよかった・・・。
お陰でつるつるすべすべになった肌を、魔王様にこれでもかというくらい揉まれたけどね!
「良い香りだ・・お前によく合っている」
首筋に顔をうずめられたときは流石にびびった。
魔王様のあまぁいボイスは、心臓に悪い。
あ、あとサタンさんにささやかなプレゼントって言われて花の種を貰った。
種と言っても、まるで緑色の水晶みたいな種だった。
「これはアミュレットフラワーという花の種です。この花が咲いた時きっとタマ様に良い事が起こります」
魔王様が言うにはかなり貴重な種だとか。
そんな大事な種、ほんとうに貰って大丈夫だろうか?
第一、育てられるだろうか?
「タマ様なら絶対、花を咲かせられます」
イケメンの笑顔で、私は結局種を受け取ってしまった。
ま、まあ花を育てようとは思ってたから、一緒に育ててみようかな?
・・・・・枯らさないように絶対気を付けよう。
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「タマ様って結構大胆な行動されるんだな・・。しかも初参加のドラゴンがあんな成績を出すなんて驚きだぜ。
タマ様ってただの人間じゃないのかもな・・。でも赤ん坊のドラゴンに見せた笑った顔は中々可愛らしかった。魔王様が羨ましいぜ。
俺もあんなペット欲しいなぁ~。そうだ、今日の事ルシファーに手紙で自慢してやろ~。あいつ悔しがるぜぷぷぷ!」
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