第13話 ドラゴン牧場で初めて人間に会った
「サタン様!タマ様!ようこそお越しくださいました!!このサタン、誠心誠意を込めて歓迎します!!」
声でか!
体育会系か!
サタンさんのお城は何かアラビアっぽかった。
アラジンと魔法のランプに出てきそうな。
二本足で立つ狼やサルもいて、アラビアっぽい格好だ。
やっぱり骸骨メイドさんもいた。
何か踊り子みたいな格好だったけど。
わあ露出激しい!
骨の体が丸見えーっ
きらびやかなな踊り子衣装をまとった骸骨・・・シュールすぎる・・・。
わ!な、何か角の生えたおっきいのもいる・・。
「あの方はどちらさまですか・・?」
「ああ、あれはオーガと言う魔物だ」
オーガ!
何か異世界小説でよく出るあれ?
うわあ、魔界にもいるんだ・・!
「では早速ドラゴン牧場へご案内しましょう!」
ドラゴン牧場。
魔界ではドラゴンは移動手段や力仕事を中心に必要不可欠な魔獣らしい。
「うわああああ!」
ドラゴン!
いっぱいドラゴンがいるうう!!
見た目はまるで北海道の牧場!
でも牛じゃなくてドラゴン!
怖いイメージもあったけど、それを上回る感動!
ん?あれはもしかして・・?
「魔王様っあれってユニコーンですか?!」
角の生えた白い馬が何頭かいた!
「よく分かったなタマ」
「あれはドラゴン達の群れを誘導したり、牧場から逃げ出さぬよう見張り役としているんです」
つまり牧羊犬みたいなものか。
でも本当にユニコーンっていたんだぁ!
あ、色んな悪魔さん達も作業着みたいなの着て働いてる。
ん?あの人・・・もしかして・・・?
「あの、あの人は・・・?」
私が指差した方角。
悪魔さん達と一緒に大きなドラゴンの体を拭いている人。
羽根も尻尾もない、人。
「ああ、あれはこの牧場で働いてる奴隷の人間です」
「人間・・・やっぱり!」
人間。
私以外の人間。
実際に奴隷として働いている人間、初めてだ・・。
「話をしてみたいかタマ?」
魔王様の言葉に、思わず頷く。
魔王様はサタンさんに命令し、サタンさんはその人を呼んでくれた。
「サトミ、こちらへ」
「あ、はい!」
サトミさんというのか。
走ってこちらに来る女性。
サトミさんは私より年上、20代くらいかな?
「サトミ。魔王様とタマ様だ。ご挨拶を」
「はっはい!端山智美と申しますっ魔王様タマ様!」
「タマ様がお前と話をしてみたいと申している。今は大丈夫か?」
「大丈夫です。先輩方が休憩に入っても良いと言ってくれたので」
あれ?
奴隷と言う割には、何か雰囲気違う。
「ではタマ。私もサタンと少し話があるので席を外す。何かあったら呼びなさい」
魔王様は私の頭を撫でて、ちょっと離れた場所にサタンさんと移動した。
「えっと・・サトミ、さんでしたよね。私、岬珠世っていいます」
「はじめまして。珠世様・・、可愛い名前ですね」
「あ、あの敬語は良いですよ!」
「でも魔王様のペット様を呼び捨てにしたら、サタン様から怒られますから」
明らかに年上の人なのに、何か敬語使われると変な感じだぁ・・。
「あの、サトミさんは人間、ですよね」
「ええ。私は今から20年くらい前にここに召喚されました」
「20年前!?」
目の前のサトミさんはどう見ても25~6だ。
驚いた私を見て、サトミさんはくすくす笑う。
「驚くのも当然ですね。どうやら魔界に来たら人間も悪魔と同様に年を取らなくなるようなんですよ」
「そ、そうなんだ・・」
知らなかった・・。
衝撃事実だわ・・。
「まあ25のままで年を取らないってのも悪くない気分ですけどねっ」
あ、やっぱ25か。
それにしてもサトミさんって明るい人だなぁ。
「サトミさんって・・その、本当に、奴隷・・なんですか?」
「奴隷ですよ。サタン様に買われて、このドラゴン牧場でずっと働いてます」
「でも何か、明るいっていうかその・・」
「まあ確かに奴隷っぽくないかもしれませんね。私は運よく判定Aだったから」
「判定A?」
そう言えば、最初にここに召喚されたときに、悪魔達が判定とか言ってたな・・。
サトミさんは色々詳しく教えてくれた。
20年前、サトミさんはいわゆるブラック会社に勤めていた。
サービス残業当たり前、意地悪なお局、上司や先輩によるパワハラとセクハラ。
サトミさんは鬱寸前だったという。
そんな中、参加した社員旅行中に社員全員、この魔界に召喚された。
サトミさん達は奴隷市場へと連れていかれ、色々と調べられ判定を貰い奴隷として売られ、サタンさんにサトミさんは買われたという。
判定とは人間の魂の穢れを見て、AからDまでランク付けをするらしい。
Aが最高ランク
Bが中ランク
Cが低ランク
そしてDが一番最低ランク。
Aの判定は奴隷としては最高らしく、働き先はかなり好待遇されるとサトミさんは言った。
B判定だと雑用中心。
Cは力仕事中心の強制労働系で人権もほぼないとか。
でもまだCはマシらしく・・。
一番最低なDは、もう人権はゼロ。
詳しい事はサトミさんもよく知らないらしく、ただ噂では家畜以下の扱いをされ死んだ方がマシだとか・・・。
それを聞いて背中が凄い寒くなった。
判定ってそういう意味だったのか・・。
「サタン様は七つの大罪の一人という凄いお方。そんな方に買われて、今は私は誇りにすら思ってます」
「ここの仕事は、楽しいですか?」
「まあ、きつい時もありますよ。・・・・・・でも」
サトミさんが拳をぎゅうっと握った。
「朝昼晩食事つきの一人部屋な寮生活!完全週休二日!お昼休憩だけでなくお茶タイムもあって、残業手当もちゃんと出て高額給料!!そして厳しいけれども優しくて丁寧に指導してくれる先輩達と従業員の話をちゃんと聞いてくれる上司!あの会社と比べたらもう天国よここは!!魔界だけど!!!」
「サ、サトミ、さん・・」
大人の世界って、大変なんだなぁ・・。
でも奴隷の仕事ってそんな風に決まるんだ。
ちなみにサトミさんによく意地悪をしていたお局さんや先輩方は判定C。
一番パワハラとセクハラが酷かった上司は判定Dだったらしい。
「今ではあの人達がどうなったのかも知りません」
「そうですか・・サトミさん、帰りたいって思いませんでしたか?」
「勿論、最初の頃は・・。でももう向こうで私の事を覚えてる人はいませんし、20年も経ちましたから吹っ切れました」
サトミさんの顔は何だか輝いているように見えた。
この人は、魔界でも上手くやっている人なんだ。
「あの、これからも時々会いに来てもいいですか?あっお仕事の邪魔はしないので」
「ええ、勿論です。私も久しぶりに同じ人間に会えて嬉しかったですし」
サトミさんはいわゆる魔界の先輩だな、うん。
何か心強くなった気分。
「あ、サトミさん。あそこにある建物は何ですか?」
離れた場所にある黒い建物。
あそこだけ何か異質だ。
「ああ、あそこは繁殖期で気が荒くなっているドラゴン達を隔離している建物です。他のドラゴン達や従業員が怪我をしないように、あそこに入れているんです」
「へぇ・・・・」
「サタン様と上司、決まった従業員しか入れないんですよ。私も入った事ないです」
隔離部屋か。
気が荒くなったドラゴン・・・うーん想像するだけで怖い。
「タマ、お待ちかねのを連れてきたぞ」
あ、魔王様。
お待ちかねの?
「三日前にたまごから孵化したばかりの、ドラゴンの赤ん坊です」
サタンさんが腕に抱いていたのは、小さな白いドラゴンだった。
「きゅう?」
か、か、かわいいいいいい!!!!!
「うわうわううわぁ・・・ちっちゃぁい・・可愛い・・・」
目が凄いつぶらだぁ・・!
鳴き声も可愛すぎるうう・・・。
「抱いてみますか?」
「え?良いんですか!?」
「勿論」
サトミさんが抱き方を教えてくれた。
小さな小さなドラゴン。
緊張する・・。
腕に抱えると、とってもあったかかった。
「きゅ、きゅう」
うわああ、ドラゴンの赤ちゃんってこんなに可愛いんだぁ・・!
「タマ、どうだ?」
「か、可愛くてたまらないです・・・!」
やばい、これが母性というやつだろうか?
「タマ様、実はこの後ビッグイベントがあるんですよ」
「ビッグイベント?」
「この大陸で一番の祭りごとだ」
何だろう?
「是非見ていってください。ドラゴンレースを」
閲覧ありがとうございます!
評価やブクマしていただけると、大変励みになります!




