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「死ね、霞組!!」
指示役の男の怒声と共に三本の刀が唸りを上げて疾風に迫る。
すでに確認した動き。
三つの刃が通るすれすれの場所へと平然と踏み込む疾風。
「なっ!?」
三人の忍びが疾風のあり得ざる体さばきに驚愕する。
疾風の右手の白刃がきらめいた。
首筋、胸、腹とそれぞれ違う箇所を斬られ、雷組の三人は倒れた。
敵の死を確かめた疾風が楽法の居た場所に向かって走りだす。
(陽菜…頼む! 生きていてくれ!!)
疾風は焦り、その心は千々に乱れた。
疾風が雷組の忍びたちを倒すよりも前。
助けに行くならば、やはり腕前に不安のある陽菜からかと楽法が林に一歩踏み出した、そのとき。
楽法は自らに向けられた尋常ならざる殺気に思わず跳び退がった。
林から何者かが、こちらへ向かってくる。
忍び装束の小柄な女であった。
揺れる黒髪の間より、ぎらぎらと輝く憎悪をたぎらせた双眸が楽法を射し貫かんばかりに、にらみつけてくる。
「おお…」
楽法が思わず声を洩らす。
背筋が凍るとは、このことか。
かつて楽法が将軍家での役目を失う原因となった「星の子」事件の際、無法丸なる流浪の剣士に右手の骨を折られたときでさえ、ここまでの恐怖を感じはしなかった。
それほどの激しい敵意、すさまじき殺気が女より立ち昇り、楽法の全身に絡みついてくる。
「ちっ」
楽法は舌打ちした。
手に持つ琵琶をちらりと見る。
何故、今なのか?
自らの人生において最強の敵であろう、この新手の女と弦が切れかけた最悪な状況で遭遇するはめになるとは。
楽法は己の不運を呪った。
忍び装束の女は血走った双眸で楽法を凝視しつつ、すたすたと近づいてくる。
「我の名は」
女がしわがれた声で言った。
声までが楽法に対する憎しみで満ち満ちている。
(雷組の霞組への恨みは、これほどのものか)
楽法はぞくりと震えた。
「月影」
女が名乗った。




