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術を破られ青ざめた鱗三が月影を呆然と見つめる。
月影は確かに笑ってはいるが、鱗三をにらむその双眸は依然として激しい殺意に満ち満ちていた。
鱗三の背筋が凍る。
今、目の前に立つ女は恐ろしい難敵であると全身の細胞が警鐘を鳴らしていた。
自らの死という無惨な結末が頭を過り、金縛りのように身がすくむ。
月影が突如、鱗三に松明を投げつけた。
はっと我に返った鱗三は慌てて身をかわす。
が、横へ跳んだ鱗三の足元に向かって月影が再び何かを投げつけた。
いつもの鱗三であれば、この第二撃を予期していたかもしれない。
しかし今は。
やはり得意の術を完膚無きまでに、しかもあっさりと破られた動揺がどこまでも響いていた。
(この女、俺と雷組の先ほどの戦いを見ていたのか?)
あふれ出る雑念が鱗三を常に敵の後手へと回らせていた。
月影の投げた物が唸りを上げて、鱗三の揃った両足首を直撃した。
その正体は両端に分銅が付いた鎖であった。
勢いのついた鎖は瞬時にぐるぐると両の足首に絡みつき、鱗三の動きを封じた。
「くっ!!」
うめきつつ、鱗三が転倒する。
右手で腰の刀を抜き、左手で足首の鎖を外そうと試みた。
しかし、それも果たせぬうちに風切り音を立て顔面へと飛来する鎖付の分銅。
今度は片方の端を右手に握ったまま、月影が放った物であった。
これが顔面に当たれば、ひとたまりもなく昏倒する。
鱗三の右手の刀が翻り、かろうじて分銅を叩き落とした。
「ぎゃはははは!!」
おぞましい笑い声と共に月影の身体が空中へ跳んだ。
分銅を防ぐことに気を取られた鱗三の頭上を越え、その背後にすっくと降り立つ。
鱗三が足を封じられた体勢のまま振り返る。
その勢いで振った刀は月影が放った分銅の一撃で、右手から弾き落とされた。