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現実と妄想の間で

人生の中で一番幸せな瞬間っていつでしょう。

一番悲しい瞬間っていつでしょう。

恋はチョコレートのように甘く苦いものです。


 全ての行動・言動・しぐさ、それらには必ず意味がある。時代の流れにただ身を任せて、なんとなく時間が過ぎていく。いつからだろうか、毎日がこんなにも窮屈きゅうくつに感じてしまうのは。

 僕が18歳の時のこと、それは如何にも突然な出来事であった。

 当時付き合っていた彼女が他界してしまった。病室で僕は彼女に最後何も言ってあげられなかったことをずっと後悔して生きていた。実際のところは、何も言ってあげられなかったのではなく、言葉が喉よりも先に出ていけなかったのだ。声が出なかった。声を出せば僕の精神は一瞬にして崩壊してしまうだろうと、体が防御態勢に入ったのだろう。ただ現実を受け止めきれず、悲しくなんかない。これは現実ではない。パラレルワールドの悪い結果の方だと考えながら、自分の感情全てを押し殺していた。

 そんなことがあった僕は、残りの高校生活を楽しく、気にせず、青春は人生に一度しか来ないと言わんばかりに謳歌することにしていた。悲しくなんてない。


 そして一カ月が過ぎようとしていた時、突然電話が鳴った。知らない電話番号からだった。


「はい、もしもし」


「あ、あの~、、わかる?私、、、」


「ん?どちら様でしょうか?お金はありませんよ?」

 僕はオレオレ詐欺の逆バージョンではないかと、ふざけながら話していた。


「私、鳴海なるみだよ、、」


「はぁ?な、鳴海?、、ってふざけんな!そーゆう冗談が一番むかつくんだよ!」


「冗談なんかじゃないよ。私、今だけ過去から飛んできてるの。」


「過去?そんなことができるわけねーだろ!だったら証拠見せろよ、証拠!」


「あなたの誕生日、10月17日、、血液型はB型、名前は遠藤えんどう まさる。」


「そ、そうだけどよ、そんな情報今の時代調べりゃすぐわかんぜ?」


「ゆうくん、、」


「え?、、、、」それは鳴海しか知らない、僕の名前をもじってつけた僕たちだけの呼び方。


「どう?これで少しは信じてくれた?あのね、私あの時ゆうくんに言わなきゃいけないことがあったの。」


「なんだよ今さら、まだ気持ちの整理も出来てないのに過去から来たって言われて、はいそーですかってなるわけねーだろ?」


「ねぇ、聞いて。明日、朝の10時にいつもの場所で待ってるから、それじゃ。」


「お、おい!なるみ!って切れてるし。」

 僕はその電話が何だったのか、本当に彼女なのか、もやもやした気持ちのまま次の日を迎えた。待ち合わせは朝の10時。いつもの場所って言えば駅前のボロいコンビニの前だった。僕は半信半疑のままコンビニで週刊誌を立ち読みして待つことにした。


「ゆうくん!」

 僕を呼ぶ声が聞こえた。振り返るとそこには確実に彼女が立っていた。これは現実なのか?最近どれが現実でどれが妄想かわからない精神状態だから見えているのか?自分に数々の自問自答をしたが、それは確実に鳴海だった。

 

「おお、、お前、本当に鳴海か?この間確かに、、」

 鳴海が死んでしまったことは、今目の前にいる過去の鳴海には、とりあえず隠しておこう。そう思った。


「うん、鳴海だよ!この間、、何?」


「あ~~いやいや何でもない!とりあえずこの状況のことゆっくり話せる所に行こうぜ!」

 と、僕は鳴海の手を引っ張りながら近くの公園へ向かった。


「ゆうくん、ごめんね急に。私、死んじゃったでしょ?」


 ぶーーーーっ。僕は思わず口に含んでいたコーヒーを吹き出してしまった。

「な、なんで知ってんだよ。過去から来たんじゃないのか?それなら未来のことはわかんねーだろ!」


「ばっかねぇ、死んじゃったから、こうやって今目の前にいるんじゃない!」


「って言われてもよぉ、何を信じればいいんだよーー。」


「とにかく、私を信じなさい!」

 彼女は口角を上げながら胸を叩いた。

 僕にはこれが現実じゃなくてもいい、今この瞬間、好きだった人が目の前にいる、それだけを噛み締めようと心からそう思った。


「で?わざわざ過去から来て、俺に言いたいことってなんだよ?」


「えっとね、一回しか言わないから、耳を凝らしてよ~く聞いてね。」

 と言い、鳴海は立ち上がり、息をめいいっぱい吸い込みながら言った。


「ゆうくーーーーーんっ!だーーーーーーいすき!」

 彼女の声はこの少し広めの公園でも端まで届くのではないかというボリュームだった。


「おいおい、ちょ、恥ずかしいって、、」

 僕は涙が止まらなかった。彼女を抱きしめた。強く。痛いくらいに抱きしめた。この一カ月間ずっと辛かったこと。最後に何も言ってあげられなかったこと。全部話した。昼間の公園にはふさわしくないほど泣いた。泣きまくった。彼女は僕の頭を撫でながら、ごめんね、ごめんねと繰り返し、ただひたすらに包み込んでくれた。


「でもよ、過去から来たってどーやって来たんだよ、何のために来たんだよ!俺に会いに来るためだけに来たのかよ!」

 とにかく何から聞けば今の状況が理解できるか分からなかったので、質問攻めをした。彼女はゆっくりと座り、話し始めた。




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