今を生きたい。
今日は少し肌寒く、月の明かりがぼんやりと部屋を照らしていた。
「あれ?私、え?」
そこは、知らない場所。
とある病室の中、私は目を覚ました。
「確か、、死んだんじゃなかったっけ、、ここはどこ?」
一人で病室を出ると、なんだか足があんまりうまく動かせなかった。
鏡を見た私は驚いた。
やせ細った私、頭に包帯でぐるぐる巻きになった自分が写っていた。
「なによこれ。生きてる、、?」
私は病院のナースステーションへ行き、説明を聞こうと思った。
「あの~、すみません。私ってここはどこでしょうか?」
「え?は、浜辺さん?!」
看護師さんは慌てた様子で先生を呼びに行ってしまった。
「なーに、お化けが出たみたいな表情してさ。」
生きているのか死んでいるのかもわからない。そんな感覚だった。
「き、君は浜辺鳴海さんだよね?」
先生までお化けを見るように言ってきた。
「はい、そーですけど、何か問題でもありますか?」
「おいそこの君、すぐにお母さんに連絡して!浜辺さん、こんなこと言うなんて信じてもらえないかもしれないんだけど、、」
先生は息を飲むようにこう言った。
「君はね、半年間ずっと、意識不明の状態だったんだよ。それでいきなり歩いているからびっくりしてしまってね。ごめんよ。」
「え、ちょっと待って。私って死んだんじゃないの?え?じゃあ優くんは?ねぇ先生!優くん生きているんですか?」
「ゆうくん?ん~誰のことかわからないが、とにかく今は冷静になって、お母さんを待とう、ね。」
「そっか、、知らないよね。わかりました。」
私は何が何だかわからないまま、自分の病室へとぼとぼ歩いて行った。
けど半年間ぶりに目が覚めたってことは、トラックに轢かれたあの日から半年経ったってことなのかな。
「鳴海!鳴海!」
お母さんが呼ぶ声がした。
「お母さーん、私ここだ、ん、、く、苦しいよ。。」
お母さんは私を強く、強く抱きしめた。
「お母さんね、いつかこんな日が来るんじゃないかって思ってね、毎日毎日神様にお願いしていたのよ。だから嬉しくて、嬉しくて。良かった。。」
なんだかわからないけど、二人して大泣きした。
お母さんの温もりがこんなに暖かいんだって、久しぶりに感じた。
私、生きてるんだって。
「鳴海、信じられないかもしれないけどね、あなた入学式の当日に大きな交通事故に巻き込まれたのよ?それで意識がもう戻らないかもしれないって先生に言われて、、お母さんどうしたらいいかって」
「ちょっと待ってお母さん!入学式に交通事故?今日って何年の何月?え?私は何歳?」
「ごめんね、びっくりさせちゃって。あなたは今16歳、高校1年生よ。今は11月。」
え?時間が、戻ってる。
「お母さん、あのね、遠藤くんって知ってる?」
「遠藤くん?もちろん知ってるわよ。たまにお花を替えにきて来てくれている、あなたのクラスメイトでしょ?でもまだあなたからしたら出会っていないはずよ?」
「まだ出会ってない?、、、そうか!」
これは私が寝ている、いや意識を失っている間に見た、、夢?なのか。
これはきっと、お父さんが私に見せたかった夢なんじゃないかって、そう思った。
私と優くんはまだ出会っていない。
けど夢の中で、自分を犠牲にしてでも守りたいと思うほどの恋をした。
そして私は死んだ、はずだった。
現実とは偶然と必然の繰り返しで出来ている。
幸せってなんだろう。
そうやって考えながら、いつかの幸せに向けて生きている。
実は今が一番幸せなんじゃないかって思う時もある。
それは、プロポーズの瞬間だったり、初めてのキスだったり。
何を幸せに感じるかなんて人それぞれで。
でも一つだけ確信できることがあった。
”まだ出会っていない遠藤優と私はきっと、恋をする”
あんな夢を見たら誰だってそう思う。
とにかく一刻も早く会いたい。
優くん。優くん。
もしあいつと恋をして、
本当に夢で起きたことが現実になって、
2年半後に私か、優くんか、わからないけど、死んでしまうかもしれない。
私があいつに恋をしなければ、誰も死なず、
お互いそれなりに幸せに暮らしていけるのかもしれない。
未来は変えられないのかもしれない。
私はすごく迷った。
このまま出会わずにいた方が幸せなんじゃないか。
私は一人で笑ってしまった。
優くんと恋をする以上に幸せなことがこの世にあるわけがない。
そう思ったからだ。
私は半年間寝たきりで、すっかり衰えてしまった筋力をつけるため、日々リハビリに打ち込んだ。
そしてなんとか普通に生活できるようになった。
よし、これで学校に行ける。
優くんに会える。
あ、でも向こうは私がどんな人なのか知らないか。
ずっと寝ていたからね。
~ 学校当日 ~
みんな私のこと知っているかな。ふふふ。
私はみんなのこと知ってるよ。
早くクラスのみんなに会いたいなー。
やばいやばい、初登校日なのに遅刻するーーー。
「(キーンコーンカーンコーン)おっはよーございまーす!セーフ!」
「おお、浜辺か、今日からこのクラスの仲間だ!それにしても、当日から遅刻ギリギリはないだろ~」
「ま、せーんせい、硬いこと言わないの!」
「まぁいい。とりあえず自己紹介でもできるか?」
「ぷっ」
私は全員知っているのに自己紹介なんてって思ったけど、まぁ仕方ないか。
「えー、みんな聞いて!私は浜辺 鳴海、そこの君!」
と、優くんのほうを指さした。
「な、なんだよいきなり。お前入院してたんじゃないのかよ?」
「入院?そんなことはいいの。遠藤 優、あなたにどうしても伝えなきゃいけないことがあるの。」
「なんだよ、ほとんど初対面で伝えなきゃいけないことって、、」
「良い?一回しか言わないから耳をかっぽじって聞くのよ。」
と、私は大きく息を吸った。
「だーーーーーーい好き!私と、結婚して!」
幸せなことがわかっているなら、一日でも早く、あなたといたい。
みんなが少しでも後悔しないように、幸せであれ。
ただただ、今この瞬間を、生きたい。
完




