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変わらないもの


 私はその日から、とにかく誰にも気づかれないように、ひっそりと高校生活を送るはずだった。


 だめだ、どーしても遠藤優のことを意識してしまう。


 好きになっただけ。あいつと付き合いたいわけじゃない。


 毎日、毎日そんな想いの中、私はあることに気が付いた。


 ”毎日あいつのことしか考えていない”ことに。自分でも笑ってしまう。

 こんなに恨んでいたのに、あの日お父さんじゃなく、あいつが死ねば良かったのにとさえ思っていたのに、まさか好きになるなんて、、バカだな私。

 


 いっそのこと、この想いぶつけてみるか!と自分に言い聞かせ、きっとあいつにとってしっかり絡むのは初めましての私から思いっきりぶつかっていった。


「(バンッ)いってーな!誰だお前!気を付けろ!」


「ごめんなさい、、。」


 私は確信した。このぶつかった瞬間、この人とずっといたい。そう思ったのだ。


 これは冗談でも何でもなく、ただ純粋に『恋』なんだとわかった。



 出会い方とか、タイプとか、そんな次元じゃなかった。

 こうして、私の猛アタックにより、ってゆーのは言い過ぎだけど、付き合うことになったんだ。



 私は遠藤優のことをゆうくんと呼ぶようになった。これは過去のあいつが嫌いな私を消したいからとか、そういうんじゃなくて、私たちだけの呼び方が欲しかった。

 優くんはサッカー部の期待のエース、私は帰宅部で何の取り柄もない。

 不釣り合いかもしれない。いろんな女子からねたまれることもし、しばしばあったが、優くんがこの間海に、私の生まれ育った場所に一緒に行った時、『卒業したら一緒に暮らそう』って言ってくれた。

 こんな幸せな瞬間があって良いのか。

 もっと早くこの人を好きになっていれば良かった。

 


 こうして、私は毎日サッカーの部活を見ながら、ぼーっとしていた。今がきっと一番幸せな瞬間だろうとわかっていたから。噛み締めるように、優くんを眺めていた。





~ 2年後 ~




「・・・高校の卒業式まであと3カ月だね。」


「あ、うん。そーだな。」


「あの~、、、」


「鳴海!」


「え?」


「俺と、結婚してください!高校の卒業式に籍を入れよう。絶対に幸せにする!」


「優くん、、。よろしくお願いします。」


 私は泣きまくった。私たちの周りにはガヤでいっぱいだったが、そんなこと目にも入らないくらい、この遠藤 優という男に惚れていた。



 婚約をした私たちは、サッカーの部活が終わってから、毎日お部屋を探しに行ったり、まだまだ気が早いのに子供の名前を考えるゲームなんかで遊んでいた。


 ただひたすらに、幸せだった。



 卒業式の練習の日、いつものようにサッカーを眺めていた。


 もうすぐ結婚か~と、ニヤニヤしていたのも束の間、ボールが道路側へ転がっていったので、拾いに行こうと思ったその時だった。




「(キキーーーーッドカン)」


「おい、大丈夫か、おい!まさる!」



 え?・・・・え?ま、さ、る?


 ボールを拾いに行った優くんはトラックにかれ、即死だった。


 私は病室で優くんの最後を家族と一緒に見送った。


 涙が一滴も出ない。あれ?なんで?


 悲しい気持ちなんてレベルじゃない。私もいっそのこと死んでしまおうか。


 それから私は自分が生まれ育った場所、そう、海へ向かった。


「お父さーーーーーん!私ね、好きな人を守れなかったーー!ごめんなさい、、。」


 海に向かって枯れそうな声で何度も何度も叫んだ。


 今日はここで寝よう。


 海の近くで、大好きなお父さんに包み込まれるように、眠りについた。




「(ピピピピッ、ピピピピッ)ん、ん~~~、あれ?私って海で寝たんじゃなかったっけ?」

 と独り言をつぶやきながら、見渡すと、そこにはサッカーしている優くんの姿があった。



「ちょ、ちょっと待って、あれ?」



 『あの日に戻ってる』


 そうだ、私はそういえば未来へ飛べるし、過去にも戻れる。そんなことが昔出来たんだっけ。


 これなら、もしかしたら優くんを助けられるかもしれない。


 私は道路にボールが転がることを知っていたため、ボールが転がる場所で待ち構えていた。


 ボールが来た!


 私はそのボールをキャッチして、サッカー部へ投げ返した。


 よし!これで優くんの命は助かった、はずだった。


「(キキーーーーッドカン)」


「おい!まさるーー!」


 え?なんで?ボールではなく、優くんはある少年を助けに行き、轢かれてしまった。



 どーしてよ。ふん、もう一回!と、私はその場で戻りたい場所をイメージした。


「飛べた!眠らなくても飛べた!よっしゃー、とそんなことよりも、ゆうくーん!」


 無理やりその場から離れるように言った。


 その想いも虚しく、また優くんは轢かれてしまった。なんで?なんで助けられないの?


 未来は決まってるって言いたいの?


 私は何度も何度も、いろんな方法で優くんを助けようとした。でも絶対に助けられない。

 これは運命なのか。


 私は、最後の方法を思いついた。



 ”私が轢かれたらどうなるのか”だった。



 「(キキーーーーッドカン)」

 私はトラックに跳ねられた。


 こんなことを考えた私はバカだった。死んでしまったら、何もやり直せない。何も。



 私が望んだとおり、優くんは助かった。


 なんで、自分の命まで犠牲にしてしまったのだろう。


 こんなんじゃ、二人で幸せになれないじゃん。


 私は思った。


 「あーぁ、あの日、あなたを好きにならなければ良かった。嫌いのままで良かった。幸せな瞬間なんていらなかった。優くん。大好き。バイバイ。」


 私はゆっくりと息を引き取り、深い眠りに就いたのだった。



 卒業式の日に籍を入れよう、そのために書いた婚姻届け。もうすぐ引っ越すはずのアパート。

 それら全ては、誰も変えることのできない運命に、簡単に引き裂かれたのだった。


 人を好きになるなんて、良いことないじゃんか。



 それは、18歳の冬の出来事。



 

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