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 無造作に遊ばせた胸元辺りまでの黒髪。


 獰猛な肉食獣のような鋭い視線が尋常ではない憎悪を浮かべ、疾風をにらんでいる。


 必殺の意気込みが、そこにはあった。


 疾風は背中の激痛に耐え、突然現れたこの新手の敵を凝視した。


 いつの間に背後を取られたのか?


 雷組は全部で十二人だったはず。


 霞組の調べを逃れた一人が存在したのか?


 そんなはずはない。


 雷組は先ほどの二人で全滅したのだ。


 それは間違いない。


 では、この地獄の底から這い出てきたような風貌のくのいちは、いったい何者なのか?


 疾風は激しく動揺した。


「我の名は」


 女の口が開く。


 恐ろしく、しわがれた声。


「月影」


 女が名乗ったところで疾風は重大なことに気づいた。


 疾風が自らの背後に庇っていた陽菜の姿が何処にもない。


「陽菜!!」


 疾風が背中の痛みをこらえ呼ばわった。


 返事はない。


 まさか。


 この新手の敵に害されたのか?


 そうは思いたくなかった。


「陽菜!!」


 もう一度、呼ぶ。


 やはり返事はない。


 月影の周りにも陽菜の姿は見当たらない。


「ふふふ」


 月影が笑った。


 しかし疾風に向けた双眸は微塵も笑ってはいない。


 毒素のような憎悪を垂れ流し、疾風をにらみ続ける。


「おめでたい奴。まだ気づかんのか?」


 月影が言った。


 疾風は月影が何を言っているのか分からなかった。


 気づく?


 何に気づくというのか?


「鱗三の百鱗蛾」


 月影が続けた。


「炎で燃やしてやった」


 疾風は地に伏せた身体を起こそうとした。


 斬られた背中が痛む。


 かなりの深傷。


 疾風の特殊な予知も視界外には及ばない。


 雷組の二人に気を取られ、ここまでの接近を許したのが最大のしくじり。


 結局、疾風は立ち上がれず、しゃがんだ体勢になるのが精一杯であった。


「青葉の毒」


 さらに月影が続ける。


「部屋から少量を盗み出し成分を調べた。あらかじめ造った毒の効き目を無くす薬を飲んだ」


 疾風は両手で刀を構えた。


 視界内に月影を捉えてさえいれば、また先を見通す力が現れるはず。


 しかし。


 深傷を負った身体では敵の動きが知れたとて、果たして逆襲できるのか?


 傷によって荒くなる呼吸を疾風は必死に集中し整えた。


 


 




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