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「そのうえ、村人たちを皆殺しにせよとは…酷い…酷すぎます」
そう言った陽菜の顔はひどく青ざめている。
「主命は絶対」
道順が言った。
「景家様に重家様の行いが露見する前に始末をつけねばならぬ」
「そんな…」
陽菜は絶句した。
「陽菜」
再び道順が口を開く。
「お前は心得違いをしておる。我らは正義を成すために居るのではない。主たる重家様の命を果たすために存在する」
「………」
陽菜は唇を噛んだ。
「そして、この度の務めを滞りなく果たせば今後の我らの立場を強固にできるであろう。重家様が無事に家督をお継ぎになられれば雷組に代わり、霞組が忍び組筆頭に昇格するやもしれぬ」
道順の言葉に陽菜以外の全員、疾風、鱗三、楽法、青葉は皆一様に瞳を輝かせた。
忍び組筆頭。
何という甘美な響きであろうか。
そうなれば、もはや雷組に格下と蔑まれず済む。
堂々と胸を張り、大きな顔が出来るのだ。
それこそが自分たちの能力と苦労に相応しい。
「霞組の栄達のために罪なき村人たちを…」
他の者とは対照的に陽菜の顔は心痛に歪む。
「陽菜」
道順が言った。
「それは違う。重家様に逆らった瞬間より、村の者どもは罪人なのだ」
「………」
陽菜は両の拳を正座した太ももの上できつく握り、下を向いた。
「お前も忍びならばつまらぬ感傷は捨てよ。良いな」
道順の言葉に下を向いたまま、陽菜は頷いた。
そして、その夜。
村人たちが決起しようと目論む前日の夜であるが。
霞組全員が村へと攻め入り、全ての村人を殺した。
女子供も例外は無かった。
まるで感情の欠落した人形のような表情をした仲間たちが次々と村人たちの命を奪うのを見て、いつしか陽菜の両眼からは涙があふれ出た。
そして泣きながら陽菜自身も村人を殺害していった。
四半刻(30分)もせぬうちに虐殺は終わった。




