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この新手の敵が向けてくる異常な増悪の眼差しに、青葉は背筋が凍った。
「まだ居たか、雷組」
そう言った青葉の声は、やや震えていた。
「我の名は」
女がしわがれた声で言った。
「月影」
相手の名乗りには構わず、青葉が左手をすっと上に挙げる。
その掌中には先ほど二人のくのいちを倒した毒が握られている。
風下に居る月影に向けて毒を撒いた。
月影の動かぬ今は好機である。
月影から立ち昇る闘気が、屍を晒す二人のくのいちたちよりも、さらに腕前が上と語っていた。
おそらく青葉の技量では歯が立たない。
しかし自分には毒がある。
これを使えば格上の敵も必ず倒せる。
青葉は月影への恐怖を何とか抑え込み、己の勝利への道を模索した。
(仲間と同じ目に遭わせてやる!!)
青葉の必死の心の叫びを知ってか知らずか、月影はその場から動かなかった。
時が過ぎた。
二人のくのいちは、お互いにぴくりともしない。
(どうして…?)
青葉の心中は乱れ始めた。
掌中の毒薬は全て撒き終わった。
風下に立つ月影は、この毒を充分に受けたはず。
それならば当然、起こるべき月影の変化が。
何故か全く現れない。
これはあり得ざる事態であった。
青葉は自らの造った毒に絶対の自信を持っている。
独自の技術を用い、忍びの者たちの常である少量の毒物で身体を慣らし完全ではないものの手に入れる耐性すらも凌駕する特別こしらえの毒なのだ。
雷組のくのいち二人があっさりと身体の自由を奪われた事実が、その威力を証明している。
しかし今、青葉の目の前に立つ増悪の権化の如き女は。
「ぎゃはははは!!」
月影の両端が吊り上がった唇から、おぞましい笑い声が発せられた。
しかし青葉をにらみつける血走った双眸は毛ほども笑ってはいないのだ。
(そんな…馬鹿な…)




