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 花びらが全て地に落ち、血を流し仰向けに倒れた疾風と、その側に立つ月影の姿が露になる。


「何故…だ…?」


 疾風がうめく。


「何故なんだ…陽菜…」


 疾風の瞳が月影を見上げる。


「何故?」


 月影の憎悪に満ちた双眸が疾風を見つめ返す。


 恐ろしい形相がさらに歪んだ。


「分からぬのか?」


「何故だ…」


「二年前」


 疾風の意識が必死で記憶を辿る。


(二年前…何か…何かあったか…?)


「重家の罪を揉み消すため、我らは村を滅ぼした」


(あ…)


 疾風は思い出した。


「霞組は罪も無い村人たちを無惨にも皆殺しにした。女子供も容赦なく」


「………」


「我はあの日に生まれた」


 月影の憤怒の瞳が、よりいっそうの炎をたぎらせる。


「非道と分かりながら残忍な主の理不尽な命を遂行せねばならぬ不条理、そしてそれすらも己らの栄達に利用せんとする忍び組のあさましさ」


「………」


「そう思いながらも結局は流され、村人を殺害する己の情けなさ…それら全てに耐えられなくなった陽菜の心より生まれしが我、月影よ」


「陽菜…」


「それから我は重家と霞組…いや、主君の非道な命を実行するこの世の全ての忍びを地獄に落とすため、自らの技を磨いた。陽菜の優しすぎ甘すぎる心では到底たどり着けぬ腕前の域にまで、我ならば到達できた。我は好機を待った」


「陽菜は…お前を知らないのか…?」


「ぎゃははははっ!!」


 月影が笑った。


 しかし両眼は全く笑っていない。


「我と陽菜は元々、同じ者。時には我のみになり、時には陽菜のみに、そしてお互いが混ざり合う時もある。我らは共通の目的を持つ同志。協力し合いながら、ここまで事を運んだ。雷組との戦いが始まったとき、ついに時が来たと思った。これを利用すれば霞組を全員倒せると」


「………」


「思惑通りに事は進んだ。お前を殺し、次は城を守る二組の忍びたちを殺す。そして」


 月影の口角が、ぐぐっと上がる。


「重家を殺す」


 月影が吐き捨てるように言った。


 疾風が苦悶の声を洩らす。


 それは腹部に穿(うが)たれた、もはや命は助からぬ刺し傷の痛みから出たものか、それとも全てを打ち明けられ、そのあまりの凄絶な真相に完膚無きまでに打ちのめされた心より絞り出されたものか?



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