8
眼を合わすことで仲間たちも自分と同じ想いであると確信する。
「このまま逃げる手もあるが…」
九人が今度は首を横に振る。
「うむ」
女が頷く。
「我らはこの屈辱を晴らさねばならぬ。特に我らより役目を奪いし霞組は生かしておけぬ。何としても血祭りにあげてやらねば!!」
女の語気が荒くなった。
「我らが霞組を討ち果たせば、重家様も目を覚まされるに違いない」
九人が頷く。
「そのときこそ、我らが坂巻家筆頭忍び組に返り咲く」
そう言った女はふふふと肩を揺らして笑い始めた。
同じく九人の忍びも笑いだす。
十人の忍びは皆、肩を揺らし笑い続けた。
霞組屋敷、鍛練のための道場。
板敷きの上に五人の忍びが座っている。
霞組の頭、道順。
齢、七十の白髪の老人である。
身体は細く紺色の着物から出た手足は枯れ枝のようだが、全身より発する威圧感と微塵も隙が無い佇まいが只者ではないと物語っていた。
道順の前に左右に別れ、二人ずつ座る者たち。
まずは右側、道順に近い場所に陣取るは二十代後半の男。
名を疾風という。
やや細身の美しい男であった。
口元までの黒髪で長いまつ毛を持った左眼が半分ほど隠れている。
黒い忍び装束姿であった。
疾風の左横に口を真一文字に引き結び、青ざめた表情を浮かべているのは陽菜。
四十代前半の髪の長い女が、えんじ色の着物姿で疾風の対面に座る。
女の名は楽法。
かつては将軍家に仕え、楽士兼忍び働きをしていたが「星の子」を巡る事件の折に大きなしくじりをし、職を失した。
その後、昔のよしみである道順を頼り、坂巻家忍び霞組に腰を落ち着けたのである。