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縁側に座り、疾風が庭をにらむ。
道順の腕前を疑うわけではないが、いかな鉄壁の鋼糸術とはいえ、道場に火でも放たれては危険である。
もしも残り二人の雷組が屋敷に侵入してきたなら、敵の仕掛けは待たず自らが率先して討ち果たしてくれようと思う疾風であった。
雷組の頭領が手練れであっても先を読む力があれば勝利は引き寄せられるはず。
自分で思うように力を発動できないのが不安材料ではあるが、そこは武運であると言わざるをえない。
何より上役である道順や今、障子を隔てた向こうに眠っていると考えただけで胸が高鳴る想い人、陽菜を矢面に立たせるなどもっての外であった。
(雷組は俺が倒す)
固い決意の疾風。
と。
障子の向こうに何者かの立つ気配がした。
すっと障子が開く。
寝間着姿となった陽菜であった。
「どうした?」
疾風が問う。
陽菜は右手を胸の前で、ぎゅっと握った。
疾風の顔を真っ直ぐに見つめる。
「鱗三さんも」
陽菜が口を開いた。
その声は重く沈んでいる。
「青葉も…それに楽法さんまで」
陽菜が眼を伏せた。
「皆、亡くなってしまいました。もし本当に雷組が今夜、攻めてくるなら…私も…」
そう言って項垂れる陽菜に疾風は慌てた。
「大丈夫だ。俺が必ず雷組を返り討ちにしてみせる」
「でも…」
「いや、お前は絶対に俺が守る。けして死なせはせん」
「疾風様…」
疾風の強い口調に、同じ忍び仲間としての思いやり以上の男女の想いを感じ取ったのか。
疾風を見つめる陽菜の両眼がたちまち潤みだした。
「疾風様!!」
小さな叫びと共に可憐な乙女くのいちは予知の力を持つ手練れ忍びの胸へと我が身を飛び込ませた。
陽菜の溌剌とした身体より立ち昇る甘い芳香に、疾風の顔はあっという間に朱に染まった。
「陽菜…」
本来ならばこれを叱責し、つっけんどんに押し返さねばならぬ立場の疾風が小声で娘の名を呼ぶのが精一杯であった。




