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青葉の全身から冷や汗が、どっと噴き出した。
敵は青葉の毒に対する耐性を持っているというのか?
否、そんなはずはないと青葉が首を横に振る。
偶然は起こり得ない。
あらかじめ青葉が造った毒の成分が分かっていれば…否、それも考えられない。
青葉が毒を製造する部屋は霞組屋敷にある。
雷組が侵入すれば、すぐにそれと知れるはず。
ではこれまでの忍び働きの中で青葉の倒した敵の死体から採取し、成分を割り出したのか?
解けぬ謎に青葉の思考は堂々巡りし、心は千々に乱れた。
青ざめる青葉の両耳に、ずっと聴こえてくるのは。
「ぎゃははは!!」
月影の狂ったような笑い声。
耳を突くそれに青葉の頭はものを考えられなくなり、がんがんと痛みだした。
最強の武器である毒を破られた動揺が、青葉の身体をぐらりと揺らした。
月影はその隙を見逃さない。
懐から取り出した小刀を鞘から抜き、怪鳥の如く跳躍する。
半ば茫然自失となった青葉に空中より襲いかかった。
「あ」
青葉が短い声を上げた。
すれ違い様に月影の小刀が青葉の喉を見事に斬り裂いていた。
血しぶきを撒き散らし、青葉が倒れる。
青葉は死んだ。
「ぎゃははは!!」
青葉の死体のそばに立つ月影の鬼気迫る高笑いが、しばらく後まで草原中へと響き渡るのであった。
二年前の春。
事件は起こった。
今は坂巻城主たる坂巻重家は、まだ家督を譲られていない二十歳。
城のほど近くにある森にて狩りを楽しんだ。
狩りの途中で近習より姿を眩ませた重家は、森の中で偶然に出くわした一人の娘に乱暴を働き、果てはその命を奪うに至る。
ようやく姿を現した近習に対して娘の亡骸をあごで指し「始末しておけ」と顔色ひとつ変えず命じた。




