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忍びとしては褒められることではない。
否、もしもこの思慕の念を道順に知られれば強い叱責を受けるに違いない。
自らの心の奥に閉じ込め諦めなければならない。
頭では分かってはいるのだが。
今こうしているうちにも陽菜が雷組の刃にかけられているのではと想像するだけで全身の肌が粟立つのであった。
(陽菜…陽菜!!)
突然。
疾風の視界が歪み、輝きだした。
(来た!!)
疾風が口元をほころばせる。
疾風の霞組最強たる所以はもちろん身体的な能力の高さと忍びとしての勘働きの良さであったが、実はもうひとつ理由が存在した。
窮地に追い込まれるとき疾風の眼前には、これから現実に起こる動きが映し出されるのである。
その間、時間はゆっくりと過ぎ、疾風はじっくりと状況を吟味できる。
何故、このような不思議な力を持っているのかは疾風にも分からない。
幼き頃より、この力によって何度も命に関わる大難を逃れてきた。
これがある限り、死神は疾風を捕らえることはないのだ。
一刻も早く陽菜の元へ駆けつけたい現状での、この力の発現は渡りに船であった。
雷組の三人の次の攻撃が見える。
やはり鍛え上げられた忍びたち。
三人同時の息が合った剣撃である。
しかし、いかに鍛練しようとも三人は同じ人間ではない。
知覚を完全に共有は出来ない。
疾風は同時攻撃の穴を見つけた。
敵がどう動くか分からぬ刹那の攻防ではある程度、余裕を持たせた想定をしなければならない。
もし相手に予想外の動きがあれば自らの生命という代価を払うはめになるからだ。
それゆえに敵への攻撃はぎりぎりを攻めるのは難しい。
実力が伯仲した戦いではなおのこと。
だが今、疾風はこれからの敵の動きをはっきりと見ている。
そして、それは間違いなく現実で行われるのだ。
勝つための道筋は完全に疾風の頭の中で完成した。
眼前の敵三人が霧が晴れるように消えていく。
いつもと同じだ。
ここから現実へと戻り、予知した時間が流れだす。




