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若い娘は森のそばにある村の者であった。
主の勘気を恐れ一切、非道を咎められずにいた近習たちも、事のあまりの酷さに気が引けたのか娘の遺体だけは村へと運ばせ、村長や村人たちには詳しい話はろくにせず幕引きを図ろうとした。
侍たちの口の重さに村長は事件のあらましを察した。
この地を治める坂巻家に小村の者たちが逆らうなど、もっての他。
このまま泣き寝入りするのが世の常ではあるが。
村長と村人たちは並みの者たちではなかった。
そもそも彼らはこの地に住まう豪族であり、坂巻家に併合され登用されなかった者たちが長い年月のうちに平民へと姿を変えたという経緯があったのである。
何代かを経て今や忘れつつあった地侍の魂に、理不尽な仕打ちを受けた娘に対する無責任な沙汰が猛烈な炎を点火した。
村人たちは一丸となり、坂巻城に全員で直訴に及ぼうと画策した。
重家の父、領主である景家に事の顛末をぶちまけようというのである。
この動きを察知した重家は、その残忍さが滲み出た恐ろしげな面相をさらに歪め「ごみ虫どもめが俺に逆らう気か!!」と吐き捨てた。
そして自らに仕える忍びたちである霞組の頭目、道順を呼びつけ、ある命を下した。
「そ、それは…」
霞組屋敷に戻った道順より、事の成り行きと自分たちに下された命を聞いた陽菜は思わず上ずった声を出した。
「まことにございますか?」
「陽菜!!」
疾風が陽菜を叱責した。
上役の言葉を疑うなど許されない。
道順の黄色がかった両の瞳が陽菜をぎろりとにらんだ。
「まこととは?」と道順。
感情が微塵もない声だ。
「その話では…村の娘には罪はなく、あまりに不憫」
「陽菜!!」
怒鳴る疾風を道順が視線で制した。
陽菜に喋らせてやれという道順の意を汲み、疾風は口を閉じた。




