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「陽菜、霞組屋敷に戻るぞ! しっかりしろ!!」
疾風の一喝で、青ざめどこかぼんやりとしていた陽菜の表情が、はっとなった。
「道順様に報せ、雷組を迎え撃たねば!!」と疾風。
陽菜がこくりと頷いた。
二人は霞組屋敷を目指し、月明かりの下を走りだした。
屋敷へとたどり着き、楽法を弔うのも後回しに疾風は道順に雷組よりの書状を見せた。
道順は書面に眼を通すと「額面通りに受け止めるのも早計ではあるが」と口を開いた。
「それなりの備えはせねばならぬ」
道順の黄色がかった双眸が疾風と陽菜を見つめる。
「わしは道場にて寝ずの番をする」
「お一人では危険です」
疾風が慌てた様子で口を挟む。
「わしの鋼糸の陣、鉄壁の守りは知っておろう? それでも不安か?」
道順のしわ深い顔が真っ赤な口を開けて微笑む。
確かに、と疾風は思う。
道順の使う鋼糸の術は自らを中心にあらゆる場所に張り巡らされ、まるで蜘蛛の巣のようになる。
道順に近づけば敵の身体は鋭利な刃物の如き鋼糸によって、ずたずたに引き裂かれるであろう。
もしも敵が飛び道具を投げたとしても、道順の掌中に握られた大元の糸を巧みに操れば反応する鋼糸がそれを迎撃し、地に落とす。
まさに鉄壁の守りであった。
「いえ」
疾風が首を横に振るのを見て、道順は満足げに頷く。
「お前たちは離れに待機して順番に休みを取れ。この襲撃宣言が謀で、我らを疲れさせる狙いもあり得る」
疾風と陽菜が頷いた。
「行け」
道順の言葉に二人は道場を出た。
楽法の遺体を庭の隅にひとまずは埋めた。
次の戦いが待っているため、仲間の弔いもまともに出来ぬのは忍びの宿命ではあった。
その後、二人は離れに移った。
辺りは闇深く、頭上の月明かりのみ。
屋敷の灯りは全て、わざと消されている。
「陽菜」
疾風が優しく呼びかけた。
「お前が先に寝ろ。俺が見張る」
「はい」
陽菜が頷き、寝所へと入った。




