過去からの使者
「ゆうくん、タイムトラベルって信じる?」
「え、タイムトラベル?」
「そう、時間を超えて旅をすること。今の私のようにね。」
「信じるも何も普通はそんなこと出来るわけないし、でも今目の前に鳴海がいるし、、」
「突然でびっくりするよね、ごめんね。つまり私ね、タイムトラベルができるの!」
彼女は真っすぐな表情でそこには嘘はない、そんな顔をしていたからか、不思議と僕はその話を信じざるを得なかった。
「まぁ聞いて。一カ月前のこと、あの日ゆうくん部活の帰りだったでしょ?私終わるの待ってて、少し時間があったからコンビニに向かった時、トラックが私の目の前に急に現れて、やばいと思って今こうやって飛んできているの。現実世界の私はきっとあのまま、、だからね、ゆうくんにこれからの人生を幸せに生きてもらえるようにいろいろお願いがあるの。」
「ん~~つまり今俺の前にいる鳴海は死んでしまう直前の姿ってこと?」
「そうゆうこと。まず一つ目のお願いを言うね。私のことはとっとと忘れて、早く次の恋をしなさい。」
「次の恋って、、そんな簡単に気持ちを切り替えられるほど、ガサツな性格じゃないんですけど!」
プッ、って二人で顔を見合わせながら笑った。
「そうね、ゆうくんは根っからの真面目で浮気の一つもできない、そういう人だもんね。けど、現実の私はもういない。だからこそ、次に早く進んでほしいの。」
「でもさ、俺はタイムトラベルでも何でもいいから鳴海とこうやって会えるなら、それで十分だぜ?」
「今見えている私は、そんな簡単に会えるものじゃないの。タイムトラベルって言っても、一度だけ使えるの。だから今日、あと少ししたら永遠に会えなくなるの。」
「どーゆうことだよ!あと何時間いられるんだ?あと何分?いやあと何秒一緒にいられるんだよ!」
「あと、もって1分ってところかな。」
「ちょ、待ってくれよ。お願いだからもうどこにも行かないでくれよ!」
「ごめんね、私に力がなくて。時間がないからお願いを聞いて!二つ目のお願い。ゆうくんが今一生懸命続けているサッカー、絶対続けて!そして最後のお願い。最後にキスしたい。」
「・・・わかった。」
彼女の唇に優しく、キスをした。そのまま彼女の姿は、その場から消えてしまった。
唇にかすかに残る体温に、僕はもう一度泣いた。一人公園で、ベンチには二つの缶コーヒーがあり、確かにさっきまでここには彼女がいたことを証明していた。
こんな話誰も信じてくれないだろうと僕は自分の中だけで解決しようとしていた。
それから2年の月日が流れた。僕は大学生になり、あの日鳴海に言われたように、新しい彼女を作り、高校で辞めようとしていたサッカーも、なんとか続けていた。
ふと考えることがある。人生で一度だけ未来へ飛べて、誰かに伝えること、それが次の恋をしてほしいことと、サッカーを続けることって、どう考えても普通だと思った。そんなこと言われなくても彼女を作り、サッカーを続けていたかもしれない。
あの日、彼女が僕に本当に伝えたかったことは何だろう。そんな気持ちに取りつかれていた。
考えても仕方がない。彼女がこの世を去って2年間、僕は必死で辛いことを隠し、今ようやく平常心に近い精神状態で生活できている。大丈夫、問題ない。人生の中で最愛の人を一人亡くしてしまっただけ。誰にでも起きること。大丈夫、大丈夫。自分にそう言い聞かせることで何とか笑っていられた。
僕には誰にも言っていないが、夢があった。それは叶うはずもない夢だから、誰も知らないのだ。
僕の夢、あの日人生で初めて一目惚れした人、鳴海という人と結婚し、サッカー選手になることだった。もう叶わない。サッカー選手にだってなれないことくらい、この年になればわかる。
どっちの夢も叶わない。だけど、生きていかなければいけない。鳴海の分も精いっぱい生きて、サッカーも飽きるくらいやって、それでいいじゃないか。そうやって毎日時間がただひたすらに流れていった。
大学3年生のある日、僕に転機が訪れた。それは海外のサッカーチームで強化合宿をしている時だった。監督に呼び出され、耳を疑った。
「遠藤、お前このチームに残らないか?」
「え、僕がですか?でもそれって通用しなければ、、、」
「そうだ、お前が通用しなければ、人生を棒に振ってしまう可能性もある。普通に就職して、普通に働いた方が生活は安定するかもしれない。この選択がサッカーを続ける最後の選択になるかもしれない。じっくり考えろ!」
と言って、監督は部屋から出て行った。
僕が海外でサッカーをするなんて考えてもみなかった。周りはみんな就職活動で大変だっていう中で、この選択はあまりにも難しかった。
眠れない。明日は合宿最後の日。ふと鳴海の言葉を思い出した。僕には大切なものが二つあった。鳴海とサッカー。決めた。人生夢の一つも無いようでは、この先楽しく生きていける自信がなかった。
次の日の朝、監督にこのチームに残ることを報告した。
「遠藤、頑張れよ!」
そう言って、僕の頭をしっかりと撫でてくれた。それはサッカー選手への第一歩になるのか、人生を棒に振る第一歩になるのか不安でいっぱいであった。
そのまま大学を中退し、海外のサッカーチームで毎日トレーニングに明かす日々が続いた。
僕の人生はこれからきっと、輝くだろうと、そう信じて。




