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孤児であった陽菜を霞組頭の道順が連れてきたのが十五年前。
そのときすでに、いっぱしの忍びであった鱗三からすると、年の離れた妹のようである陽菜のたくましい成長ぶりに自然とこぼれ出た言葉であった。
「まだまだ鱗三様には及びませぬ」
陽菜が頭を下げる。
「うむ」と返す鱗三の顔から笑みが、すっと消えた。
細い眼がさらに細まる。
「組頭に報せろ。俺はしばらく、ここを見張る。雷組の新手が来るかもしれぬ」
「え!?」
陽菜が顔を曇らせた。
「鱗三様」
不安げな妹分に鱗三は軽く頷いて見せる。
「もちろん、無茶はせん。奴らが現れたら後をつけ、寝ぐらを突き止めてやる」
陽菜が、ほっと胸を撫で下ろす。
「では、くれぐれも」
念を押す陽菜に鱗三が苦笑した。
「陽菜、お前は優しすぎる。忍びはそんなことでは務まらぬぞ。早う行け」
こくりと頷き、陽菜が踵を返した。
雑木林を霞組屋敷へと向けて走りだす。
四半刻(約30分)もかからぬ場所に屋敷はある。
霞組の本拠地近くまで襲ってくるとは、と陽菜は思った。
殿が代替わりし、お役目を霞組に奪われたとはいえ解役を良しとせず、主と同じく入れ替わった忍び務めの組を襲撃するなどとは何という、いさぎ悪さか。
逆恨みも甚だしい。
元より現城主、坂巻重家付の霞組、その信頼の厚さから鑑みて当然の流れである配置替えである。
生来、冷酷かつ残忍な気質を持つ重家によって役を奪われた後の自分たちの行く末を恐れ逐電するまでは、まあ百歩譲って分からなくもないが、そのまま領内に潜伏し、霞組の隙を突いてこれを害そうなどとは。
(忍びの心の醜さ…)
雑木林を走るくのいちの心は塞いだ。